グロービスで講師を務める鳥潟幸志氏は、社会人の学び直しのニーズが高まっていると指摘。鳥潟さんが事業リーダーを務める定額制動画学習サービス「グロービス学び放題」は、コロナ前と比べ有効会員数が170%に伸び、会員ひとりあたりの学習時間も180%ほどに増加したという。来たるべき「アフターコロナ」の時代、“ニューノーマル”の世界を見据え、今学ぶべきことは何か――。
本を持っているアジアの若い女性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/metamorworks)

スキルアップ、学び直し熱が急上昇

在宅時間が増えたことや、ビジネス環境の大きな変化から、スキルアップや学び直しへのニーズが大きく伸びています。アフターコロナに向けて、どんなことを学ぶべきでしょうか。7つのテーマをピックアップしました。

① 全てのベースになる「論理的思考力」

ビジネス知識のベースとなる論理的思考力は、オンライン時代ではより重要性が増します。自分の提案を相手に分かりやすく伝えるため、思考を整理し、体系立てて話すことを心がけましょう。そのために学ぶべきフレームワークはいくつもあります。

例えば「ピラミッド構造」というフレームワークでは、ピラミッドの頂上の位置に「結論」を置いて、それを支える「理由」などを挙げ論理を構築します。そういったことを意識しながら話すだけでも、アウトプットするものが確実に変わってくると思います。

② 「ビジネス定量分析」でデータを武器にする

論理を数字で裏付けする能力も求められます。例えば、取引先の実績を検証するときに、「このグラフは高い実績を出していることを示しているが、その理由には○○の影響があるのかもしれない」「顕著に出ている高い数字が全体を引き上げているのかもしれない」などと、ひとつのデータだけではなく対になるデータも見ることによって実態を把握する。そういったビジネス定量分析の知識があれば、数字を武器として生かすことができます。

③ 注目度急上昇の狙い目「ファシリテーションスキル」

いろんな人の意見を聞き、流れを整理し、結論へと導く進行役をファシリテーターと呼びます。リアルな会議においても上手なファシリテーションは必要でしたが、オンライン会議が増えることによって、ますますその大切さを痛感している人も多いのではないでしょうか。

自分の主張や提案を一方的に押し付けるのではなく、参加者に向かって「みなさん、どう思いますか」と語りかけ、それぞれの知恵を引き出す。

これまでのリアル会議では、上司がその役割を担ってきましたが、オンライン会議ではそれではうまく進まないケースをよく見かけます。管理職は事業全体をみて売り上げやコストなどいろんなことを気にしますから、その会議自体の趣旨からずれていってしまうことがあるのです。メンバーがオンライン会議中にそれを立て直すのは至難の業。ファシリテーターに任命された人が会議の目的を明確にしたうえで議論を始めたほうが、会議の時間を有効に使えます。

もし、自分がファシリテーターになった場合は、最初に「この会議の目的はAで、そのためにBについて話し合います。時間は45分です」というように宣言することで、会議が効率的になります。議論するうちに論点がずれ始めたら「ずれていますよね」とやんわり伝えるべきです。目的に沿っていない意見が出たときには「その視点はとても重要なので別途話し合いたいですね。今日の趣旨はAなので、いったん話題を戻させてください」とさりげなく誘導する。そういった柔軟なさばき方が求められます。これからは若い世代でファシリテーションができる人は重宝されるので、狙い目のスキルと言えます。

④ 使用頻度が急上昇「ビジネスライティング」

オフライン時代に比べると、テキストでのコミュニケーションが格段に増えました。そこで柔軟な「ビジネスライティング力」も必要になってきています。基本として相手に読んでもらえる文章を書ける必要があります。メールでの連絡では、これまでどおり提案や相談など、全ての事項をまとめて書いてもいいのですが、新しいビジネスツールであるSlackなどのチャットでは、一度に長いテキストを送るとびっくりされてしまいます。結論を先に書き、説明すべきポイントを箇条書きにするなどの工夫と段階を踏んだやりとりが必要です。たとえばステップ1で問題意識を共有し、相手が「そうなんですね」と理解して返してくれたら、ステップ2でさらに細かい説明をする。そうやって段階を踏み、“刻んで”伝えると、相手のコミュニケーションにおけるストレスを減らすことができます。

⑤ 「電話の使い方」を考え直す

「今更電話の使い方?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、メールやチャットなどのテキストだけでは伝わらないこともあります。特に上司に相談をするときは「電話にしようか」となることも多いでしょう。相談を持ちかける側としては、通話の数分間のためにしっかりと論点を整理し、音声だけでうまく伝えていくことが大事になり、その過程で論理的思考も磨かれるでしょう。

逆に、自分が部下や後輩から相談を受け、「これは電話の方がいいな」と感じたら、切り替えたほうが結果的にスムーズに進みます。インタラクティブに話さないと決まらないことや相手の中で結論は出ていないものの相談したいという懸案事項は、チームで仕事をする以上、どうしても発生するもの。そういう場合は、話を聞くだけでも部下は安心できると思います。

このようにコミュニケーションツールの使い分けを改めて見直し、効果的な使い方について実践の中で追求していく姿勢が重要になります。

⑥ 「マインドフルネス」でリモートワークでも集中

瞑想によって自分の内面と対話し心を整える。マインドフルネスは「今の瞬間に意図的にかつ判断や批判なく注意を向けることで浮かぶ意識の状態」と定義されますが、その状態を保てず、プライベートと仕事が一体化してしまうと、自分の気持ちが揺らぎ、気持ちが揺らぐと判断も揺らいで、結果的に仕事にも影響が出てしまいます。リモートワークで自宅作業が増えている今こそ、集中力を高めておきたいですね。瞑想と聞くと敬遠する人もいるのですが、マインドフルネスは既にビジネスに役立つものとして広く認められています。

⑦ 正しい「新規事業の立ち上げ方」

家電メーカーであるシャープがマスクを生産・販売しはじめるなど、これまでやってこなかった業種に踏み出す企業が増えています。ただ、新規事業は「会社にこういう強みがあるから、このビジネスならできる」というところから発想すると、たいていはうまくいきません。できるかできないかでなく、あくまで「提供しようとしている価値がユーザーに響くのか」ということをしっかり検証すべきです。新規事業を成功させるには洞察力や運も必要ですが、まずはそういったビジネスプランニングのやり方をきちんと学ぶこと。アイデア段階から正しいプロセスに沿って進めていきさえすれば、手痛い失敗はしません。

「ウィズコロナ」の時代、誰しもが「世の中が変わっていく中でどうすればいいのだろうか」という不安を抱えています。そんな中でこれらのテーマについて学ぶことは、ビジネスだけでなく、個人として生きていく上でもきっと役立つはずです。