ヨーロッパや中華圏など比較的男女平等感が進んでいる国でも、例えば金融の第一線はかなりマッチョな男の世界です。そんな生き馬の目を抜くような、厳しい外資系金融やビジネスでキャリアを積み、数千万から億単位の年収を手にしてきた海外ビジネスウーマンたちの生活とお金の使い方に迫ります。
高級ホテルのカメラにほほ笑むアジアのビジネスウーマン
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Enes Evren)

稼ぐ女性の旦那様はしっかりした“主夫”

シンガポールで、自分のファンドを運用するマレー系中国人アイリーンは、自分の稼ぎでスイスにスキー用シャレー、ロンドンのサウスケンジントンにフラット(マンション)、そしてシンガポールにはグッドクラスバンガロー(指定された地域の敷地が1400平米以上の高級住宅)と呼ばれる住宅を所有しています。

趣味はコーラス。実は私も同じコーラスグループに所属していますが、レッスンで一段上に行くためか、単に好きだからか、こっそり声楽の個人レッスンを受けているとのうわさ。いつもソフトな物腰の彼女ですが、この話を聞くと負けず嫌いなのかな、と思います。

高級会員制クラブなどのメンバーらしいですが、不思議とローカルしか行かない超激安スーパー(私も足を踏み入れたことがない)で食料品を購入しているようです。

子供はそれぞれスタンフォード大学、ケンブリッジ大学に進学。うわさではイギリスから住み込みの家庭教師を呼び寄せているとか。会うとクールな人柄ですが、時折、中華系タイガー・マザーの側面が見え隠れします。旦那様は同じく金融畑で働いているそうですが、彼女が稼ぎ頭で旦那様は子供の世話、不動産の管理、などなど主夫的な雑用をこなしてくれているようです。

もう一人、長男が通うイギリスのボーディングスクールのママ友の一人、ロシア人のエレナはモスクワで鉄道の線路などのインフラを政府に供給する会社を経営しています。うちの息子を含む何人かを、ある夏休みサンクトペテルブルクに招待してくれましたが、5時間待ちのエルミタージュ美術館の係員に一言告げると、皆で先頭に案内されたとか。地元ロシアでは有名なバリキャリ女性なようです。

彼女はお気に入りのオペラ歌手の歌を聴きに、1人で旅行するのが好きだとか。昨年の冬休みはニセコで合流し、一緒にスキー休暇をしましたが、北海道のパウダースノーに感動していた彼女。もしかしてもうコンドミニアムを購入しているかもしれません。自分が「いい!」と心を動かされたものにはお金を惜しまない少女のようなエレナです。

旦那様は公務員だそうで、稼ぎは彼女より少ないですが安定していてしっかりした旦那様がいつも地元にいてくれるのでエレナも奔放に旅行できるのでしょう。

突然のリストラ後、生活はどう変わるか

ただし、高いリターンにはどこの国でも高いリスクがつきもの。特に夫婦ともに高所得のケースであれば、リストラなど日常茶飯時、それを機に大きく生活が変わる人もいます。

北京大学→ハーバード・ロースクール→東大大学院という学歴を持つ中国人の弁護士ママ、シンディは子供が幼稚園時代のママ友。金融に勤める中国系アメリカ人の旦那様とともに日本に長く住んでいたため、日本語が堪能です。2人目の子供を出産後はしばらく働いていませんでしたが、旦那様のリストラを機にロンドンシティの法律事務所で働き始めました。「自分でお給料を貰うようになると、お金を簡単に使えない。稼ぐことが大変なことだとわかるから」と言っていました。

子供が小さい時は住み込みのナニーを雇い、お気に入りの版画家(日本をテーマにしたアメリカ人)の作品を年に何枚も買っていた時の面影はありません。旦那様の再就職が決まると、パートタイムで家庭と仕事とバランスを取っているシンディ。固さが消えて、柔らかくなったと周りの評判です。

リストラを逆手に、さらに成長する人もいます。アメリカの大手IT企業の東京支店でエグゼクティブとして働いていたカナダ人のベリンダもリストラされましたが、長年の東京在住歴を生かして、日本文化を外国人に紹介する観光案内に特化したWEBサイトを開設。ちょうど外国人の日本観光ブームにうまく乗り大成功しました。都内に中古ビルも購入し自宅スペース以外はAirbnbとしてやはり外国人観光客に貸し出しており、会社で働いていた時よりも少ない時間でお金が入ってくるようになったそう。彼女のマーケテイング能力には感嘆です。最近はコロナ自粛で自宅にいる時間を活用、自分たちのダイエットも兼ねてケトン(糖質制限)ダイエット料理のケータリングを始めたとか。

シンガポールで大手外資系金融のセールスチームのヘッドだった北アフリカ系フランス人のヴァネッサは、夫婦同時リストラから再スタートしました。同じく金融で大きく稼いでいたフランス人トレーダーの旦那様と、お互い銀行に勤める傍ら、バーやレストランを経営、自分のお客さんをそのバーに連れて行って接待するなど、シンガポール経済の上昇とともにかなりバブルな生活を送っていました。

ところが、その旦那様は数年前の世界を揺るがした金融不祥事事件で会社をクビになっただけでなく、裁判沙汰にまで発展。そして同時期に自分の働いていた部署の消滅でヴァネッサ自身もリストラされます。彼女は新しい仕事を探す一方で、一転、パーソナルトレーナーの資格と栄養士の資格を速攻で取得、自宅でトレーナーとして働き始めました。自分の元顧客の奥さんや、Facebookに出した広告等と口込みでたちまちクライアントは増え、エクササイズ、ダイエット指導の会社を設立、元々体を動かすのは好きだったようで、銀行の仕事よりも気に入っていると満足そうでした。

働かなくても生活は困らなそうな夫婦と思っていたのですが、旦那様の裁判に関わる弁護士費用が月々5000USドル(約54万円)、さらに再婚者である旦那様の前妻との間の2人の子供の養育費、ヴァネッサと2人の子供の学費、生活費など月々の出費は想像よりも多く、物価の高いシンガポールでの生活は厳しかったようです。

イギリスの裁判で有罪確定になった旦那様ですが、フランスから出国しない限り今のところ起訴されないという状況のため、家族でパリに戻ることになりました。シンガポールのメインストリート近くのファンシーな高級コンドミニアムから、旦那が独身時代に住んでいたパリの古いアパートに引っ越しです。アジアで集めた大きな家具や旅行先で買い求めた美術品などは、スペースの関係で売り払ったそう。最近は、ヴァネッサはトレーナーを辞め、スタートアップの会社で働き始めたようです。

バブルがはじけて地に足がついたヴァネッサ。負けず嫌いなのか前向きなのか、一切泣き言は言わず、常に前しか見ていません。実際はいろいろな苦労があるようですが。インスタグラムにはいつも笑顔で楽しそうなポストばかりです。

日本でも今回のコロナ自粛で、在宅での仕事に活路を見いだした方も多いのではないでしょうか。日本で私たちの親世代が頼りにしてきた終身雇用も過去のものとなりつつあり、一方で自分のアイデアひとつで起業が可能な時代になりました。

人生にアップダウンはつきもの。華やかな経歴であればあるほど、支出も大きくなり、成功報酬が桁違いの外資系では、リストラに合う確率も段違いに高くなります。それでもパートナーと手を取り合い、リスクを恐れず常に前を向いて進んでいくことがビジネスウーマンとしての人生の成功の決め手でしょう。