今回の新型コロナウイルス問題を機に、初めてリモートワークを経験したというビジネスパーソンも多いはず。「苦手な人と離れられて楽」「通勤時間がない」「家族との時間がとれる」……、リモートワークには多くのメリットがある一方で、デメリットもあると指摘するのは、精神科医で産業医として活躍されている井上智介さん。そんなリモートワークの落とし穴について解説していただきました。

リモートワークのデメリットを克服する方法

リモートワークは、もともとやりたかった人にとってはメリットが大きいかもしれませんが、今回の新型コロナウイルス問題で、心の準備ができていないまま、突然に始まった人にとっては、むしろデメリットになることも考えられます。そのデメリットは次の5つです。

①孤立感が強くなる

一人暮らしの人はオンライン会議などがなければ、一日じゅう誰ともしゃべらないということもざら。そうすると自分がどこの会社にいるのか、どこに居場所があるのかわからなくなり、うつ状態になる恐れがあります。孤立感や孤独感で精神がやられてしまう前に、会社の人と密に連携をとることが必要になります。

Zoomでの取材に応じてくれる金髪アフロの精神科医・井上智介先生
Zoomでの取材に応じてくれる金髪アフロの精神科医・井上智介先生

まさに密に連携をとるということは、産業医としてリーダーの方に強くお願いしたい点です。できればface to faceでつながれる環境をつくってほしいんですね。たとえばオンライン会議。プライバシーもあるので、カメラをオフにしている人もいますが、「人の顔を見るだけで安心する」ということもありますので、カメラは双方が必ずオンにして顔が見えるようにしてほしい。“顔が見えるつながり”というのは、本当に大切なのです。

オンとオフの切り替えをしっかりして

➁生活リズムが乱れる

リモートワークによって通勤時間がなくなると、起きる時間が遅くなる、そうなると寝る時間が遅くなる……と、生活リズムが乱れがちに。生活リズムが乱れると、当然体調をくずしてしまうので、生活リズムをしっかりと整えることは重要です。

そのためには、朝一番に日光を浴びること。朝日を浴びると、体内時計がしっかりとリセットされます。ポイントは、体ではなく顔いっぱいに浴びること。顔に2、3分太陽を浴びると脳に届きますから、まずは、それをしっかりと実践しましょう。

➂オフとオンの切り替えが難しい

今回、急にテレワークがスタートした人にとって、本当に難しいと感じたのは、オンとオフの切り替えではないでしょうか。特に子どものいる既婚女性は、妻の顔と母の顔がある家庭に、キャリアウーマンの顔が加わり、それを短時間でコロコロ変えなくてはいけなくなりました。これはすごいストレスなんです。

職場に子どもが来たら仕事に集中できないのは当たり前の話で、それがまさに今起こっているわけですよね。ですからオンとオフの切り替えは、かなり意識したほうがいいでしょう。

おすすめしているのは“身なりをととのえる”ということです。家なので、化粧もせずにパジャマでできるかもしれないけれど、やはり仕事をするときは、化粧をして髪の毛をととのえ、服も着替えてほしい。身なりをととのえることで初めて、オンとオフが切り替わるのです。

これは男性の話ですが、家で仕事をするときは、新品の靴をはいているという人がいます。確かにオフィスで仕事をするときは靴をはいていますから、靴をはいているときは仕事モード、そして靴を脱いでいるときは家モード、そこを自分のスイッチにしているのです。そこまで真剣にやらないと、空気にのまれてしまうということを知っておいてください。

就寝2時間前にデジタルオフ!

④デジタルに触れすぎる

リモートワークになると、オンライン会議やメールのやりとりなど、どうしてもデジタルと向き合う時間が長くなります。休憩中も動画を見たり、ネットサーフィンしたり、気がつくと一日じゅう、パソコンやスマホを触っていたということも。

デジタルに触れすぎると、目の疲れはもちろん、眠れなくなるのも心配です。というのも、ご存じの方も多いように、パソコンやスマホから出るブルーライトが、睡眠に関わるホルモンの分泌を妨げるからです。

そのホルモンは2つあります。ひとつは夕方になると分泌され、自然な眠気を誘発する“メラトニン”。ブルーライトを浴びると、このメラトニンが減るため、夜になっても眠気が来なくなります。もうひとつの“コルチゾール”は、メラトニンの分泌後、深夜から朝にかけて分泌量が増えて覚醒させるホルモン。しかし夜中にブルーライトを浴びると、コルチゾールが出て元気になってしまう。起きるモードになってしまい、やはり眠れなくなるのです。

ですから、理想は就寝2時間前にパソコンやスマホはオフにして触れないこと。100歩譲って1時間前。それぐらいの覚悟が必要です。

⑤仕事に追い込まれる

24時間仕事をしようと思ったら、できてしまうのがリモートワーク。残った仕事が気になるとか、ついでにここまでやってしまおうとか、誰かが止めてくれないと寝る時間を削ってまでズルズルと仕事をしてしまうことがあります。自分でコントロールできずに、仕事に追い込まれている状況ですね。

そうやってズルズルと仕事をしていると、逆に集中力が落ちてしまいます。集中力を保ちながら仕事をする方法として、よく知られているのが“ポモドーロ・テクニック”。作業を25分続けたあとに5分の休憩をとり、それを最大4セット続けるという時間管理術です。そういうテクニックも駆使しながら、メリハリをつけて仕事をしてほしいですね。

部下の異変に早めに気づくには、ここをチェック!

実は上司として心配なのは、サボるタイプよりも真面目タイプの部下。つい一人で仕事を抱え込んでしまい、やがて体調を崩してしまうからです。

仕事を抱え込むと睡眠不足になりますから、職場で顔を合わせていれば、遅刻気味になたり、身なりが整っていなかったりして、早い段階で異変に気づくことができます。しかしリモートワークだと、そういったちょっとした変化に気づきにくい。大事になってからようやくわかることがあるので、上司としては気をつけたいですね。

リモートワークでも、そういった異変に早く気づくには、時折、部下に仕事への意欲を聞くことです。どういうことをやっていきたい? これはどう思う? と声掛けして、本人の気持ちを引き出していくとよいでしょう。

そして判断能力をチェックすることも重要です。部下が、タスクの優先順位がつけられなくなってきたら、判断能力が鈍っているサイン。ストレスがかかっているので、フォローを入れたほうがよいですね。

アフターコロナは、あわてず、焦らず、つながりを大切に

今後、新型コロナウイルス問題が収束しても、会社の業績が悪化したり、ボーナスが削られたり、ネガティブなニュースが出てくることが予想されます。リモートワークの影響などで4月の自殺者数が前年より約20%下がったと言われますが、この先はまた増える可能性が大いにあります。

そこで大切なのが「みんなで乗り越えよう」という感覚。それこそ会社の業績を見て、仕事に対する意欲を失ったり、会社を辞めることを考えたりする人が出てくる恐れがあります。リーダーが積極的に声掛けすることが、精神的なつながりをつくりますから、そこは意識してやっていただきたいですね。

こういうときこそ「あわてず、焦らず、つながりを大切に」してください。こういった非常時には退職や転職など、すぐに目に見える結果が欲しくなります。あるいは終わらせたという結果がほしくて、自殺を考えてしまう人もいます。そうではなくて、まずはあわてず、焦らず、ゆっくり時間をかけて考えてやっていこうと。そして一人ではないということ。つながりを大切にして、リーダーの方にはみんなで乗り越えていけるように導いてほしいと思います。