男女トラブルを専門に扱う行政書士の露木幸彦さんのところには、2月中旬以降、離婚に関する女性側からの相談が急増していると言います。相談の実例を紹介しながら、今、夫婦関係をどのように見直していくべきか考えます。
不幸なリビング ルームで彼氏と議論した後怒っているアジアの女性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/tuaindeed)

妻からの相談依頼が急増

2月から日本でも始まったコロナウイルスとの戦い。それは一部の女性にとって「夫との戦い」の始まりを意味していることが分かりました。先日、一部の地域を除き、緊急事態宣言が解除され、ようやく出口は見えてきましたが、いわゆる「コロナ離婚」の相談件数は減るどころか増えるばかり。コロナショックにより変貌した私たちの「新」生活様式は、夫婦間の意識の差を浮き彫りにしました。例えば、自粛要請に伴う自宅勤務、職場休業による収入減、帰国者隔離で一家離散、休校中の育児で職場復帰を断念……。

目まぐるしい変化によって生じたのは夫婦間の溝です。筆者はコロナ発生から3カ月間、家庭が壊れていく様を現場で目の当りにしてきました。筆者は夫婦の悩み相談を専門に行っていますが、コロナ前の男女比は6:4。しかし、コロナ後は1:9です。

自粛中に寂しさが限界に達した愛人女性が「奥さんと離婚してくれないと別れる!」とヒステリーを起こし、夫(彼氏)が妻に対して渋々、離婚を切り出した。そんな卑怯極まりない男性を除き、他はすべて女性からの相談です。例えば、物資の買占め、自粛の無視、感染予防の非協力などによって配偶者の「本当の姿」が明らかになったとき、別れを決断することを「コロナ離婚」と呼びます。

ウイルス封じ込めにより発生した格差……具体的には休校の有無による学生の学力格差、自粛対象の有無による業種間の経済格差、マスク調達の有無で生じる感染リスク格差が妻の不満を助長している印象です。

看護師として命がけで働いているのに、家事すらしない夫

コロナ離婚の第一波がやってきたのは2月中旬。まず相談に来たのは医療従事者でした。1人目の相談者・二梃木柚葉さん(42歳・仮名)。「コロナで大変なときなのに……夫には幻滅しました」と嘆きます。柚葉さんは都市部の総合病院で働く看護師で休みは平日。一方の夫(41歳・結婚3年目)は接客が伴う事務職で土日が休み。「結婚当初から夫は家庭のことに非協力的でした。平日はともかく週末は家にいるんだから家事をやって欲しいですよ。最悪なのは夜勤明け。くたくたで帰ってきたのに、昨日の洗濯物の山積みを見ると殺意が湧きます!」と訴えます。

柚葉さんの勤務先は感染者の受け入れ先。院内感染のリスクを顧みず、まさに命がけで働いたのですが、一方の夫はどうでしょうか。3月上旬にはテレワークへ移行。出勤せず、最低限の仕事を自宅のパソコンで行うだけ。「結婚する前は優しかったんです。コロナで大変なんだから、少しは心配してくれるかと……」。柚葉さんは淡い期待を抱いていたのですが、終日、自宅待機の夫は体力や時間、やる気を持て余しているのに相変わらず家事を丸投げ。

背中を押した出来事

3月中旬、柚葉さんは夫の車に積まれたスキー道具一式を発見。「まだ営業しているスキー場を見つけたから」とあっけらかんとする夫。柚葉さんもさすがに堪忍袋の緒が切れ、「あんたの行動はおかしくない? 感染しても症状が出ない人だっているんだよ……あんたがウイルスを持ち込んで感染させたら責任をとれるの?」と窘めたのです。しかし、夫は悪びれずに「自粛、自粛って何なんだよ? うつるかどうかなんて運だろ?!」と反論。挙句の果てには「何を言うんだ。お前、感染しているんじゃないか? こっちに来るなよ!」と言い放ったので柚葉さんは言葉を失ったそう。さすがの夫もスキー旅行を取りやめたようですが、すでに手遅れ。

「もう終わりだと思いました。コロナが落ち着いたら離婚しようと思っています」

柚葉さんは涙声で言いますが、筆者は「旦那さんは都合のいい存在としか思っていなかったのでは」と背中を押しました。いつどこでウイルスに感染し、重症化し、命を落としてもおかしくない状況下です。筆者が「限られた人生をどのようにしたいですか?」と投げかけると柚葉さんは「自分らしく生きたいです!」と答えました。

妻が爆発するタイミングは早まっている

世の妻が非家庭的な夫を許してきたのは十分な生活費を渡してくれたから。コロナショックは経済的な打撃も甚大です。例えば、職場休業による給与カット、在宅勤務による残業代カット、本社倒産による外資系企業のリストラなど。妻の頬を札束で引っぱたくことを繰り返してきた夫の収入が大幅に減ったら、どうなるでしょうか? 金の切れ目が縁の切れ目。生活費を減らされるなら、これ以上、我慢したくない。妻は怒りの限界に達し、結婚生活を続けることをあきらめ、離婚へ踏み出すのです。しかもコロナによって妻が爆発するタイミングが早まっているのです。

禁煙を約束したのに……

次に襲ってきたのはコロナ離婚の第二波。4月になると医療以外の職業の女性が相談しに来るようになりました。相談者・山本胡桃さん(38歳・会社員・結婚10年目)は「私が感染し、死んでもいいと思っているんじゃないかしら!」と声を荒げます。

致死率が高いのは喫煙者というニュースを胡桃さんが目にしたのは4月上旬。胡桃さんの夫はヘビースモーカー。「いつどこで感染するか分からないでしょ? 煙草をやめてください」と頼んだところ、夫は「ああ、わかったよ。こんなご時世だからな」と二つ返事で承諾したのですが……それから3日後。胡桃さんが帰宅すると部屋中に煙草の煙が。「禁煙するって約束だったでしょ!」と詰め寄ったところ、夫は「お前の前で吸わなきゃいいんだろ?!」と反論。胡桃さんは夫を再度、説得するのをあきらめ、空気清浄機を各部屋に設置したそうですが、それだけで終わりませんでした。

胡桃さんは「夫にうつしてはいけない」と思い、帰宅すると手を洗い、うがいをし、衣服をはたき、そして在宅中もマスクを着用しました。そして夫にも同じことをして欲しいと頼んだのです。「外から帰ってきたら、ちゃんとしてね」と。

「俺のことを馬鹿にしているだろ? 上から目線で気に入らない!!」

長年連れ添った夫婦間で気持ちを伝えるのは恥ずかしくて素直になれないのでしょうが、コロナウイルスという人生最大級の危機に遭遇してなお、夫は意地を張ったので胡桃さんは呆れて物も言えなかったそう。

「うちは親から『自分さえ良ければいい』という考え方はいけないと教わりました。主人は違うみたいです。主人といると息子(6歳)まで自己中な人間になりそうで怖いんです!」と胡桃さんは言います。5月中旬、家庭裁判所から調停の申立書を取り寄せたのが、筆者が把握している胡桃さんの近況です。

コロナ離婚を避けるためにできることはあるか

「コロナ離婚」の相談をしに来る妻に共通しているのは夫に対する期待値が高いことです。例えば、夫は「自分のことを第一」に動くのが当たり前だと思っている節があるので、夫が少しでも感染予防を怠るとヒステリーを起こします。

このように感染対策を人一倍、頑張っている自負がある妻は危険です。夫も「同じくらい頑張ってくれるはず」と決め付ける傾向があります。そのため、夫の頑張りが足りないと歩調を合わせるつもりがないと感じるのです。でも思い出してください。今までの結婚生活でも夫と話し合い、意見を言い、結論を出してきたのなら、今回のコロナでも夫は期待に応えてくれるでしょう。しかし、これまで夫とまともに話さず、勝手に決め、事後報告してきたのに今回だけ特別というのは無理があります。

コロナ離婚を防ぐには自分は自分、夫は夫のペースがあることを理解し、相手のことを尊重し、そして期待しすぎないことが大事です。

夫婦関係を見直す4つの質問

今回のコロナショックは結婚生活を見直すきっかけになるでしょう。

まず問題への取り組み方に疑問点はなかったでしょうか? コロナ発生から現在まで様々な問題が起こりました。夫婦の間で話し合い、意見を言い、結論を出すことができたのなら良いですが、話が通じず、何を考えているか分からず、喧嘩してばかりだとしたら、今後も夫婦の関係は悪化の一途を辿るのは明白です。

次に危機的な状況でも夫への信頼は変わりませんか? 危機的な状況に陥ると、化けの皮がはがれ、本性が丸出しになるものです。例えば、物資の買占め、自粛の無視、偽情報の入手など夫の醜い部分を目の当りにした場合、それでも信用できますか?

そしてこれからも起こる様々な問題に対して、夫とともに乗り越えていきたいですか? コロナ危機の長期化に伴って、2月の時点では想像だにしなかった別の問題が次々と発生しています。夫は足手まといだと感じ、自分でやったほうがいいと思いますか?

最後に限りある人生で配偶者は最良のパートナーでしょうか? 老若男女を問わず、コロナウイルスには死亡リスクがあります。感染経路が不明な患者が増えているので、もはや完全に安全な場所はなく、どこで感染してもおかしくありません。思わぬ形で命を落とす可能性があることを踏まえ、今後の人生をどのように過ごしたいのかを再考しましょう。隣にいるのは誰が良いですか? 今一度、胸に手を当てて自問自答してみてください。