プレジデント ウーマン オンラインでは、緊急事態宣言後の読者の働き方や生活がどのように変化しているか、調査を実施。ほぼ毎日在宅勤務をしている人が35.3%に達し、週に1~3回の15.2%を含めて過半数が在宅勤務を実施していることがわかりました。このうち、コロナ収束後もテレワークを続けたいという人が6割超えに。ただし、緊急時対応としてテレワークを実施している企業が多いため、継続には会社への働きかけが必要……。どうすれば社内でテレワークを推進できるか、心理学者の内藤誼人さんに説得術を学びます。
京都で屋外でラップトップを働く2人の日本のビジネスプロフェッショナル
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Boogich)

「今でしょ!」

コロナ収束後にも、テレワークをつづけたい人が6割を超えるということが調査でわかりました。そこで、テレワークを今後もずっと維持していくための社内説得テクニックをお教えしたいと思います。

社内説得で大切なのは、まず何よりも、タイミング。

「鉄は熱いうちに打て」ということわざがありますが、説得にもこの原理は当てはまります。ようするに説得の時期を間違えてしまうと、簡単な説得も困難になってしまうということです。

では、テレワークを維持するのに社内説得する絶好のタイミングはいつなのでしょうか。答えは、もうわかりますね。「今でしょ!」(少し古いネタですが……)なのです。コロナの影響もあって、「うちの会社でも、テレワークが、絶対に、絶対に、絶対必要不可欠!」というニーズが高まっているのは、まさしく“今”なんです。このタイミングで社内説得しないで、いつ説得できるというのでしょうか。

超保守的な偉い人たちを説得するのは今しかない

もしかりにコロナが急激に収束して、以前の状態に戻ったとしましょうか。そうなってから、「テレワークを認めてほしい」と経営陣を説得するのは大変ですよ。タイミングを逃してしまって、テレワークの必要性が急激にしぼんでしまっているからです。

もともと組織の上層部にいるような人たちは、ものすごく保守的な人たち。ですから、「テレワーク」と聞くと、本能的に、仕事をサボろうとしているんじゃないかとか、仕事の手を抜くんじゃないかとか、会社の生産性が落ちるんじゃないかとか、いろいろと心配して、結局は「テレワークの導入、見送り」という決断をしがちなのです。もともと保守的なので、新しい取り組みはできるだけ避けたい、という心理が働くのです。

ですから、テレワークを今後も維持したいのであれば、社内決裁をとるのは今のタイミングをおいて、他にないのです。

今一番、社内決済がとりやすい案件

コロナの拡大は、本当に悩ましいですし、だれにとっても不愉快なことですが、テレワークを推進する絶好のタイミング、という観点からすれば、コロナにもほんの少しはいい点もあるということでしょうか。

説得は、タイミングを外すと、絶対にうまくいきません。たとえば、「職場の人間関係を円満にするために、社内旅行や、忘年会などのイベントを増やそう!」というのは、ある意味で、正しい意見ですよね。

けれども、そういう社内説得をするには、時期が悪すぎます。「コロナのせいで会社の業績が悪化しているうえ、三密を避けなければいけないときに飲み会をやろうだなんて、お前は何をバカなことを言ってるんだ!」と怒鳴られてオシマイです。

その点、今の状況なら、「テレワークを今後も維持してください」というお願いは、ものすごくハードルが低くなっています。つまりは、“社内決裁がとりやすい案件”という、ありがたい状況にあるわけです。調査では、今後もテレワークを続けたい人が多いということですので、「それならすぐに社内決裁をとったほうがいいよ」とアドバイスしておきましょう。

イラストや写真をうまく使ってみる

さらに社内説得を成功させるためのテクニックもお教えしておきます。会社や上司に提出する「テレワーク維持」の依頼書や要望書や嘆願書を作るときには、その書類に、イラストや写真をたくさん使うといいですよ。

テキスト(文字)だけでなく、書類の余白には、テレワークで頑張っている人の姿とか、生産性が右肩上がりになっているグラフのイメージですとか、そういうビジュアルをバンバン載せておくのです。実際にテレワークしている社員の現物写真を使うのもいいですね。

単純にテキストだけで必要性をアピールしても、なかなか人の心は動かせません。

ところが、映像イメージがあると、説得効果はすぐにアップさせることができます。簡単なやり方ですよね。文字を書くのが苦手な人なら、なおさら役に立つ心理テクニックです。

カリフォルニア州立大学の学生を対象にして行われたケイラ・フリードマンの実験をご紹介しておきましょう。

フリードマンは、学生に木材クリーナーの製品をお試しで使ってもらうという実験をしてみました。製品には、「吸い込むと危険なので、マスクを着用」という警告文が書かれていました。ところが、テキストのみ(文字のみ)の場合には、マスクをきちんと着用したのは27%にすぎませんでした。

一方、警告文の隣に、「マスクをつけた人」のイラストを載せておくと、何と指示に従った学生が42%に増えたのです。まさにイラスト効果ですね。

社内でテレワーク維持の説得をするときには、イラストや写真も使いましょう。そういうものがあるだけで、意外に説得効果はアップするものですよ。

(参照)
Friedmann, K. 1988 The effect of adding symbols to written warning labels on user behavior and recall. Human Factors ,30, 507‐515.

伝え方を変えて、「2度」同じ説得をする

テレワーク維持を訴えるときには、1回でなく、2回やるといいですね。説得というのは、何度もくり返せばくり返すほど、基本的には、うまくいくものですから。

とはいえ、「テレワークつづけさせて!」「テレワークつづけさせて!」と連続で2回言っても、上司にはあなたが駄々をこねているようにしか見えません。もうちょっと頭を使いましょう。

簡単なのは、伝える手段を変えることです。たとえば、日中に、対面でお願いをしたら、夕方に、今度はメールで同じお願いをするとか。あるは前日にメールでお願いして、翌日には、電話で同じお願いをするとか。このようなやり方で2回、説得を行えば、うまくいく可能性も高まることが期待できます。

くどさを感じさせない“2重説得”のやり方

テキサス大学のケリー・ステファンズは、148名の大学生に、大学の就職支援サービスを受けるように説得するという実験を行ったことがありました。すべての学生には、2回、サービスを受けるよう説得メッセージが伝えられたのですが、その伝え方を変えてみたのです。ステファンズが設定した実験の条件はこんな感じです。

メールで説得 → もう一度メールで説得
対面で説得 → もう一度対面で説得
メールで説得 → 対面で説得
対面で説得 → メールで説得

実験の結果、「メールで伝えてまたメール」や「対面で伝えてまた対面」というやり方では、あまりうまくいかないことがわかりました。“くどい”と思われたのです。その点、一回目と二回目の伝える手段を変えたときには、説得効果は高まりました。説得では、くり返しが大切なのですが、その伝え方に変化というか、バリエーションをつけることが大切なのですね。

コロナが収束しても、テレワークをつづけたいという人は数多くいらっしゃると思います。ここで紹介するようなテクニックを使いながら、今のうちに社内決裁をとってしまうことをおススメします。

(参考)
Stephens, K. K., & Rains, S. A. 2011 Information and communication technology sequences and message repetition in interpersonal interaction. Communication Research ,38, 101‐122.