過去最低で、主要先進国の中で最下位。世界経済フォーラムが昨年2019年12月に発表した「ジェンダーギャップ指数」で、日本は153カ国中121位と、前年の110位からまた大きく順位を落とした。なぜ日本企業のジェンダーダイバーシティは、遅々として進まないのか。ジョンソン・エンド・ジョンソンやカルビーで、女性の登用を推進しながら業績面でも大きな成果を残した“ミスター・ダイバーシティ”松本晃さんに聞いた。

こんなに一生懸命やっていない国はない

121位というランキングですが、日本はまったく女性活用が進んでいないかというとそうではない。進んではいるけれども、海外と比べるとどんどん遅れて差が開いているということです。ほかの国はもっともっと一生懸命やっていますから。こんなに一生懸命やっていない国はない。ランキングが落ちるのは当たり前です。

ラディクールジャパン 代表取締役会長CEO 松本 晃さん
ラディクールジャパン 代表取締役会長CEO 松本 晃さん

僕はダイバーシティ関連の講演会によく呼ばれるんですが、そこでは次のような話をします。

「ここには、今の日本の女性たちの状況を変えたい人が集まっているけれど、あなたたちには今の状況は変えられません。変えることができる力を持った人はここには来ない。夜、銀座に行けばいっぱいいるし、週末ならみんなゴルフ場にいます。変えることができる人たちが、まったく変える気がないんです」

“彼ら”が現状を変えようとしない理由3つ

意思決定をする力を持つ“彼ら”はなぜ、日本のダイバーシティを本気で変える気にならないのか。大きな理由は3つあります。

1つ目の理由は、女性を登用したら男が損をするからです。例えば今、男性の部長が10人いるとして、「女性を部長にする」からといって部長のポストが20になったりはしません。女性を部長にすると、その分、部長のポストを取られる男性が出てきます。人間、損をすることに反対するのは当たり前です。

2つ目は、いくら表面上「女性活躍を推進します」と言っていても、実は優先順位は低いままだからです。そもそも、あまり重要だと思っていないわけです。安倍晋三首相も、女性活躍を謳ってはいるけれど、実際のところ、多分やるべきことの優先順位が1位や2位にはなっておられないでしょう。憲法改正や経済政策に比べるとずーっと下。もちろん、全くやっていないわけではないですが、やっぱり後回しなんです。

3つ目は、“異物”が入ると不愉快だからです。男性10人で話しているところに女性が1人入ると、男性の方は、何となく自由にものが言えなくなってしまいます。特に猥談なんてそうですが、猥談でなくてもそう。逆も同じです。女性ばかりのところに男性が1人でも入ると、女性たちは話しにくくなるでしょう。

このままでは普通以下の国になる

けれども、もはやそんな理由でダイバーシティの推進を滞らせている場合ではなくなっています。

1990年代までは、「日本人」「男性」「シニア」「一流大学卒」の人たちだけで世の中を回していて、うまくいっていました。しかしその後はまったくうまくいっていない。平成の30年間は日本が凋落した30年で、まだ落ち続けています。昭和の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代から「普通の国」になり、今や「普通以下の国」になろうとしています。

90年頃に世界のパラダイムががらりと変わったのに、日本だけが変われなかったのです。しかも、パラダイムが変わったことにすら気付かない。原因のすべてとは言いませんが、ダイバーシティを進められなかったことが、この凋落の大きな理由でしょう。

日本が相変わらず「日本人」「男性」「シニア」「一流大学卒」で回している間、海外は必死でダイバーシティを推進して成長してきました。ダイバーシティ推進をやらなくても成長できるのなら、やらなくてもいいかもしれません。でも、やらないと成長できないんです。人口の半分は女性ですから、女性を活用しないでうまくいくわけがありません。女性かどうか、障がいがあるかどうか、LGBTかどうか、そんなことはビジネスにおいて何の関係もない。企業にとっては、成果を挙げてくれれば誰でもいいはずなんです。

「日本人の男性だけ」のチームではもう勝てない

昔、プロ野球の読売ジャイアンツは、オーナーの方針で「日本人の男だけでやる」という時代がありました。それで強かった時代は、日本人選手だけでもよかった。しかし今、そんなことを言って外国人選手を取らないでいたら負けてしまいます。負けたら観客が入りませんから商売になりません。

昨年(19年)ワールドカップで盛り上がったラグビーも、日本チームにはたくさん外国人選手が入っていました。それで強くなってベスト8に入ったのですから誰も文句は言いません。一方で、もしも「日本人オンリー」にしていたら代表チームに入れたのに、外国人選手が入ったがために外れてしまった日本人選手はいるわけです。日本企業のダイバーシティ推進の足をひっぱる男性は、そこで代表にしがみつこうとする選手のようなものです。そのせいでチームが弱くなっても「それでもいい」としがみつくのは、スポーツの世界でもビジネスの世界でも許されるべきことではありません。

例えばアメリカの会社のCEOを見ると、女性も外国人もいろいろいます。性別も国籍も、誰も気にしません。これは優秀な人を入れないと勝てないからであって、そのことをよく理解しています。

僕が何のためにダイバーシティを推進してきたかというと、推進しないと会社が成長しないからです。ジョンソン・エンド・ジョンソンにいた時も、カルビーにいた時も、会社の業績は大きく伸びましたが、その大きな理由の一つがダイバーシティです。

トヨタの次期社長を女性にすれば、日本は変わる

日本のダイバーシティを変えるうえで、一番問題なのは大会社です。ここが変わらないと日本は変わりません。カルビーくらいの規模の会社が変わっただけではダメなのです。

例えばトヨタ自動車くらい影響力があり、典型的な日本の大会社が変わらないと。それも、「常務が1人女性になりました」という程度でお茶を濁すくらいでは足りません。トヨタ自動車の次期社長に日本人女性がなる。それくらいやれば、日本企業は横並び意識が強いので、変わってきます。

GM(ゼネラルモーターズ)の社長は今や女性です。かつて世界の自動車市場で最大のトップだったGMにできているんですから、トヨタ自動車にできないはずはありません。

日本のダイバーシティの推進役になるのは、日産自動車でもいいと思います。僕はうまくいっていない会社を再生するのは好きですから、日産自動車のトップなら、声がかかればやりますよ(笑)。勿論、そんなことはあり得ませんが。日産自動車のトップを女性にしたら会社は急回復するかもしれませんよ。