今回のテーマは若者のお金観。かつては男性が出すことが多かったデート代や食事代も、今は完全にワリカンという若者が多数派のよう。相手の懐具合への気遣いからか、それとも平等意識が高いからか──。若者たちが支持する「完全ワリカン」の裏に隠された意外な本音に、原田曜平さんが迫ります。
座談会メンバー
井上 雄仁くん/法政大学3年生。バイト収入約7万円。支出は食費、交通費、生活費等で約5万5000円。男性
山田 修平くん/法政大学3年生。バイト収入約7万円。サブスク、交際費、サークル費用等でほぼ全額を使う。男性
丹羽 明日香さん/早稲田大学3年生。仕送り収入のうち小遣い約7万円。外食費、交際費、化粧品等でほぼ全額を使う。女性
塩田 亜多夢くん/慶応義塾大学3年生。バイト収入約10万円。映画鑑賞や飲み会代などの交際費でほぼ全額を使う。男性
長谷川 優真さん/早稲田大学3年生。バイト収入約8万円。支出は生活費、交通費等で約5万円。奨学金返済用に月1万円を貯金。女性
浅見 悦子さん/青山学院大学4年生。バイト収入約8万円。外食や飲み会代などの交際費、交通費でほぼ全額を使う。女性
※収入・支出額は1カ月平均。

異性との食事はワリカンが多数派

【原田】僕たちの時代は、女の子と2人で食事に行ったら男性が全額出すのが普通だったけど、今はどうなんだろう。僕の独自調査では、異性に対して自分が多く支払いたいと答えた男子大学生は半数以下でした(図表1)。みんなは、同世代の異性と食事に行くとしたら全額おごるのか、おごられたいのか、それともワリカンなのか。理由も含めて教えてくれるかな。

【山田くん】僕は3分の2を出すようにしています。例えば合計額が3000円だったら、女子からは1000円だけもらうとか。全額出すとかえって気を遣わせちゃうので、少しだけ多めに出すのが、男らしさも気遣いもあっていいかなと思います。

【井上くん】僕は完全にワリカン派です。実際、食事でも飲み会でもワリカンがほとんどで、周囲の友人も同じですね。相手が同世代だったら全額おごるのは違和感があるし、少し多めに出すのも「何でその配分?」って互いに疑問が浮かびそうです。ワリカンが一番気楽じゃないですか。

異性に自分が多く支払いたい人の割合

【塩田くん】僕もワリカン派です。男女関係なく、できるだけフェアに行きたいですよね。でも以前、女子から「私はメイク代にお金がかかるんだから、食事は男子がおごって当たり前」って言われたことがあります。思わず納得しかけたけど、よく考えたらおかしいなと。

【原田】すごいね、その女の子はおごってもらうことに対して理論武装しているわけだ。僕が若い頃は、そんな理屈抜きに「男性が出して当然」という態度の女性も少なくなかったよ。おかしいなと思いつつ、そんなもんだと自分を納得させていたんだよね。3分の2を出すっていう意見はどう思う? 女子は微妙な表情をしていたみたいだけど(笑)。

「3分の2出す」が女子に不評の理由

【浅見さん】うーん、3分の2を出して男らしいって言われても、正直ピンとこないです。それなら、男らしさなんて考えないでワリカンにしてくれたほうがいいな。全額おごってくれるかワリカンか、どっちかがいいです。

【長谷川さん】私も同じです。3分の2って配分の理由がよくわからなくて、あまりうれしさを感じないかも。ワリカンじゃないなら全額出してくれたほうが、気遣いや男らしさを感じます。

「3分の2出してくれてもあまりうれしくない」と口をそろえる浅見さん(右)と長谷川さん(左)。

【丹羽さん】同じです。でも、私は相手が同世代なら絶対ワリカンがいい。全額おごってもらうのはちょっと……。気を遣うっていうより“パパ活”っぽくてイヤですね。

【原田】3分の2を出す案は、女子からは不評みたいだね。山田くん、そう言われてどう思う?

【山田くん】それがいいと思ってやってたんですけど……あれ、おかしいな(笑)。ちょっと考え直したほうがいいかもしれないです。

「お会計」が面倒な時代になっている

【原田】でも、だからと言って全額出してほしいと思っているわけじゃなくて、女子も基本はワリカンと考えているわけだ。塩田くんの話のように、おごってもらうなら理由が必要だと思っているのかな?

【浅見さん】確かに、理由もないのに毎回全額出してくれたら、悪いなと思っちゃいます。だから、おごってもらうのも時と場合によりますね。例えば、相手の家の近くで会った時に「今日は交通費をかけてこっちに来てもらったからご飯代は出すよ」って言ってくれたら、心遣いのある素敵な人だなと思います。そんな事情もなく、「とりあえず全額払っておけばいいや」っていうのはイヤかな。

【原田】今、正社員同士で比べると女性の給料が男性の約7割。いまだに賃金格差はなくならないけど昔はもっと差が大きかったから、男性が出して当たり前だったのかもしれない。今後収入の差がさらに縮まっていけば、おごったりおごられたりする理由は、浅見さんが言う「心遣い」か、塩田くんの話にあった「理論武装への答え」のどちらかになりそうだね。だとすると、そんな余計なことを考えずに済む分、単純におごっておけばよかった時代のほうが気楽だったかもしれない。

【塩田くん】心遣いも理論武装も面倒くさいですよね。やっぱりワリカンが一番気楽だと思います。ただ、相手も同じ考えだとは限らないところが難しいです。「どっちがどのぐらい払うのかな」って思いながら食事したくないから、先に食券を買うような店だったら最高かな(笑)。

【原田】「男が全額出して当然」という時代は終わりつつあるけれど、まだ過渡期ということなのかな。皆、気遣いとして3分の2を払ったり、相手との関係性やワリカン派かどうかを考えたりしているわけだからね。でも、女子はおごってもらうのが当たり前だった時代に比べて、自分で払うケースが増えているわけだよね。損しているとは思わないのかな?

おごってもらえない女子は「損」なのか

【丹羽さん】損しているとは思いません。おごってもらって当たり前とか、それを自慢しているような女子を見ると「自立していないな」と思いますね。パパ活している人も、戦略としては賢いのかもしれないけど、自分で女っぷりを下げている気がします。

異性との食事では多めに支払う派の山田君(左)と「おごってもらえなくても損していると思わない」と言い切る丹羽さん(右)。

【長谷川さん】男性に全額出してもらって自慢している人は、同性として尊敬できないというか、女子ウケは悪いですよね。私もワリカンが損だとは思わないです。確かにバイト代だけでやっていくのは大変なので、食事代や飲み会代が浮いたらうれしいとは思いますが、それってお金の面だけでの話だから。相手が同世代なら、関係性とか気持ちとかも含めて、平等に払うのが普通だと思います。

【浅見さん】私も損だとは思いません。大学生同士なら収入もそんなに違わないはずだし、同じ立場ですよね。状況を見て多く出してくれたら、心遣いがあるなと思いますが、ワリカンだからってマイナスイメージを持つことはないし、自分の分はスッと払える自分でいたいです。

「ワリカン」は男子から認められた証拠

【原田】男女平等意識が進んだこともあるのかもしれないね。平等になった結果、女子も自分で負担するケースが増えたと。それって男女平等のデメリットだとは感じていないのかな?

【丹羽さん】思いません。男女平等になった結果おごられなくなったんだとしても、平等はいいことですよね。実際、同世代の男子に「ワリカンで」って言われたら、同等だと認められている気がします。私はまだ働いたことがないんですが、この先社会に出ても同じ考え方でいると思います。

【原田】そういう考え方の女子が続々と社会に出ていくわけだから、今後は男女平等意識がさらに高まっていきそうだね。そういえば以前、アジアから来た男子留学生が、日本の女子は二面性があるって言っていたのを思い出したよ。女性らしい主張をする一方で、男女平等もしっかり主張すると。この両方を兼ね備えている人は、言い方は悪いかもしれないけれど、ある意味したたかに、かつしなやかに社会を渡っていけるような気がするよ。

若者の男女平等意識は、仕事だけでなく、お金に関しても確実に高まっているように感じます。男女で収入差があるという実感も薄いようですし、おごられるのを当然だと思っている女性に対しては「自立心がない」という意見も飛び出しました。今の若者は男女関係なく、ワリカンが前提のライフスタイルを確立しつつあるようです。では、このライフスタイルは、彼らの消費意欲や希望収入額にどんな影響を与えるのでしょうか。次回からは、その疑問への答えを探っていきたいと思います。