左:<メーカー>畑 圭一郎(経営者JP)
中央:<金融>下田 由紀(エンワールド・ジャパン)
右:<流通小売サービス>原田 周作(エグゼクティブ・ボード)
転職成功のカギは「価値観の共有」
——転職活動において何か興味深いエピソードはありますか?
【下田さん】最近男性側が配偶者の意見を取り入れる方が増えてきて、転職先を案内して話が進むと「妻に確認してもいいですか?」と自分で決断されない方が増えたと感じます。今、妻の形も多様性に富んでいて、いわゆる専業主婦の方もいれば、フルタイムでバリバリ働いている方もいるので、自分の転職のせいで自分の妻に負荷がかかるかかからないかが、転職の重要なファクターになっているようです。逆に女性が「夫に相談してもいいですか?」というのはほとんど聞いたことがないですね。
【畑さん】確かに、ほとんど聞きませんね。
【原田さん】それはそうかもしれません。働く女性の数は以前に比べるとかなり増えましたが、管理職を任されたり、経営面に関わったりするような仕事に就いているような女性はまだまだほんのひと握り。そこで活躍している女性たちというのは、男性以上にサバサバとしていて、強い決断力を持っていると思います。なので、自分のキャリアのことは覚悟を持って自分で決断して、道を切り開いて行く方が多い印象です。
【畑さん】それはそうですね。同じ女性でも職位にもよるかもしれませんが、エグゼクティブ層といわれるポジションに就いているような方は、男性以上に決断力があり、責任感があるように感じます。
【下田さん】実際、転職して成功されている方というのは、夫と価値を共有できている人です。「家庭があるから週2回しか残業できません」と会社に訴えるのではなく、「仕事が好きだから仕事がしたい」と言って、夫に理解と協力を求めていますよ。
年収800万円以上を目指すなら「円満退職」が当たり前
【畑さん】そうそう。興味深いエピソードといえば、退職する社員に退職代行サービスを使われたと話されていたクライアントがいました。
たしかに優秀な方は強い引き止めにあうこともあるので、スムーズに退職できるかどうかを不安に思われている求職者は多くいらっしゃいますね。
【下田さん】特に優秀な方は、強い引き止めにあう方が多いかもしれません。でも、こればっかりは自分で解決にするしかないですからね。それに、本当に仕事ができる方というのは、退職のことでもめない気がします。
【畑さん】そうですね。退職までのやりとりを円滑に進められないということは、仕事の進め方やコミュニケーションの取り方に何かしら問題があるということ。年収800万円以上の転職を希望する人であれば、円満に退職できることが当たり前かもしれません。
【原田さん】退職しても、縁があって元の会社に戻ることや、またどこかでお世話になることがあるかもしれない。特にこれからの時代はいったん外に出て、スキルを身に付けてまた元の会社に戻るというケースも増えていくと思います。だから、双方にとって納得のいく形で退職するのは、非常に大切ですね。
イメージ優先の転職はNG
——「こんな転職希望者は要注意!」というエピソードはありますか?
【下田さん】40代にもなるとある程度自分の価値観が固まってきています。そのため、単に「おもしろそう」とか「ここの会社、良さそう」というイメージを優先して転職すると、あとでギャップに苦しむケースが多いです。ですから、「ここの会社なら自分がこんなふうに活躍している」という具体的なイメージを持てる会社を選ぶのがベターです。
特に長年、大手企業で勤めてきて、これまでに一度も転職経験がないような方は、ベンチャー・スタートアップ企業に憧れを抱きがちです。それで、ベンチャー・スタートアップ企業は経営者をはじめ従業員もわりと個性が強い人が多いので、転職してみたはいいけれど、思っていた以上に社風や文化が合わなかったと、転職後に話されるケースはよくあります。
大手からベンチャー・スタートアップへの転職は慎重に
【畑さん】大手とベンチャー・スタートアップは会社の規模だけでなく、仕事のスピード感も全然違いますからね。大手だと入社後半年くらいの助走期間を設けてくれますが、ベンチャーは入社当日から全力疾走で、すぐに結果を出すことが求められる。頭では理解していても、仕事のやり方やスタンスを急に変えるのは、年を重ねていればいるほど難しいかもしれません。
【下田さん】新しい会社に入ったら、その会社の物差しで物事を理解していかなくてはいけませんもんね。プライドの高い人は「前の会社ではこうだったから」とよく口にするのですが、前のやり方は一切通用しないと思ったほうがいい。大手とベンチャーではあらゆることが違って当然ですから、大手でのことを持ち出すと煙たがられるに決まっています。
【畑さん】まさに「郷に入れば郷に従え」ですね。
【下田さん】ただ、ベンチャー・スタートアップは、高学歴で大手企業での経験がある優秀な人材を求めているので、大手→ベンチャー・スタートアップは非常に転職がしやすいんですよね。求められているからこそ行きたくなってしまう気持ちはわかるのですが、20~30代と比べると、どうしてもキャリアのやり直しが難しい40歳を過ぎてからの転職だからこそ、よくよく考えたほうがいいと思います。
まぁ、どうしても合わなかったとしても人生1回しかないので、「いい学びの一つにはなったね」と言えるとは思うんですが。
【原田さん】過去に一度でも小さい会社を経験していると違うんですが、免疫がないままに40代で初ベンチャーだとギャップが激し過ぎるかもしれません。もちろん成功しないとはいいませんが、リスクは高いと思います。
【下田さん】特に金融業界は、転職未経験者が多いですしね。
【畑さん】確かに転職回数は、業界によって差がありそうです。メーカー業界で、エグゼクティブ層の転職をお手伝いする場合、経験未経験者は圧倒的に少ないですね。
【下田さん】今の40代は就職氷河期を経験しているので、収入の安定している金融業界に新卒で身を置いたら、余程のことがない限り転職しようとは思わなかったんだと思います。
転職の成功と失敗の分かれ道は「転職理由」
【畑さん】なるほど。ただ業界問わず、強い覚悟を持って臨めば、40歳を過ぎての初めての転職も成功できるのではないでしょうか。慎重に転職することは大前提ですが。
強い覚悟さえあれば、目の前に立ちはだかる課題もしっかり乗り越えることができます。だからこそ、主体的で明確な転職理由をきちんと持っておくことが何よりも大切。強い気持ちがあるかどうかが、転職の成功と失敗の分かれ道かもしれません。
転職前に必要な交渉
・パートナーとの価値観の共有
・円滑な退職交渉
40歳を過ぎてからの転職で気をつけたほうがいいこと
●大手からはじめてのベンチャー・スタートアップ企業への転職
・「社風や文化が合わなかった」という声多数
→20~30代に比べ、キャリアのやり直しが効きづらいため慎重に
●転職先での禁止ワード
・「前の会社ではこうだったから」
●転職成功と失敗の分かれ目
・主体的で明確な転職理由と、転職への強い覚悟があるかないか
大手金融サービス会社の営業本部にて法人営業、商品企画業務を6年経験。2005年より日系エグゼクティブサーチ会社に入社。2010年に執行役員、2011年から取締役就任。2013年より株式会社エグゼクティブ・ボードに参画。担当業界は、流通小売業、製造業(自動車、機械、化学など)が中心。企業の経営層との深いリレーションにより、経営幹部、管理職層の紹介実績多数。BizReach主催の「ヘッドハンター・オブ・ザ・イヤーMVP」(流通小売サービス部門)を2018年に受賞。
畑 圭一郎(はた・けいいちろう)
新卒で三越へ入社。その後、2008年に人材・組織開発のコンサルティング会社に転職。大型案件や難易度の高い案件の獲得で常時トップのコンサルティング実績を誇る。2013年経営者JPに入社。コンサルティング事業本部長として、コンサルタントチームの運営・教育に従事する傍ら、製造業・サービス業を中心に3500名以上のエグゼクティブパーソンとのキャリアコンサルティングを行う。数多くのエグゼクティブと対面してきた実体験を通して、組織の中で活躍できるビジネスパーソンには【サクセス3ポイント】があることを学びとる。
下田 由紀(しもだ・ゆき)
大学卒業後、大手金融会社で経理としてキャリアをスタート。自分の適性と志向性から営業に出たいという思いで、ミドル・フロントの経験を積み、2012年から人材業界にキャリアチェンジ。2012年中国において人材紹介会社大手のインテリジェンス中国に転職。蘇州支店マネージャーとして中国人ローカルスタッフマネジメント、中国江蘇省の日系企業向けに人材紹介(現地スタッフ、日本人)および日系企業の労務・研修サービスを提供。2014年日本帰国後、エンワールド・ジャパン株式会社に転職し、金融業界および金融専門職種等の専任コンサルタントとして従事。BizReach主催「ヘッドハンター大賞 金融部門MVP」2017年・18年と2年連続受賞。