2019年7月に開かれた国際女性ビジネス会議に「経済の会議は初めて」と言いながら登壇した上野千鶴子氏。経済の世界で女性を増やすことが盛んに言われる中で、その目的は何なのか、女性を増やしてどうしたいのか、その先の話をしたい。そう聴衆に投げかけた――。

なぜ今、上野千鶴子ブームか

上野千鶴子ブームが起きている。「がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています」と言い切り、東大入学式での日本社会の構造的差別を暴くスピーチが話題になった。

7月に開かれたの国際女性ビジネス会議に登壇した上野千鶴子氏

「情熱大陸」に出て、さまざまな後輩女性たちとの対談や、インタビュー記事に登場。ついに先日は『セブンティーン』で「上野千鶴子先生×花恋×ST読者 お悩み相談室」という記事が。読者モデルを含む女子中高生の相談に答えた。

もちろん初のブームではない。数えれば、今は第何次上野千鶴子ブームなのだろうか?

いや上野先生自身は何も変わっていなくて、世の中が変わっているだけなのだけれど。

そんな上野先生の話を生で聴くことができる機会があった。7月7日の第24回国際女性ビジネス会議に登壇したのだ。上野先生は「経済の会議で話すのは初めて」ということだった。国際女性ビジネス会議は佐々木かをりさんのe-womenが主催する全国、世界からビジネスパーソン(女性9割)が集まる年一回の会議で、今年で24年目となる。

18歳でも“おじさん”がいる

ファシリテーターの大門小百合さん(Japan Times)に東大入学式でのスピーチまでの経緯を聞かれ「最初は悪い冗談かと思って断ろうと思った」と上野先生。チャーミングでユーモラスな語り口に、会場全体が笑顔に変わる。

「私は変わっていないんです。変わったのは東京大学。#Metoo、東京医大の入試差別問題などいろいろなことが起きて変化が起きました。スピーチには40代女性が熱い反応を示してくれて……みなさん、つらい思いしたのね。一方18歳男子でもおじさんは再生産されていると思いました」

東大の女性割合は2割を超えず、東大男子学生の52%が中高一貫男子校の出身だ。そのことも「上野スピーチ」への男性からの反発の要因となったかもしれない。

東大は入試差別をしていない。女性が増えないのは、女性の応募者が増えないからだ。今年の応募者数は28%。

なぜ202050ではないのか

「企業も応募者と採用者の男女比率を情報公開してほしい。202030はなぜ202050ではないのでしょうか?」

上野先生が問題提起を会場に呼びかけると多くの人がうなずいた。働く女性である私たちは、ずっと企業の経営者から「成績順に取ると全部女性になっちゃうんだよね。だから男性に下駄げたを履かせて取っている」という話を聞いているからだ。企業が男女比のコントロールをしているのは公然の事実。ずっと目の前にあったのに、誰も声を上げてこなかった差別だ。

なぜ上野先生が経済会議に登場するのかといえば、今「ジェンダー平等」は経済の重要トピックとなっているからだ。大阪で開催されたG20は経済の要素が強い首脳会議だが、今年(2019年)の「G20大阪首脳宣言」には「ジェンダー」という単語が6回、女性という単語は23回も出てきた。そんな風潮に上野先生は疑問を呈する。

女性を増やした先に何を求めるのか

「あらゆる局面で女性を増やすことに表立っては反対できないのが今です。最初は社会正義だから女性を増やそう、次は企業を説得して女性を増やそうとしてきた。必ず儲かることもわかった。でもそれだけでなく、女性を増やしてどうするのかという、その先の話をしたいのです。『望ましい社会』のためにです。安全なもの、子どもに優しいものが欲しい。何が望ましいのかを考えないといけない。ただ女性を増やすだけでいいのでしょうか?」

ジェンダー平等は持続可能な社会や企業の条件として、海外の機関投資家に注目されている。日本でも「なぜあなたの会社には女性の役員がいないのか?」と株主総会で機関投資家からの質問が飛ぶぐらいである。確かに時代は変わったが、何のためにジェンダー平等達成を目指すのかの本質を、上野先生はいつも突きつける。

これからもやっていくしかない

「半世紀同じことを言ってきました。いまあなたたちお茶汲みしている? していないでしょう? 誰のおかげか、思い出してね。男が嫌がることを言い、男からの嫌がらせを受けながらずっとやってきたから、今があるのです。それを今度は若い人に手渡さなければいけない。一人ひとりの現場で戦ってきた、NOと言ってきた人が変えてきました。これからもやっていくしかないと思います」

そう締めくくった上野節に会場は拍手喝采。佐々木かをりさんは涙を流していた。経済の分野で、男性の中のごく少数の女性としてやってきた人たちが会場の大半である。彼女たちは上野先生と同じやり方ではなかったにせよ、その場その場での、それぞれの戦いがあった。だからこそ、上野先生の言葉は満場のキャリアウーマンの心に響くのだと思う。

上野先生は「ポジションを取った者」のあり方を、今教えてくれているのだと思う。そして今後はどう次の世代につないでいくべきなのかを。

影響力のあるポジションにいる女性ができること

企業の取締役、社長など、均等法第一世代で「影響力のあるポジション」に就く女性が目に見えて増えてきた。インタビューをすると、以前とは明らかに違うと感じる。かつては「女性初の○○」という呼び名は歓迎されなかった。それが最近は「女性ならではの苦労」「プライベート」など男性の役職者は話さないようなことを進んで語ってくれるようになった。

均等法第一世代は「女性だからといって特に不利だとは感じなかった」「うちは男女の差別は全くない会社です」と、葛藤など見せない人が多かった。

しかし、本当にそうだろうか? それは上野先生の言葉を借りると、エリート女性に多い「ウィークネスフォビア」にならないだろうか。有能な女性ほど自分の中に脆弱さがあることを認めたくない。彼女たちは弱みを見せたらすぐに負けという厳しい世界をサバイバルしてきたのだから、余計にそうだろう。

自分の弱さを語れるか

今、ポジションについた均等法第一世代の有能さを疑う人はいないだろう。ぜひ今こそ「自分の中の女としての脆弱さ」を抱えながら、それを乗り越えてきたのだと、語ってほしい。その脆弱さとは「女性差別のある構造によって抱えざるを得ない弱さ」のことだ。

そうでないと、後から続く世代は「私はとてもあんなスーパーウーマンにはなれない」と思ってしまうからだ。「女性の施策や制度」を入れるときに「私たちの頃は何の制度もなかった。甘すぎる」と言わず、後進へのハードルを少しでも下げてほしいのだ。

そして「自分の中の脆弱さ」を見つめたら、ぜひ世の中の「頑張れない人」「強くあれない人」のことを考えてほしい。男性の強者が作った社会は多くの人たちを取り残してきた。上野先生が東大のスピーチで語った「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください」という言葉。今経済界の意思決定層にいる女性たちこそがやり遂げられることだと思うのだ。