各国から政治や交流を担うために日本に派遣されている女性外交官たち。さまざまな国に駐在し、世界を飛び回る彼女たちが考える“働くこと”とは? 自身の子育てや、日本の魅力についても語ってくれました。

フランス留学が、世界への扉を開いた

在日米国大使館 広報・文化交流担当公使 キャロリン・グラスマンさん

アメリカの外にほとんど出たことのなかった私を変えたのは、大学生のときの、フランスに1年間留学した経験でした。住み込みでベビーシッターをしながら、日中は学校に通いましたが、まさに世界は広いことを実感し、「いつかは海外に出て、世の中に変化を起こす仕事をしたい」と強く思ったのです。

その後、さまざまな経験をして、最終的に外交官という仕事に就いたのはその原体験があったからだと思います。今は、広報・外交全般を統括していますが、メディア、教育、文化、スポーツなどから海外投資や安全保障まで外に向けて発信するため、多様な知識を求められます。こうして常に学び続けられる仕事を魅力的に感じますし、退屈な日なんて一日もない。大使館で一番楽しい仕事だと自負しています。

3人の乳幼児を抱え、夫が仕事を辞めて来日

私が最初に日本に来たのは20年ほど前。外交官として初めて赴任した国でした。1997年1月に第1子を出産し、3月には乳飲み子を抱えて来日。しかもその次の週末には京都での会議を控えていて、それはもう「タイヘン」でした。その2年後には双子の男の子を出産し、3歳以下の子どもを3人抱えての日本での生活はめまぐるしかった。それでも、滞在中は家族や同僚、シッターなど多方面から手助けを得ることができたのは幸運でした。

特に夫は、私の日本行きが決まったとき、仕事を辞めて一緒に日本に来る決断をしてくれたのです。「もしこれがあなたにとって良策でないなら、私がアメリカに残ってほかの仕事を探してもいい」と話すと、夫は「人生は1度しかないから、行ってみよう! ダメならやり直せばいい」と背中を押してくれました。彼は日本で仕事を再開したのですが、子どものお迎えなどで早く帰ると、同僚から嫌みを言われたこともあったそうです。それでも夫は強く乗り越えてくれました。

休みになると私が長男、夫が双子を背負って、日本の美しい山々にハイキングに出かけました。それから20年経ち街並みは多少変わりましたが、私が大好きな日本の自然や文化、美しさはそのままです。

年代を超えて夢を語る、日本の女性のパワー

一方で、働く女性の環境は、大きく変わってきましたね。20年前は少しずつムーブメントが起きてきたのを感じていましたが、今は幅広い年代の女性たちが活動的になっているのを感じます。日本の女性たちが新しい挑戦に積極的に向かっているのを感じてワクワクします。そして、男性たちが女性活躍についてよく語るのを聞きます。政治でも家庭でも何かを変えるには、男女両方の力が必要です。

仕事と子育てのバランスを取るのは誰にとっても簡単ではありません。私もアメリカにいるときは、子育ても家事も仕事も自分でやり、手いっぱいな毎日。深夜1時、2時まで仕事をし、翌朝6時に出社した日もあった。だから自分がいいロールモデルだとは思っていません。

でも、子どもの頃からボランティア活動に参加し、学生時代も男女の権利平等などの運動に参与してきた経験からも、「自分の意見は、きちんと人に伝えていかなければいけない」という思いがありました。

今、若い女性たちの相談に乗るときには必ず「あなたの言葉は価値のあるものよ」と伝えています。日本もアメリカも、まだまだ男女の権利は平等とは言えませんが、だからこそ諦めないで声に出していきましょう。私はとてもポジティブに考えています。これからみんなが仕事でも家庭でももっと充実した日々が送れるように、世の中を変えていきましょう。

▼アメリカは、こんな国
●面積:962.8万㎢(日本の約25倍)●人口:3億2775万人●首都:ワシントンD.C.●政体:大統領制、連邦制●女性の就労率:56.8%(男性:69.2%)
※アメリカ労働省(2016年)。16歳以上の就労率統計。

男性の育休取得は当然。保育園には必ず入れる

現在、ノルウェーの首相は女性(アーナ・ソールベルグ氏)、在日ノルウェー大使も女性です。ノルウェーは「働く女性にとってベストな国」で世界3位(日本は28位。2017年調べ)。「ジェンダーギャップ指数」でも世界2位(日本は110位。18年WEF調べ)となり、男女平等では世界でも有数な国の1つかもしれません。

在日ノルウェー大使館 一等書記官 トーネ・ヘレーネ・オールヴィークさん

確かに、女性が働くのは当たり前で産休や育休後は必ず復帰しますし、男性の育休取得も当然視されています。保育園も多少の待ち期間があったとしても、必ず席が確保されることになっています。

一般的には有給休暇は年25日あり、3週間まで連続で取ることができます。だいたいみんな休暇は消化します。ただし、長い休暇を取る際は、同僚と業務をカバーしあったり、繁忙期を避けたりという配慮はもちろん必要です。子どもがいる家庭では、学校は夏に6~7週間休みになるので、夫婦交代で休みを取ったり、子どもをサマースクールに入れたり、祖父母に頼んだりと、それぞれ計画的に乗り切ります。

長時間残業は意味がない。成果主義で結果を重視

ノルウェーでは残業する人はあまりいませんが、それは徹底した成果主義だからでしょう。長く会社にいることに価値はなく、成果を出すことが重要だと考えられています。勤務時間もフレックス制が一般的ですし、在宅勤務が認められている会社が多く、子どもがいる人はオフィスに行くのを最低限にして、お迎え後の夕方や夜に家で残りの仕事をする人も多いです。ノルウェーの女性にとっては、自分のキャリアを続けることは当たり前。しかし、レベルの高い仕事に就きたいならやはりそれなりのコミットメントが必要なのは、どこの国も同じだと思います。

私も子どもが生まれてからは、いろいろ犠牲にしなくてはいけないことに気づかされました。例えば、友達との時間や自分がゆっくりしたり運動したりする時間はなかなか取れません。だからこそメリハリを大事にしています。息子といる時間はスマホをなるべく見ないで、子どもとの時間を楽しむ。朝は保育園の登園の道を一緒に、会話を楽しみながら行くようにしています。

出産は日本でしたが病院のサポートも温かく、とても良い経験でした。東京は、各所にオムツ替えの施設があったり、公共交通が整っていたりと、今のところ子育てがしやすいと感じています。

私の20代は、ノルウェーよりもアジアで過ごした時間のほうが多いです。その経験は仕事を違った視点で見ることを教えてくれました。

台湾で生まれ、中国に7年。アジアにいると落ち着く

生まれたのは台湾です。父の仕事で1歳まで滞在し、その後7歳から2年半くらいを再び台湾で暮らしたので、私の中にアジアが根付いた時期でした。今や私はアジアにいるほうが、自分の故郷にいるような気がして落ち着きます。

ノルウェーを始め北欧の国では、アジアの歴史や政治などを深く学ぶ機会は、普段はありません。大学に入ったとき、中国学を専攻すると言うと、周囲からは「なんでそんなところに興味を持つの?」と驚かれました。結果的には、中国は世界から注目される国になり、私が駐在していた7年間でも大きく変化を遂げる様子を体感することができました。

日本に来て、2年が過ぎました。日本語は読めますが、会話はまだ苦手なので、詳しく知りたいことをうまく聞けないことが多く、もどかしいです。仕事でさまざまな土地に行ったり、人にお会いしたりすると、どんどん質問したいことが生まれてくるのです。

日本は、本当に多彩な魅力にあふれる国だと思います。そしてなかでも私は東京が大好き。日々新しい魅力を発見しています。今後はもっと多くの場所を訪れたいですね。

▼ノルウェーは、こんな国
●面積:38.6万㎢●人口:約529万人●首都:オスロ●政体:立憲君主制●女性の就労率:77.5%(男性:83.9%)
※ノルウェー中央統計局(2016年)。20~66歳の就労率統計。