年金2000万円不足問題が報道されるようになって、「お金の貯め方」に注目が集まるようになっています。多くの相談者をかかえる家計コンサルタントの八ツ井慶子さんは、「貯め方よりも大事なのは使い方」と指摘。使い方がうまくなる週に1度の習慣とは――?
※写真はイメージです(写真=iStock.com/industryview)

お金は「貯め方より使い方」が大事

こんにちは、家計コンサルタントの八ツ井慶子です。

今回は、お金で大事なのは“貯める”ことよりも“使う”こと、というお話をさせていただきたいなと思います。きちんと言うと、ただ使うのではなく、お金の「使い方」が大事というお話です。

前回、「老後資金2,000万円」問題を取り上げ、将来に不足する「老後資金」を試算するよりも、老後不安の軽減には、自身が今後リタイアまでにいくら貯められそうかを試算する「MY老後資金」の方が建設的であるお話をさせていただきました。

もしかしたら「やっぱり貯めることが大事なのね」と思われた方が、少なからずいらっしゃったかも、と個人的に気になりました。

実は、それはちょっと誤解です。ズバリ、お金は“貯める”より、“使う”です。お金の扱い方で大事なのは、どう貯めるかといった「貯め方」よりも、どう使うかといった「使い方」の方が圧倒的に大事である、と私は考えています。ちなみに、このことは家計相談を通して、ご相談者の方々から教わりました。

順を追って、みていきましょう。

家計の構造はシンプル

まず、「家計」の構造を確認します。家計は、「収入」「支出」「貯蓄」の3つから成り立っています。「収入」があって、そこから「支出」を捻出し、余った分が「貯蓄」(あるいは「貯蓄」を取り崩す)となり、このお金の流れを一生涯繰り返すのが「家計」です。

式で表すと、

収入-支出=貯蓄 です。

ということは、

収入=支出+貯蓄 ともなります。

つまり、「収入」は「使うか(支出)」、「貯めるか(貯蓄)」の2つしか行き先はないということです。言ってみれば、コインの裏表。お金は使わなければ貯まる、使ってしまえばお金は貯まらない、ということです。当たり前といえば、当たり前ですね。

“余ったら貯める”でいいのか

では、多くの方が気になっている「いかに貯蓄を増やすか」ですが、ここでよく言われるのがどう貯めるのかといった「貯め方」です。しかし、上記式からも明らかなように、貯蓄を増やすには、コインの裏側とも言える支出の管理、つまり支出をいかに削るかも同じ効果があることに、気づいていただけると思います。

例えば、20万円の手取り収入があったとしましょう。このとき5万円を貯めようとして、実際に貯められれば、5万円の貯蓄実績となり、裏を返せば15万円使った、ということになります。

一方で、支出を14万円以内に抑えようとして、それが実際にできたとすれば、やはり裏を返せば6万円の貯蓄ができた、ということになるわけです。

「確かに、理屈は分かるけれども、家計管理として“余ったら貯める”というのは良くないのではないでしょうか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

鋭いご指摘です。いわゆる「先取り貯蓄」の有効性ですね。

先取り貯蓄とは、収入から貯蓄を先に取っておいて、残りのお金でやりくりして支出管理をすることが、貯蓄形成には非常に大事とされるもので、式で表すと、

収入-貯蓄=支出 です。この点、異論はございません。賛成です。

(ちなみに、先ほどの「収入-支出=貯蓄」は、シンプルに“お金の流れ”を捉えた場合の式として表しており、適切な“お金の管理”を前提とした式を表しているわけではありません)

先取り貯蓄の意外な盲点とは

ところが、です。これでOKな方はいいのですが、先取り貯蓄は残念ながら万能ではないのです。意外と少なくないのが、先取り貯蓄をしておきながら、残りのお金でやりくりできていないケースです。

例えば、給与から天引きされる財形で積み立てを行っている、あるいは、生命保険を活用して積み立て貯蓄をしている等、きちんと先取り貯蓄を行っていたとしても、結局は(財形も生命保険も容易に取り崩せないので)別の預貯金を取り崩しながら生活している、という方はめずらしくありません。

これは、手持ちの預貯金を引き出して、財形なり、生命保険に預け替えをしているようなものですから、単に貯蓄の種類が変わっているだけ、という現象に陥っています。この場合、結局「支出」を見直さなければ、貯蓄形成にはつながりません。

でもですよ、もし支出管理がしっかりできていたとすれば、貯め方は財形だろうと、生命保険だろうと、もっといえば何も積み立てを行っていないとしても、手法の種類に関係なくお金は貯まります。

つまり、冒頭に戻りますが、お金の扱い方で大事なのは、「貯め方」よりも、圧倒的に「使い方」なのです。貯め方が大事ではないと言っているワケではなく、両者を比較すれば、より大事なのは使い方だということです。

固定費&変動費の賢い削り方

となれば、ではどうやって「使い方」を整えていったらいいでしょうか。「支出」を固定費、変動費(やりくり費)に分けて考えると、固定費はノウハウでカットできることが多いです。カットする方法を知っているか知らないか、実行するか実行しないか、みたいなところです。

生命保険の選び方、住宅ローンの組み方、通信費の見直し方、水道光熱費のカット術など、いまやさまざまなノウハウがあります。丁寧に調べて、できるところは積極的に取り入れるといいでしょう。情報は玉石混交のところもあるので、時に専門家に相談するのも手だと思います。

一方、少々やっかいなのが変動費です。家計相談を通した私なりの結論ですが、変動費はほぼマインドで決まります。価値観、考え方、好み、生活スタイル等、少しオーバーにいえば、生き方で大きく決まってくる部分だと思います。実際、変動費の見直しは生活スタイルの変更をある程度余儀なくされるため、場合によってはかなりたいへんな作業になってきます。「分かっていても、削れない」「やめられない」というやつです。

削りたくても削れない支出を削る特効薬

ただし、私から言わせていただくと、削れないのでも、やめられないのでもなく、削りたくないし、やめたくもないのだと思います。そこで、「なぜ」削りたくないのか、やめたくないのか、丁寧に掘り下げていく必要があり、こうなるとご自身のマインドとしかと向き合うことになっていきます。

言うは易し、行うは難しなのですが、そのためのツールとして有効なのがレシートです。現状の「使い方」を知る取っ掛かりとして、レシートは抜群です。

私はお金の使い方には、基本的に2種類しかないと思っています。

いい買い物か、悪い買い物か、
役立つ買い物だったか、役立たない買い物だったか、
生き金か、死に金か。
要は、○か×かです。

めざしたいゴールは、○のウェイトを増やすこと。

人間は完璧ではありませんので、×は完全になくならないでしょうし、そうする必要もないと思います。ただ、×が多いと、単純に貯まったであろうはずのお金をドブに捨てているようなものですから、非常にもったいないし、お金にも失礼というものです。

超簡単!お金使いが上達するワーク

文字数の関係もあるので、今回は簡単に○×チェックの方法をお話するにとどめたいと思います。

まずは、レシートを全て持ち帰ることから始めます。レシートの出ないものはメモを残しておきましょう。そうして1週間分のレシートをためたら、週末にでもその週を振り返るように、レシート1枚1枚も振り返ってみます。いまのレシートは優秀です。日付、時間、お店の名前や場所、買った品目と値段、合計額など、非常に情報が豊富です。

買った品目一つひとつをみて、いいか悪いか、○×をつけてみましょう。このとき、あまり悩まずに直感でつけるといいと思います。悩んだら×の可能性大です。

○×チェックをすると、自身の○のパターン、×のパターンが見えてきます。一人ひとり顔や性格が異なるように、買い物のパターンも異なるものです。パターンが見えてきたら、×をなくす具体的な改善策を立てることにつながります。

具体的な行動に落とし込んで×を少なくさせることができれば、お金は“貯まる”ものです。理由はもうお分かりでしょう、「支出」と「貯蓄」はコインの裏表だからです。

「貯める女」から、「上手に使う女」へ、つまり「貯まる女」をめざしてみてはいかがでしょうか。