20代、30代での転職が当たり前になり、今や、新卒採用の社員も、3人に1人が入社後4年未満で辞めてしまう時代。一体、何が彼らを早期に転退職させるのでしょう。特に最近は、「退職代行」というサービスで退職する若者が増えつつあると言います。
「退職代行」とは、実際どこまでを代行するサービスなのでしょうか? さらに退職を代行業者に頼む、今時若者の心理とは? サービスを運営するEXITの共同代表・岡崎雄一郎さんと新野俊幸さんに話を聞きました。

退職させないブラック企業からの“足ヌケ”が発端

退職代行サービスとは、本人の代わりに退職に関する事務連絡を代行するサービスのこと。社員が退職を希望した場合、企業は、その自由意思に従うことが法律で定められているが、知らない若者が多い。そのため、勤務先がブラック企業である場合、「退職したいなんて伝えたら、訴えられるかも」と怯え、退職できないことに悩んだり、言い出せないまま自殺してしまう若者が少なくないという。「退職代行サービス」は、そんな若者のために、自身が「会社を退職できない」ことに悩み、精神を病む経験をした新野さんが、思いついたサービスなのだ。

「ブラック企業の中で限界を迎え、切羽詰まっている依頼者の場合、『もう今日は、本当に出勤することができません。助けてください』と早朝にLINEでの依頼が来ることがあります」(新野さん)

意外だったのは、退職代行サービスの実態は、ただ電話で退職に関する連絡を仲介するだけなのだということ。だが、本人からの退職相談には耳を貸さない企業も、第三者からの電話があるだけで、慌てて本人の退職の申し出を了承するそうで、効果はてきめんなのだそうだ。代行サービスの価格は、正社員の場合は5万円で、アルバイトだと3万円。「退職代行サービスが広がることで、退職が簡単にできることを知ってもらい、不要に悩む人や自殺者を減らしたい」と話す、岡崎さんと新野さん。

深刻な「ブラック企業を退職できない」問題の解決に活用されているサービスだが、利用者は、ブラック企業に務める社員たちに限らないという。

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新野さんによると「上司とのコミュニケーションにストレスを感じた、入社3年以内の20代若手からの依頼が増えている」のだそうだ。特にはじめて退職する男性社員からの依頼が急増中なのだとか。その依頼内容を聞いていると、上司が「よかれ」と思ってやった行動が部下の負担となり、退職にいたっているケースが多いのだという。第三者のサポートを通じて退職を実行し、会社と縁を切るほどの選択をするまでに若者を追い込む上司たちとは、一体どのような特徴を持っているのか?

そこで、岡崎さんと新野さんに、“20代若手を追い込みやすい上司度”がわかるセルフチェックポイントを教えてもらった。

まずはセルフチェック! いくつ当てはまる?

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①「怒る」ことも、時には指導や教育の一環として仕方ないことだと思っている
②良かれと思い、部下に「社会人として~べきだよ」という“べき論”を、長々と語ることがある
③管理職として、部下や後輩のスケジュールは全て把握するように努めている
④「仲良くならねば」と考え、頻繁に飲み会を開催したり、プライベートに関する質問をしたりする
⑤目標設定の際に「成果目標」と「行動目標」のどちらか、もしくはこの2つのみを設定し、伝えている
⑥ある程度任せた方が良いだろうと考え、任せた仕事の納期を設けたら、締め切り日まで、特に進捗確認をしない
⑦「みんな早く帰りなさいよ」と言いながら、自分は残業をしている
⑧部下に「絶対に辞めてほしくない」と思っている

一体なぜ、これらの考え方や行動は、部下を退職に追い込んでしまうのだろうか。順に要因を見ていこう。

指導に、一切の怒りは不要

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「怒る」ことも、時には指導や教育の一環として仕方ないことだと思っている

新野さんによると、まず指導に「怒り」は不要で、これが一番重要なことだと言う。特に「指導しなきゃ」という思い込みや、部下からナメられたらどうしようという不安感、まわりへのパフォーマンスで怒るのは論外。「何があっても絶対に怒らない」くらいの意識でいる方がいいのだとか。

「怒られると、部下の気持ちは問題の解決にではなく、『怒られたくない』『逃げたい』という方向に向きます。結果、『いかに怒られないようにするか』ばかり考えるようになり、仕事にやりがいを感じられなくなってしまいます」と、若手の退職理由を語る岡崎さん。

いかなる時も上司が怒るのを我慢する場合、上司にかなりのストレスが溜まりそうだが、新野さんいわく「我慢をするなら、上司がするべき」とのこと。理由は、部下よりも多く給料をもらっているからだそうだ。

「怒ることは、自分の個人的な感情の発散でしかないということを知ってください」(新野さん)

良かれと思い、「社会人として~べきだよ」という“べき論”を長々と語ることがある

新野さんたちが、退職希望者の上司に連絡をすると、「常識的におかしいだろ」「社会人として~」と30分ほど説教を受けることが、頻繁にあるそう。

「話を聞きながら、退職希望者は、今までこのような“べき論”を押し付けられてきたんだなぁと体感しますね。退職は当たり前に認められているひとつの権利。それがおかしいというのは、ただの押し付けでしかありません」と新野さん。

例えば、顧客対応として「手書きで手紙を書いて、毎年出すべき」や「FAXを使うべき」などの指導。メールの方がずっと効率的なのに「昔からこうだから、そうするべき」というロジックのない“べき論”で押し通すような指導を続けていれば、今時若手は同じように思考停止するのが怖くて退職し、転職してしまうそうだ。

岡崎さんいわく、「上司には今まで蓄積してきた経験やノウハウがあるが、その分固定概念に縛られています。『違う環境から来た新入社員が言っていることの方が正しいかもしれない』と、自分の当たり前を疑う姿勢を身に付けることが大事です」とのこと。

管理職として、部下や後輩のスケジュールは全て把握するように努めている

1日のスケジュールを全て把握した上で、逐一電話をかけて「今何をしてる?」などと確認するマイクロマネジメントも、若手の大きな負担となり、退職理由の1つになっていると、新野さんと岡崎さんは語る。上司に「信用されていない」と感じることで、部下がその上司の元で働く意欲が失われてしまうのだそうだ。

新野さんいわく「就職は、どの上司に当たるかの人運」とのこと。部下にとって、ハズレの上司になってはいないかどうか、自分を客観視してみる必要がありそうだ。

部下は自分と同じく、会社の社員。対等に接することを心掛けよ

「仲良くならねば」と考え、頻繁に飲み会を開催したり、プライベートに関する質問をしたりしている

悲しいことに、上司が必要以上に仲良くなろうとした結果、部下が負担に感じて退職するケースも絶えないそうだ。

「部下は友だちではありません。職場の仲間以上の関係になる必要はないんです。飲み会もいいですが、部下たちだけで行かせてあげたり、原則自由参加にするなど負荷を減らすように心掛けましょう」と、岡崎さん。それが今の20代の感覚だと理解することが重要だと言う。

高圧的な上司の下では若手は辛くても楽しんでいる演技をするとのこと。笑顔や顔色だけで、「この子は大丈夫だ」と判断していると、本心を見誤って、予期せぬ退職につながってしまうようだ。

目標設定の際に「成果目標」と「行動目標」のどちらか、もしくはこの2つのみを設定し、伝えている

「『会社としてどういうビジョンがあって、どういう変化を社会に起こしていきたいのか』を伝えずに、部下を数字の奴隷にしてしまう上司は、今時若手のやる気を奪う」と、新野さんは語る。

例えば「今月1000万円を売り上げてください」という“成果目標”や「100件訪問してください」という“行動目標”を定めても、何のために1000万円を売り上げるのかという“意義目標”が分からないと、動く気持ちが湧かない若手が、今は増えていると言う。

新野さんいわく、「とくに“行動目標”“成果目標”だけで結果を出して昇進した上司の場合、そもそも上司自身が意義目標を必要としないタイプなので、このスパイラルを断ち切るのは簡単ではありません。上司になった人は誰であれ、部下に成果目標や行動目標を示すときは、必ず意義目標も同時に伝えることを意識するべき」とのこと。

ある程度任せた方が良いだろうと考え、任せた仕事の納期を設けたら、締め切り日まで特に進捗確認をしない

部下に仕事を投げたあと進捗確認をせず、締切ぎりぎりに出してきた提出物を見て「なんで今まで言わなかったの? わからないなら質問しないと」と言ったことはないだろうか。特に問題がないシーンのようにも感じるが、新野さんによると、これは「上司の指示の仕方が悪い」のだそうだ。

はじめての仕事を任せる場合は、例えば「明日中に出来た部分だけでいいから、一旦提出してください」と指示するのが正解なのだとか。

「上司が正しく指示をしないと、部下は何度もやり直し、疲弊してしまいます。そうして自信をなくし疲れ切った今時若手が退職していくのは、上司の責任です」と岡崎さんも語る。

「『それくらい』と思うような、小さな違和感が積み重なって若手は退職するのです。一つひとつの違和感を見過ごさず解決していくことで、後ろ向きな理由の退職は防げます」(新野さん)

「みんな早く帰りなさいよ」と言いながら、自分は残業をしている

帰れと言われても、上司がいると帰りづらいという空気感を、今時若手も感じるようです。それで生まれるのが無駄な残業。その積み重ねで若手は退職の二文字を頭に浮かべ始める。

「上司はとにかく早く、定時に帰ることが重要」だと新野さん。誰より早く帰ろうという姿勢が必要なのだとか。

どうしても残業が減らせないのならば、定時内に「どうすれば残業が減らせるか会議」を開くなどし、若手に意見を聞いてみるのも効果的だと新野さんは語る。

部下に「絶対に辞めてほしくない」と思っている

岡崎さんいわく「どれほど素晴らしい上司でも、部下が他のことに興味を持って退職をすることはある」とのこと。

「辞めてほしくない」という理由で“良い上司”でい過ぎると、その空気や期待感が負担となり、退職を言い出せず、退職代行を活用されるケースもあるようだ。

「上司に何の非がなくても、辞めるときは辞めます。ですから『自分なりに伝えることは伝えた上で、それでも部下が去るのは仕方がない』と日頃から心の備えをしておくことが大切です」と新野さん。

部下には信頼や信用をしても、過度な期待はしないのが正解なそう。そういう意識でいるほうが、かえって部下は退職せず、退職したいと思ったときにも、ちゃんと相談をしてくれるようだ。

「怒る」から「学び合う」マネジメントへ

※写真はイメージです(写真=iStock.com/itakayuki)

最後に、いまどきの20代との理想の関係は、一言で言うと、「学び合う関係」だと新野さんは語る。

「育てるなどと表現する人がいますが、それだと押しつけが生まれます。『私は今までこんな風にやってきたんだけど、どうかな? 今の若い人の考え方を教えてほしい』というように、ぜひ部下に相談してみてください」(新野さん)

若手の退職者はほとんど「本当の退職理由をいわずに、退職して行く」そうだ。本音は退職代行会社に伝え、その本音を退職代行会社が人事に伝えるという流れが出来つつあるという。これからの上司の心得として、部下本人に聞いた退職理由をうのみにせず、まずは今時の若者が退職する上司像に自分が当てはまっていないかどうかを、振り返ってみる必要があるのではないだろうか。