転職を控えている人、キャリアプランの中に転職という選択肢がある、という人も少なくないでしょう。公的年金は働き方によって、また企業年金は企業によって異なり、転職すれば加入する年金の種類も変化します。どのような変化があるか、どんな手続きが必要かを具体的に見ていきましょう。
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厚生年金保険を継続か、国民年金に切り替えか

一口に転職と言っても、すでに転職先が決まっていて間をおかずに入社するというケースや、しばらく休んでから入社など、さまざまなケースがある。どのような転職をするかによって、年金の扱いは大きく異なる。

最もシンプルなのは、元の会社を退職し、その月のうちに次の会社に入社する場合。この場合は、厚生年金保険に継続して加入することになる。手続きはそれぞれの会社が行うので、自身で役所に出向いたりする必要もない。

退職の翌日に厚生年金保険は資格喪失になるが、その月のうちに転職して厚生年金保険の資格を取得すると、年金に加入していない状態、正確に言うと、被保険者期間に空白期間は生じない(退職日が月末の場合、翌月に転職すれば空白期間はなし)。

対して、退職してから次の会社に入社するまで期間がある場合はどうなるだろう。

入社日が退職日の翌月以降になる場合は、厚生年金保険が継続されず、一時的に国民年金に切り替える必要がある。具体的には、退職から転職まで月末をはさんで期間が空く場合に厚生年金保険の被保険者期間に空白ができるので、この期間は、自身で手続きをして、国民年金の被保険者になる。

フリーランスは国民年金に加入

転職後に自営やフリーランスになる場合は、会社員が加入する厚生年金保険から、自営やフリーランスなどが加入する国民年金に切り替えることになる。

国民年金の加入手続きは、退職日の翌日から14日以内に住んでいる市区町村の役所・役場の国民年金担当窓口に、自身で届け出る必要がある。年金手帳(または基礎年金番号通知書)と印鑑、離職票や退職証明書など退職日の確認ができる書類が必要で、離職票や退職証明書などは元の会社から退職時に受け取っておく。

保険料の支払いについても気になるが、年金の保険料は翌月末に支払うルールになっており、6月に退職すると6月分の保険料は7月末に元の会社が支払う(6月退職では5月、6月分の2カ月分の保険料を退職月の給料から天引きされる)。

国民年金加入となるのは7月からで、7月分の国民年金保険料を8月末までに自分で納めることになるわけだ。

国民年金保険料の滞納、放置は厳禁

厚生年金保険は保険料の半分を会社が負担、もう半分は給料から天引きして会社が納付してくれるが、国民年金加入では自身で保険料を支払う。

未払いがあると、老後に受け取る年金の額に影響するし、重い障害を負った場合に支給される『障害年金』や、死亡の際、遺族に支給される『遺族年金』が受け取れなくなる可能性もあるなど、リスクが大きい。漏れなく手続きをし、確実に保険料を支払おう。

万一、収入がなくて支払いが難しいといった場合も、放置するのは厳禁だ。収入が減って納付が難しいなど、一定の要件を満たせば保険料が免除される制度や、納付が猶予される制度もある(納付猶予制度は50歳未満が対象)。免除制度では、全額、4分の3、半額、4分の1のいずれかが免除される。

保険料免除制度、納付猶予制度を利用すれば、保険料を払っていない(一部しか払っていない)状態でも、年金が支給されるかどうかを判定するための『受給資格期間』に算入される。放っておけば未加入だが、きちんと手続きすれば、未加入は避けられる。

将来受け取る老齢基礎年金(国民年金部分)の額は加入期間(保険料を支払った期間)によって金額が決まるが、保険料が免除された期間の分も、一部が年金額に反映される(納付猶予の期間分は、年金額には反映されない)。これも、放置するのとは雲泥の差だ。

仕事を持っている人にはピンとこないかも知れないが、収入が減る可能性が絶対にないとは言い切れない。手続きをせずに未加入にしておくのはデメリットが多いので、手続きは怠らないように気を付けよう。

企業年金はiDeCoに切り替えなど

多くの会社には、企業年金の制度がある。転職する場合、企業年金がどうなるかも要チェックだ。

例えば「企業型確定拠出年金(企業型DC)」は、企業が従業員のために毎月、資金を拠出し、それを運用して、将来、一時金や年金として受け取る制度である。運用にどの商品を使うかは従業員自身が選択することになっており、預金などの元本確保型の商品や、投資信託など、用意された複数の商品から自由に選ぶことができる。運用で得た利益が非課税になるなどの税メリットがある。

企業型DCは、転職すると加入資格が失われるため、一定の手続きが必要になる。

まず転職先の企業が、転職前に加入していた企業型DCの受け入れを可能としている場合には、元の会社で積み立てた資産を移換することができる。ただし、現金での移換となるため、投資信託で運用していた分は売って現金化する必要がある。値上がりしているタイミングならいいが、値下がりしているタイミングで売れば、残念ながら損益が確定してしまうことになる。

移換したあとは、転職先で用意している商品から、再度、利用する投資信託などを選んで運用する。

手続きが遅れるとデメリットが多い

移換手続きは加入者資格を失ってから6カ月以内に行う必要がある(7月1日退職では、2日に資格失効し、8月から6カ月以内の翌年1月末が期限)。期限を過ぎると、年金の資産は自動的に別の場所に移換される。転職先に企業型DCがあればそこへ、そうでないなら国民年金基金連合会の仮預かり口座に自動移換される。

仮預かり口座では管理手数料が発生するものの、資産の運用はできず、資産は寝たまま。また企業型DCやiDeCoは、10年以上加入すれば60歳から受け取れるが、仮預かり口座にある間は加入期間に算入されず、年金の受取開始時期が遅れる可能性もある。転職する場合は早めに、確実に、手続きすることが大切だ。

DC以外の企業年金は?

企業の年金制度には、企業型DCのほか、『確定給付企業年金』や『厚生年金基金』などがある。退職時にはこれらを退職金として受け取るのが一般的だが、場合によっては退職金を受け取らず、転職先の企業型DCへ資産を移換することもできる。

退職金を受け取るより老後に向けて運用したいといった場合には、企業型DCに移換して運用するのもいい。企業型DCやiDeCoでは運用で得た利益が非課税になるので、自身で普通に投資するより有利だ。

いずれの場合も、転職前に、元の会社、転職先それぞれに、どんな選択肢があるか、どんな手続きが必要かを確認することが重要となる。ケースによって異なるので、以下も参考にして欲しい(国民年金基金連合会のホームページより)。

自営やフリーランスはiDeCoを検討

フリーランスになる場合は、企業型DC(企業型確定拠出年金)には加入できないが、新たに個人型確定拠出年金(iDeCo)をはじめ、そこに企業型DCの資産を移換することができる。

企業型DCでは口座管理手数料などのコストを企業が負担しているが、iDeCoでは自身が負担することになるので、手数料や買いたい商品の有無、サービスなどを比較して選びたい。

ちなみに、自営やフリーランスから企業に就職するといった場合は、iDeCoを続ける。あるいは、iDeCoの資産を企業型DCに移換するなどの選択肢がある。企業に確認し、しっかり検討しよう。