世界を飛び回り、グローバルに活躍するビジネスウーマンたち。仕事もプライベートも充実しているように見える彼女たちが乗り越えてきた壁や、日々のチャレンジを聞きました。

「うちの娘は頭がいい」母親が学校に直接交渉

私の母は中国とネパール出身の両親を持ち、父はインド出身です。私が幼い頃、家族はインド・カルカッタのスラムといわれるような貧しい地域に暮らしていました。勉強は好きでしたが、子どもたちが学校に通うのは難しく、カトリックの修道院のシスターが開いている寺子屋のようなところに通っていました。

Eight Roads グローバル人事統括部長 ランジャニ・カースリーさん

ある日母は、欧米人の通う高級なインターナショナルスクールに私の手を引いて行き「娘はとっても頭が良くて賢いから、入学試験を受けさせてください。そして受かったら、授業料免除で通わせてください」と交渉したのです。母は5歳のとき両親を失い孤児に。ネパールの小さな村で育ち、村中の人々が親代わりになって育ててくれたそうです。だからこそ、わが子には最高のチャンスを与えたいと常に思っていました。それを体現してくれたのです。

私は無事に試験に合格し、そのインターナショナルスクールに学費免除で通うようになったことで大きく世界が開けました。英語を覚え、学びを得たのです。母から私が学んだことは、まず自分に自信を持つこと。そして自分にとって重要だと思うことは、人から与えられることを待たずに自分でちゃんと求めて、努力して、実現していくことです。待っていても、ある日突然、チャンスは巡ってこないのです。

高校を卒業するとき、私はイギリスの有名大学の1つ、LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)の学長に手紙を書きました。「私にはお金がありませんが、一生懸命勉強するので授業料を免除して入学させてください。きちんと優秀な成績を取って卒業します」と。

諦めずに何度も手紙を書いてやりとりした結果、授業料免除で入学を許可され、良い成績で学校を卒業することもできました。母が私に機会を与え、スラム街から世界に出してくれたのです。今でも私のロールモデルは母です。

難しい相手でも、打ち解けるきっかけを探す

さらに、金銭的にも自立した状態で学業を修めることができたことは、大きな自信になりました。若いうちは親に頼りがちですが、若くして経済的に自立するすべを持つことは重要です。だからこそ、お金の貯め方、付き合い方を考え、若者の自立にも貢献できる今の仕事にやりがいを感じています。

もちろん仕事で壁にぶつかることはたくさんあります。投資銀行のときのクライアントは、女性が嫌いな年配の男性でした。若い私のアドバイスなんて全く聞く耳を持ってくれず悩みました。そこで彼の娘を例に「あなたの人に対する態度に、彼女が将来仕事で出合ったらどうでしょうか?」と言ってみました。今思えば、若さゆえの大胆な発言ですよね。でも、おかげで彼との突破口が見えたのです。

(写真左)とにかくメモ魔。今はスマイソンのノートを持ち歩いています。(同右)離れていても夫から届く2人の子どもの写真に励まされます。

キャリアを昇るうえで、年上の人や自分より優れたスペシャリティーを持っている人とも組みリーダーシップを発揮する必要があります。私が学んだことは、すべてにおいて人より優れたリーダーである必要はないということです。管理職でも常に正解を持っているわけではない。才能豊かな優れた人材に囲まれれば、彼らからたくさん学び、より強いチームになっていけると信じています。そして、私にできることは、どんな人にも尊敬、尊重の念を持って接し、力になろうと努めること。自分が未熟な分野は常に勉強するとともに、事前のリサーチや準備を入念にしておきます。

何よりも大切なのは自分を信じること。あなたにしかない特別なものが必ずあるはずです。

▼my work rules
1.事前の準備をしっかりしておく
2.メンターやロールモデルを持つ
3.よく働き、よく遊び、よく休む
ランジャニ・カースリー(Ranjani Kearsley)
Eight Roads グローバル人事統括部長
インド出身。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス卒業後、シティバンク、エヌ・エイに入社。2008年より、フィデリティ・インターナショナルに入社。HRビジネスパートナー、グローバル人事統括部長などの役職を経て、フィデリティのベンチャーキャピタル投資を行うプリンシパル部門である、Eight Roadsに19年2月に異動。