先月、史上最年少でノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんが初来日。「すべての女子に教育を」と訴え、常に強い意志と行動力を持ち続けられる理由について、父の存在が大きいと語った――。

学校に通うことができない女の子に代わって

史上最年少でノーベル平和賞を受賞し、現在は英オックスフォード大学で学ぶかたわら、女子教育の向上を求めて精力的に活動するマララ・ユスフザイさん(21)が初来日し、「第5回国際女性会議WAW!/W20」(3月23~24日、東京で開催)の初日に基調講演を行なった。

マララさんは鮮やかな紫色のスカーフをまとい、安倍晋三首相やミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官らとともに登壇。スピーチの冒頭では、前夜の夕食会でワサビのかたまりをアボカドだと思って食べたら涙が出たというエピソードを披露し、会場を温かい笑いで包んだが、すぐに凛とした表情に変わり、力強い言葉を発し続けた。

「第5回国際女性会議 WAW!/W20」で基調講演を行うマララさん。

「過激派は、教育の権利を訴えていた私を標的にしましたが、失敗に終わりました。むしろ私の声は、より遠くまで届くようになったからです。そして今日、私はここで皆さんに、学校に通うことのできない1憶3千万人の女の子たちに代わってお話します」

マララさんはパキスタン出身。パシュトゥン人として、自然豊かなスワート渓谷で育った。その穏やかだった日々がイスラム過激派によって奪われ、女子教育が抑圧されてしまうが、マララさんは圧力に屈することなく、日本で言えば小学校高学年の頃から「女の子にも教育を受ける権利を」と訴え続け、国内外で注目される存在になった。15歳だった2012年、スクールバスで下校中に頭を撃たれて瀕死の重傷を負うも、奇跡的に回復。事件からわずか9カ月後には、ニューヨークの国連本部で演説を行なった。「ひとりの子ども、ひとりの先生、1冊の本、1本のペンが、世界を変えるのです」。そう強く呼びかける少女の姿は、世界中の人々に勇気と希望、インスピレーションを与えた。

女性へのSTEM教育が世界を救う

今回の来日で、マララさんはAI(人工知能)やロボットが身近になる時代を見据え、女性が未来の職場で輝くためには、特にSTEM(科学・技術・工学・数学)の知識を得ることが重要だと訴えた。「女性のためのSTEM教育に投資すれば、優れたイノベーションをもたらして世界経済の発展に貢献するだけでなく、貧困や差別の根絶にもつながる」と説く。

「『質の高い教育をみんなに』を含む持続可能な開発目標(SDGs)に世界のリーダーたちが合意してから5年が経ちますが、残念ながら私たちは大きく遅れをとっていて、これらを実現するための十分な投資ができていません」。2019年G20サミットの議長国を務める日本が女子教育向上のためにリーダーシップを発揮すれば、「世界にとって、これ以上の贈り物はない」と、マララさんは言う。

尊敬するベナジル・ブット元パキスタン首相、プログラミング言語を開発したグレース・ホッパー、宇宙飛行士の向井千秋さんなど、「女性初」という称号とともに偉業を成し遂げた大先輩たちの名前をあげたあと、女性で埋め尽くされた会場に向かって、マララさんはこう言った。「皆さんが今日この場にいられるのは、誰かがあなたを信じてくれたからです。私の父が、私を信じてくれたように」

女子教育に力を注いできた父

パキスタンでは、マララさんの故郷も含めて広い地域で今なお家父長制の因習が根強く残り、女性は従属的な立場に置かれている。そのような環境において、なぜ彼女は幼い頃から強い意志をもち、勇敢な行動をとり続けることができたのだろうか? それは、父のジアウディンさんがきわめて開明的であり、正義のために行動する人であったことが大きい。祖国で学校をつくり、自らも教鞭をとりながら経営に奔走していたジアウディンさん。その学校は、すべての人に対して開かれたもので、女子教育にも力を注いでいた。

マララさんの父、ジアウディンさん

現在は「マララ財団」の共同設立者・理事として、安全で質の高い教育をすべての女子が受けられる社会の実現を目指して活動を続ける。

「私は家族を大事にする人間であり、妻と私は対等なパートナーです。そして、娘のおかげで世に知られる存在になった数少ない父親のひとりであり、そのことを誇りに思います」

マララさんとともに来日し、分科会のパネルディスカッション「家族の未来」に参加したジアウディンさんは、そう自己紹介した。

家父長制を厳格に守る家庭で育ち、父が母のために何かをしてあげるところなど、一度も見たことがないという。鶏肉のおいしい部位や卵は、父と兄、自分だけが食べることができた。「姉や妹たちが経験したもっともひどい差別は、学校に行けなかったことです」と話す。女性は、男性親族の同伴なしで外出することも許されておらず、母を病院に連れて行くと、処方せんには「ジアウディンの母」と書いてあった。「名前という、母のもっとも基本的なアイデンティティさえも、消されてしまったかのようでした」

父がマララさんの服にアイロンをかけることも

結婚相手を自由に選ぶことのできない村で、ジアウディンさんは好きな相手と結ばれた。「結婚後、妻に真っ先に伝えたのは、『自分で手を洗うから、君がやらなくていい』です」。村には古くから、妻が食前に夫の手を水で清めるという習慣があったからだ。だが、高等教育を受けたおかげで、自分は新しいタイプの夫であり父親になれたのだと、ジアウディンさんは言う。妻にはなんでも話し、相談する。家事も手伝う。「マララの服にアイロンをかけたりもしていました」。そして娘に対しては、けっして夢をあきらめないようにと言い聞かせ、応援し、その自由を守り続けた。

家族はもっとも基本的な集団であり、人々はここで社会の規範を学び、政治的な思想を育む。そして、家族の集まりによって国が構成されている。だからこそ、家庭での男女平等が保たれなければならない――。ジアウディンさんは、そう強調する。「みんなでまとまったり、家事を分担したりすることは、家庭生活にこのうえない幸せをもたらすので、どの家族もそうあるべきです」。このことは、女性のためだけではなく、男性の意識を変えるためにも必要であると、ジアウディンさんは訴える。

「人口の半分を占める女性たちのちからを信じていないのなら、その国は片方の翼で飛んでいるようなものです。でも、鳥はひとつの翼では飛べない。ふたつの翼が必要なのです」