大の大人が作業してもほんのわずかの金額にしかならないベルマーク活動。有給を取ってまで、子どもと遊ぶ時間を奪われてまでやる必要があるのだろうか。PTA会費が毎年余っているのに、そして誰もがその生産性の低さに気づいているのに、ベルマーク集めをやめない理由とは?
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PTAは学校の「お手伝いさん」

私自身、会員の時には知る由もなかったが、実はPTAには各学校→区市町村→都道府県→全国という縦の系列がある。PTAの全国組織が「公益社団法人 日本PTA全国協議会」なのだが、協議会が発行する『PTA応援マニュアル』という本において、PTAの活動内容は以下のように解説されている。

真っ先に出てくるのが、「学校行事の運営を手伝う」。すなわち、PTAに最も期待されているのは、学校の「お手伝いさん」という役割なのだ。だから文化祭で自分の子どもの演技を見たいのに、来賓へのお茶出しをしないといけなくなるわけだ。

次の役割は、「子どもたちの健全育成に関する研究会に参加する」。やっと子どもに関することが出てきたと思いきや、PTAは「社会教育団体」として「成人教育=保護者の教育」を行う役割を持つ。素朴な疑問として、なぜ、私たち保護者はPTAによって教育されないといけないのかという思いがあるが、実際には、出汁の取り方だったりアロマの講演会など、ずいぶん母親は舐められたものだと思う企画を平日の午前中に行っていたりする。

せっかくの休みにも駆り出される

3番目が、「学校や児童・生徒の様子を地域に伝える広報」。役員が大変な労力をかけて作っている広報誌がまさか、地域のためのものだったとは! 私自身、広報委員会に所属していた時には思いもしないことだった。しかも日本PTA全国協議会では、優秀な広報誌を毎年、表彰している。その基準は、国にとっての理想的なものになる。つまり、子どもたちのために良かれと思って作っている広報誌が、実は国のためだったという証しだ。

4番目が「登下校時のパトロール」。PTAといえば、まさにパトロール。それも単独というより、町内会や青少年育成委員会などと共同して行うことが多い。ここでも、「地域のお手伝いさん」役が期待されている。

次は、「卒業式や記念行事のときなど、記念品を贈呈する」というお財布の役割だ。退会を申し出た保護者に、「卒業式の紅白まんじゅうがもらえなくなる」と脅しに使われるのが、これら記念品だ。

最後に、「地域の特性を生かした行事に参加する」。だからせっかくの休みだというのに、町内会主催のお祭りや盆踊りなどの手伝いに、PTAは駆り出されるわけだ。

ここまで見てきてはっきりわかるのは、PTAは「学校」と「地域」の、お手伝いさんであることが求められているということだ。

誰もがバカバカしいと嘆く仕事

多くの役員たちが「あまりにバカバカしい」と嘆く筆頭が、ベルマークだ。東京山手地区に住む、香織さん(44、仮名)はこう証言する。

「朝に学校に行って、子どもたちが切り取ってきたベルマークを回収し、それを会社ごとに分類し、点数を計算して、このマークを会社ごとに紙に貼り付けるという気の遠くなるような作業を、平日の昼間に役員のお母さんたちが集まって延々とやるわけです」

ここに父親が加わることはない。ベルマークは母親限定の作業と言っていい。ベルマークを巡って、全国各地から怨嗟の声が上がる。

「30人で作業して、数千円にしかならない。パートの時給を寄付したほうがまだマシ」
「まるで労力奉仕。費用対効果があまりに悪い」

なぜPTAは、このような理不尽な作業を行ってまで、学校に設備を寄付しないといけないのか。香織さんが言う。

「今では協賛企業も減ってきて、いくら頑張っても、あまり良い品物ってないんです」

なぜ、ベルマーク活動はなくならないか

なのに、なぜ、ベルマークは無くならず、母親たちに苦役を強いるのか。

それは人々のなかに「女の人件費はタダ」という考えが根付いているのと同時に、母親の金儲けを是としない「道徳的観念」が教育業界にあるからだ。

PTAという組織は大抵、会長は父親で、実働部隊は母親という構造になっている。すなわち、頭脳は男で、手足は女というわけだ。この頭脳部分にとって、「女の人件費はタダ」なのだ。戦前から変わることのない女性蔑視の通念が、PTAでは当たり前のこととして貫かれているのだ。

この「女の人件費はタダ」という考えは、PTAには発足当初から根強くある。さまざまな行事の来賓へのお茶出しだって、そうだ。下手をすれば、有給を取ってまで、母親たちは来賓へのお茶出しに駆り出される。ベルマーク同様に、ここに父親はいない。

ベルマークは戦後、僻地の教師が新聞に学校の窮状を訴え、教育設備費などの援助を求めたことが発端として発足した、文部省(当時)の許可を得た教育設備財団だ。そこには「経済と道徳の調和」を説く思想があるという。わかりやすく言えば、「母親たちは道徳と両立する経済活動を担いなさい」ということだ。

男尊女卑が根強く残る組織

企業ならこれほど人件費がかかりすぎる作業はとっくに見直されているはずなのに、いまだにベルマークという母親たちへの“苦行”が続いているのは、「女の人件費はタダ」という考えが教育業界に根付いていると同時に、母親の金儲けを是としない、うさんくさい「道徳的観念」に依るわけだ。

あるいは、目の前の活動に追われ、「止める」という決断に踏み切れないPTAも多い。

前出の香織さんは本部役員に、ベルマークを止めましょうと訴えた。

「だけど、本部役員は首を縦に振らないんです。『子どものためだから』『前からやっていることだから』と。なんのために、PTA会費を集めているのでしょう。毎年、100万円以上、繰り越しているんですよ」

ここまでしないと、母親たちは学校に寄付すらできなくされている。いまだに「女はお茶出し」という観念が色濃く根付き、「女の人件費はタダだ」という固定観念が、如実に貫かれている組織がPTAなのだ。

黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)ほか。息子2人をもつシングルマザー。