世界でも有数の“大人”の国であり、個人主義の国でもあるフランス。いつまでも美しく、そして恋愛に燃えるフランス女性たちの人生観とは?

経験値がある女性が、男性を引きつける

フランス人、そしてフランスの社会は、日本人や日本の社会よりも何倍も“大人”の国です。その理由の1つに、若い女性より成熟した女性が好まれる傾向があります。もちろん若い女性が好きな男性もいますからすべてがそうとは限りません。でも日本人ほど“若さ”にこだわる国ではないということ。

イラスト=永宮陽子

さまざまな経験値があって、重層性や多面性がある女性が魅力的だと捉えられています。あるときは老成したしたたかな女だけど、その一方で無垢(むく)な少女のように振る舞うこともできる。要するに一筋縄ではいかない、タフで手ごわい女性が男性を引きつけるのです。

フランスは革命の国。昔から「自由、平等、博愛」は男女両方に与えられたものかと思いきや、女性たちが強くなったのは1968年の「五月革命(五月危機)」以降。それまでの女性は封建的な家父長制のもと、子どもをたくさん産み、夫の承諾なしでは貯金も下ろせない、中絶も離婚も許されなかった。しかし革命を機に女性解放運動が進み、さまざまな権利を獲得してきました。現在では30代以上の8割の女性が一生涯働き(※1)、法律(※2)で女性の管理職は全管理職の4割以上と決められています。それが順守できないと、罰則があります。

そんなフランスの女性たちが人生で最高の褒め言葉であるエレガントとともに、最も大切にしている感覚は「センシュアル」=sensualだと思います。「セクシー」=sexyが外見の良さや肉感的な意味合いを持つのに対し、センシュアルは官能的でありながらも、感性(センス)と知性で人を魅了できることを表します。それは話題の豊富さ、共感力、優雅なしぐさや身のこなしなど。この魅力は、さまざまな人や社会と積極的にかかわることで醸成されていくものです。だからこそ、経験を積んだ女性のほうが魅力が増すのでしょう。

※1 経済協力開発機構調べ(2013年)。※2 2011年に制定されたコペ・ジンメーマン法。

センシュアルの具体的な例をあげてみると、たとえば会社で、意見の対立があったとします。彼女たちは男性相手に派手な議論を展開します。そして絶対引かない。でも議論が終わった後は、さっぱりとして引きずりません。「さっきは強く言いすぎたわ。ごめんなさい」と優しくフォロー。あんなに怒っていたのにウインクもしたりして(笑)。人間はギャップに引かれがちですが、これには、男性は翻弄(ほんろう)されますよね。まるで、知性あるしたたかな猫科の動物のようです。

何歳になろうが美しくあること、女性に生まれたからには、その特権を思いきり享受しようと、いい意味での“貪欲”さもあります。だから仕事も恋愛も結婚も出産も諦めません。現在の出生率は2.0に近く、日本の約1.5倍。フランス人は“冒険家”の気質があって、リスクをあえて好む民族。子どもを産まないほうが楽かもしれないけれど、子育ての苦労=リスクだっていといません。

休日は子どもをあずけて、夫とデート

といっても、フランスの場合は公的な補助があるので、子育てや学費にお金がかからない。家事は当然夫やパートナーも負担し、家計も折半。休日は子どもをあずけて夫婦で遊びに出かけるのが普通なので、日本のような“ワンオペ育児”にならない。

また、今就いている仕事にやりがいがない、待遇が悪い、と思えば次を探して、よりいい仕事が見つかればさっさと転職します。実際に一流企業の社長は、ぐるぐる変わります。A社のトップが次はB社をやって、B社のトップが次はC社をやっている。これはエグゼクティブクラスの話なので、一般のキャリア女性と簡単に比較できませんが。

転職もそうならパートナーや夫との関係性も流動的。かなり年齢を重ねたマダムであっても、相手との愛が終われば別れて次の人を見つけて付き合います。見習いたいのは、自分が男に選ばれるのではなく男を選ぶ側にもなれるということ。イニシアチブを取る女性は、実にあっぱれ。

このように人生を謳歌(おうか)しているかのようなフランス女性ですが、それはあくまで見えている部分。本質的な部分で差別は残り、給与格差、セクハラ等と女性たちはまだ戦っています。それでも完全に近い平等社会と私たちの目に映るのならば、実は巧妙な社会戦略かもしれません(笑)。成熟した手ごわいフランス文明の側面について、これを機会に興味を持ってみてください。

岩本麻奈(いわもと・まな)
皮膚科医・作家
東京女子医科大学卒業。病院勤務を経て渡仏。大学病院等で抗老化医学などを学ぶ。現在は、ASEAN、フランス、日本をベースに美と健康、生活スタイル等の情報を発信。近著に『結婚という呪いから逃げられる生き方』(ワニブックス)。