そんな“眠らない”街で、パワフルに夢を実現している女性たちの一人、ラリッサ・アンダーソンさん。抱えてる課題は私たちとも共通していました――。
高校教師から一念発起して、メディアの世界に。リスナーに“人間のストーリー”を伝えたい
大部屋の至る所で締め切りが迫る中、コンピュータ画面と向き合い、記者たちが必死になって原稿を書いている――。映画に出てくるアメリカのメジャー新聞社の編集部にはそんなイメージがある。1月の平日の午後、マンハッタンにあるニューヨーク・タイムズ(以下NYT)のオフィスを訪ねると、ほとんどの人が出払っていたのか意外にも閑散としていた。
ラリッサ・アンダーソンさんは、同社に勤務して2年になる。編集部で自分のデスクを持つ一方、オーディオルームにも頻繁に足を運ぶ。機材が並ぶポッドキャストの録音スタジオで、プロデューサー兼編集者として、ドキュメンタリー形式のニュース番組制作に取り組む。
アメリカの中西部・ミネソタ州出身で文学少女だったラリッサさんは、大学院修了後に高校の教員になる。生徒たちに小説を読む楽しさを教えたいというのが動機だった。しかしある日何げなくラジオ番組を聞いたことが彼女のその後の運命を変えた。その番組は「ディス・アメリカン・ライフ」というタイトル。市井の人々の生活や日常の一コマをドキュメンタリー形式でつづったもので、全米で高い人気を誇っている。
ドキュメンタリーと小説の違いはあるが、どちらも“ストーリー”には違いない。番組を聞いて感動したラリッサさんは、人間のストーリーに身を浸す仕事がしたいと思ったのだ。しかもラジオは好きな音楽をチェックするために慣れ親しんできた。これからのキャリアの目標はストーリーとラジオに絞られた。一念発起して、5年間勤めた高校を退職。いくつかの仕事を経て、立ち上がってまもないNYTのオーディオ部に採用された。
NYTでは1年目に長編ドキュメンタリーを担当し、最近では毎日175万人のリスナーを抱える人気番組「ザ・デイリー」の制作にもかかわっている。平日放送のザ・デイリーは常に締め切りに追われており、そのため作業は深夜に及ぶこともある。仕事を持ち帰る日も少なくない。
「家でヘッドホンをして番組の音源を聞いていると、息子たちに『ママ、遊ぼうよ!』とよく声をかけられます。仕事をしているなんて思ってないみたい(笑)」
子どもたちとの時間を大切にしたいので、睡眠時間を削ってでもおしゃべりの相手をし、本の読み聞かせもするという。「子どもが生まれてから、仕事と家庭の両立は難しいと実感しています。うまくこなせる人は珍しいのかもしれませんが」
そんなラリッサさんの頼りになる存在が、ミネソタ時代のバンド仲間だった夫。家にいる時間が自分より長いので、家事と子育ての多くを分担してもらっている。この上ない理解者が身近にいるので、彼女は今の仕事に打ち込める。
ポッドキャストの分野で、ほかの誰にもできない、緻密に構成された番組を作る。それがラリッサさんが掲げる将来の目標だ。新しいドキュメンタリー番組の話も出ていて、その準備のための企画会議などにも参加し、さらに忙しくなった。家族の深い愛情を支えに、成長著しいデジタル媒体で一流のストーリーテラーになる夢を追いかける日々は続く。
6:00 起床。自分の仕事をした後、子どもたちの学校の準備。
7:00 オートミールなどの朝食。
9:30 出勤。会議後、編集などの番組制作作業。
18:00 退社。
18:45 帰宅。子どもたちの宿題を見る。
19:00 夕食。仕事が長引いて遅くなることもあり。子どもたちが寝るまで一緒に遊ぶ。その後、また仕事をする。
1:00 就寝。
▼my favorite
●愛読書:カート・ヴォネガット著『スローターハウス5』
●好きな映画:ダスティン・ホフマン主演『卒業』
巨大メディア・ポッドキャスト記者
1977年、ミネソタ州生まれ。ミネソタ大学大学院修了後、高校の教員に。地方ラジオ局のインターン、ロースクール関連団体の秘書などを経て、ドキュメンタリー番組の制作に携わる。2017年より現職。