福利厚生ガイドブックは宝の山
いよいよ春がやってきました。春は新しい息吹が芽生えるように新入社員も入ってきます。また多くの企業は新年度に入るので、年末とはまた違ったリセット感のある時期です。仕事の面でも気分が新たになりますが、個人の生活の面でもいろいろなことを見直す良い時期と言えるかもしれません。
そんな中、会社で提供されている様々な制度にはかなり有利なものがあります。例えば会社の福利厚生全般にわたって記載されたガイドブックなどが新年度に配布されることがありますが、会社が契約していて安く利用できるホテルや旅館などの「契約保養所」の一覧ぐらいしか見ていない人が多いような気がします。ところがこの「福利厚生ガイドブック」は「お金に関するお得情報満載」の宝の山のようなものなのです。
まずはベーシックな部分からお話していきましょう。お金に関して会社の制度で知っておいた方が良いことは大きくわけて3つあります。
医療費は健康保険で大部分カバーできる
1つ目は保険制度。実は、これが最も重要な部分です。会社に勤めていれば誰もが健康保険に加入しています。毎月一定の保険料を負担することで、病気になった時に治療費の本人負担は3割で済みます。ところがこの保険料、会社が半分負担しているということは案外知られていません。さらに言えばこのような公的医療保険には「高額療養費制度」という仕組みがあり、自分が負担する金額が高額になった場合でも上限が決められています。具体的に言えば、仮に入院して月に100万円の治療費がかかった場合、その3割は30万円となりますが、実際に自分が負担しないといけないのは8万7430円だけです(年収が約770万円以下の場合)。
しかも大企業等の場合、その会社自体の健保組合があって、そこが負担してくれますから、さらに本人負担が少なくなるケースもあります。また、治療費だけではなく、傷病手当金という制度もあり、病気やケガで会社を休んだ場合、1年半にわたってお給料の三分の二が支給されます。こういった制度がどうなっているのかをよく調べることによって、現在入っている民間の医療保険などを減らすことができ、その分を貯蓄や投資に回すことで老後資金の準備ができます。
生命保険を検討する前にチェック!
生命保険も同様です。団体定期生命保険がある会社なら、保険料はかなり安く抑えられます。また、公的年金には遺族年金という制度がありますし、会社から弔慰金が出る場合もあります。生命保険に入るのなら、そういったものを総合的に判断して必要な部分に対して必要なだけ入ればいいわけで、これによってもかなり無駄な出費を防ぐことができます。したがって、これらの社会保険制度についてはもし自分に何かあった時にこうしたガイドブックを見て国や会社から援助してもらえるお金にどのようなものがあるかを知るべきでしょう。
財形貯蓄や住宅ローンの制度も要確認
2つ目は貯蓄、ローンなどの利子補給や奨励金。医療や保険だけではなく、個人の資産形成にあたっても会社が様々な補助金や利子補給をしている場合があります。最近ではあまり利用する人も少なく、制度自体が無くなっている会社もありますが、財形貯蓄などでは残高に対して一定の補助金が付与されることもあります。また、従業員持株会等は本人の掛け金に対して10%以上も奨励金を付与しているところは決して珍しくありません。
さらに住宅ローンなどについても、会社が一定の利子補給をしてくれる場合、低利で融資を受けられるメリットもあります。昨今は低金利の上に税制優遇もあるため、そのメリットがあまり感じられませんが、将来金利が上昇した時などにはこういう補助があるのはとても有利です。
意外と知らない人が多い企業年金
3つ目は退職金と企業年金の制度。退職金とはどういうものかは知っていても企業年金については知らないという人が結構多いのです。中には公的年金と企業年金をごっちゃに考えている人もいます。ところが企業年金や退職金というのはとても大切なものです。老後生活を支える一番土台になるのは言うまでもなく公的年金ですが、その上に乗っかってくるのがこの「退職金・企業年金」だからです。自助努力で老後に備えるのはこれらの二つの土台をベースにし、それでも足りないと思う場合に自分で老後資金を貯めれば良いのです。したがって、まずは公的年金に加えて、会社の退職金や企業年金があるのかどうか、あるとすればどのような仕組みになっているのかを知ることが大切です。多くの場合、これも社内のイントラ等で公開されていることが多いので、見ておいた方が良いでしょう。
これら、直接経済的なメリットが得られる制度の他にも会社によっては自己研鑽やレジャー等について会社が援助してくれている場合があります。冒頭にお話した会社の契約保養所などもその一つです。このように、給料等の報酬以外に社員が享受できる利益のことをフリンジ・ベネフィットと言います。今まで紹介したことは全ての会社で提供されるわけではありません。会社によってその内容は様々に異なりますが、一般的には大企業の方がこうしたフリンジ・ベネフィットが手厚いという特徴があります。
もし、財前部長が転職したら……
これはドラマの話ですが、「下町ロケット」に登場する帝国重工という会社は日本を代表する巨大企業として描かれています。その帝国重工に勤める財前部長はドラマにおける典型的なヒーロー像で、様々な苦難や会社の中での陰湿な妨害を受けながらも目的に向かって邁進する姿は誰もが共感を覚え、憧れます。でも一方では、あれだけ社内の派閥抗争で嫌な思いをするのなら辞めて独立してもいいでしょうし、ライバル会社に移っても大活躍するはずです。恐らく彼の部下も多くが付いてくることでしょう。もちろんドラマですから、それをしないで社内に残って戦うから面白いのだとも言えますが、ライバル会社に移ったら移ったで、それはそれなりの面白いストーリーになるような気がします。
知る人ぞ知る、お得な制度
突然、どうしてこんな話をするかということですが、これはフリンジ・ベネフィットを考えた場合、大企業においてはおおいにあり得ることだからです。現実に大企業にいる人達は多かれ少なかれ財前部長のような厳しい状況で仕事せざるを得ない人はかなり多いだろうと思います。しかしながら、あまりにも福利厚生が充実しているためになかなかそこを離れることができないという人は実際にたくさんいます。私が今まで取材した人の中にも、本当は会社を辞めたいけど「とにかく企業年金を受け取れる資格のくる年齢までは我慢して会社に残る」とか「健康保険のことがあるので、辞めたくない」という人は意外と多いのです。
ことほど左様に会社の福利厚生制度というのは知る人ぞ知るお得な制度で、これを知っておくことで随分無駄なお金を使わなくて済みます。そもそも、「会社の制度」は収益を挙げることを目的としたものではありませんので、民間のさまざまな金融サービスに比べてかなりメリットは大きいからです。
日本の企業において、こうした福利厚生は昔に比べて小さくなったとは言うものの、やはりまだまだ有利な制度は残っています。たかが会社の制度と思わずに、具体的にどんなサービスが受けられるのかを知った方が良いと思います。“社員だからこそ受けられる経済的利益”をうまく活用することは、サラリーマンの特権です。福利厚生ガイドを「契約保養所」の欄しか見ていないとすれば、それは大損ですよ。