「家事をやらなさすぎ」の自覚は世界一
最近は「イクメン」という言葉もずいぶんと広がり、以前と比べれば、男性も家事や育児を担うのが当たり前という風潮は強まりつつあります。現在は働き方改革が進行中で、それにしたがって仕事や家事における男女の平等も進んでいくものと思われます。そう考えると今は過渡期なのでしょう。
とはいえ、日本の男性の家事時間が少ないのは事実です。日本の男性が日常の家事に費やす時間は1日あたり25分で、世界の中では下から数えて3番目(図表1)。日本の男性も自分たちが家事をしていないことは重々承知で、4割近くの男性が「自分は家事をやらなさすぎだと思う」と答え、その割合は世界1位です(図表2)。
わかっているのに行動できないワケ
「もっと家事を分担しないといけない」という意識を持ちながら、それがストレートに行動につながっていません。有力な理由の一つは、男性の中に「家事ができる男はカッコいい」という価値観がまだ芽生えていないからだと思います。私が研究対象としているスウェーデン社会では、男性が街中で子どもを乗せたバギーを押しているのは当たり前の光景です。
また、夏の休暇中、家族が森の中でキャンプをするとお父さんが火を焚いて調理しています。日本でもキャンプの料理は父親担当のケースは多いでしょうが、スウェーデンでは日ごろから男性も料理をしていて、キャンプもその延長で腕を振い、家族もその姿をカッコいいと受け止めています。
このように家事をする男性は自他ともに素敵に見えるわけです。ちなみに我が家もスウェーデンの影響を受けていて、とくにカレーをつくるのは私の担当。息子も「カレーだけはお父さんのほうが美味しい」と言い、尊敬してくれます(笑)。
家事ができない男はあからさまにモテない
そのような背景もあり、スウェーデンでは家事時間の男女差は1日あたり1時間以内に収まっています(図表3)。一方、日本では女性が男性よりも毎日およそ2時間半も多く家事をしています。日本でも男性が家事をするのがカッコいいと思い始めれば、男女の時間差が縮まっていくことでしょう。
女性の側も、もっと家事のできる男性の価値を認めるといいと思います。スウェーデンでは家事のできない男はあからさまにモテないんです。家事のできることが結婚の条件にさえなります。だからたとえば「自分が親として子どもに伝えたいこと」として「男性も家事や育児に積極的に参加すべきである」を挙げたスウェーデン人は77.1%に上り、日本人の45.8%を大きく上回っています(内閣府(2016)『平成27年度少子化社会に関する国際意識調査報告書』)。
日本ではまだまだ根強い専業主婦願望
日本の女性は、たとえうちの学部の学生のように若い女性でも、そこまでの意識はありません。まだ、稼ぎのよい男性がいたら専業主婦になりたいという女性もいるくらいです。これは、データでも出ていて、「主婦の仕事は収入を得る仕事と同じくらい充実していると思う人の割合」は、日本では69.3%(世界2位)もありますが、スウェーデンでは25.1%(24位)しかありません(図表4)。
男性と女性の言い分をひっくり返したらそのおかしさに気づくと思います。女性がイエに入りたいと言ってもふつうに聞こえますが、男性がイエに入りたい、もっと表現をきつくして「ヒモになりたい」と言ったらぎょっとしませんか?
スウェーデンでは家事のできない男もモテませんが、「イエに入りたい」と願う女性もモテないんです。家事ができることは男性にとってのモテ要素、働くことは女性にとってのモテ要素になっているということです。結果として、スウェーデンでは母親の就業率が83%(世界1位)を超えている一方、日本では63.2%(同21位)にとどまっています。
“お手伝い感覚”からの卒業を!
すでに結婚していて、今からパートナーの男性にもっと家事をしてもらいたいという場合は、男性が家事をしたら大いに褒めることです。仕事一辺倒、残業ばかりの男性はカッコ悪くて、家事や育児に一生懸命な男性はカッコいいんだという価値観を家庭内でつくっていくといいと思います。そして「ともに仕事も家のことも担う」という感覚を夫婦で養うといいでしょう。ちなみにこの「家計は夫と妻の両方で支えるべきという人の割合」についても、日本では45.6%と低く、世界でワーストです。
スウェーデン人に「こちらの男の人は家事をよく手伝って偉いですね」と褒めると、「手伝いじゃないでしょ。一緒にやることでしょ」とたしなめられてしまいます。家事に主従の関係をつくらないことが大事です。
男性の家庭進出では、男女の分担を決めすぎないことも大切です。お互いに急に重要な仕事が入って残業となり、その日に分担していた家事ができないこともあります。そんなときは、できるほうが担当しようくらいの鷹揚な気持ちをもったほうがうまくいくでしょう。
男性の家庭進出を阻む女性は要注意
それから、男性が従来女性ばかりだった世界へ進出することを、女性自身がさまたげないことも重要です。私も経験していることですが、PTAは会長だけが男性で役員はほとんどが女性というケースが多いですし、子どものスポーツクラブでコーチは男性だけど、サポートする人はみんな女性ということも珍しくありません。スウェーデンでは、そういった性別による偏りがあまりないように感じます。
日本では男性が手を挙げてPTAやスポーツクラブの仕事を手伝おうとしても、女性側が「女性だけのほうが、もっと砕けた話ができるのに」という雰囲気になることがあります。男性の担い手を増やそうと思っても、「うちのダンナにはそんな役はムリムリ」と遮断してしまう人も少なくありません。女性が自分たちの世界に男性の進出を阻むことは、男性の家事の分担をさまたげることにつながっていくのです。ブーメランのように女性側のデメリットとして返ってきますから、そこは注意したほうがよいと思いますね。
明治大学国際日本学部教授・学部長
1992年東京大学法学部卒。英国ウォーリック大学で博士号(PhD)。97年から10年間、ストックホルム商科大学欧州日本研究所勤務。日本と北欧を中心とした比較社会システムを研究する。