口先だけの「一見いい人」は、30分あればボロが出る
口数が少なくて好かれる・嫌われる人がいる一方、誰に対してもペラペラと話す口数が多い人、いわゆる「話上手」な人は、果たして愛される人になりうるのだろうか。
「話すのが苦手なアンチ言語表現系に対し、話が得意な人を『言語表現系』としました。言語表現系の人は、自分中心に話すことが多く、自分自身の自己実現欲求は満足させているけれど、相手の自己実現欲求を満たせていないタイプが多い」と、パフォーマンス学博士の佐藤綾子さん。
たとえば、成績のよい営業パーソンほど口数が多いかというと、必ずしもそうではないという。
「話好きの営業パーソンは、自分が話したくてうずうずしているもの。相手にも話すタイミングを適度に渡してあげないと、相手は『自分も話したい』という欲求を満たせず、不満だけが残ります。結果、この営業パーソンからは買いたくない、イヤな人だと毛嫌いされてしまう」
では、言葉での表現が上手で、しかも相手の欲求を満たすのがうまい人はどうだろうか。
「あまり話がうますぎると、最初はいい人だと感じても、次第に『大丈夫?』と思うのが人間。その人が信頼できるかどうかの判断は、話の中に『LEP』があるか否かです」
LEPとは、「論理=ロゴス(Logos)」「信頼性=エトス(Ethos)」「情熱・感情=パトス(Pathos)」を指し、話の中にこの3つがないと相手を説得できないという、哲学者・アリストテレスが説いた理論だ。信頼性は過去の実績がものをいうため、うわべだけでは繕えない。また論理も時間をかけて醸成するもの。だが、情熱や感情は、表現次第では一瞬で相手の心をつかむことができる。
「LEPの3つが揃わないと、人はその人を信用したり、心の通うチームを組んだりできません。やたらと好き嫌いだけで話をするとか、実績もないのに、自分の論理を押し通すとか。話にエトスがない人は、避けられてしまうのです」
LEPで相手の人となりを確かめるにはある程度時間がかかり、初対面で判断するのは難しい。では、初対面で相手を信用できるかどうかを判断する術はあるのだろうか。
「ウソをついている人、信用できない人は、話しているときに上下の表情筋の動きがズレるのが特徴。口元が先に動き、1秒ぐらいあとから目の表情がついてきます」
口先だけでいいことを言う人、相手を騙そうとしている人は、口元に笑みを浮かべておべんちゃらを言うが、相手の反応を凝視するため、目は一切笑っていないそう。信用できない人を見破るには、できるだけ長く話すことが有効だという。
「相手の話の中に、次第にLEPのズレが浮き上がってきます。調子はいいけれど論理性がない、心地いい言葉を使うけれど具体的な内容がないなど、30分話せばなんとなくわかってくるもの。詐欺師のように口のうまい人には、同じ質問を違う表現で何度も投げかけてみましょう。答えのつじつまが合わなくなってきて、目が泳いだり片方の口角がゆがんだりと不自然さが多くなります」
女性は表情から感情を読み取る能力が高いため、うさんくさい相手を嗅ぎ分ける力も男性より長(た)けている。ただし、その感情を読み取る能力を対男性で発揮する女性に厳しい目を向けるのもまた女性だという。
「若い女性は特に、男性の好みに合わせて『こう言ったほうが喜ぶ』『こんなトーンの声が好き』などを相手の表情から瞬時に読み取り、サッと切り替えるのが得意。ただし、女性は同性のそうした『演じ分ける力』を知っているので、口だけうまくて実力が伴わない女性をすぐに見破ります」
だからこそ、男性が「若い、口だけ女子」にデレデレするのを見て、「何なのあの子!」と怒り心頭に発するのだ。
「信頼性がなく口がうまいだけの実力もない女性に対し、アンフェアな闘いで社会を渡らないで!という『正義の気持ち』が起きるのです」
男女問わず、「話がうまい」人で関わっていいのは、実力が伴い、信頼性のある人だけ。情熱的な「口先人間」にはくれぐれもご注意を。
“調子よく話していても不自然な表情と話でウソがわかる”
言葉
○大きいことを言う
○初対面でもなれなれしい言葉づかい
○相づちや、褒め言葉が大げさ
○同じ質問なのに回答のつじつまが合わない
○こちらに話すタイミングを渡さない
○自分が話したいことばかり話す、または、プライベートな話題を避ける
表情
○ときどき目をそらす
○目が笑っていない
○まばたきの回数が多い
○目を見開いて話す
○唇をなめる
○盗み見をする
●どちらにも2つ以上あったら要注意! 少し距離を置いて観察するのがオススメ。
国際パフォーマンス研究所代表
パフォーマンス学博士、ハリウッド大学院大学教授。自己表現研究の第一人者として、4万人を超えるビジネスパーソンや経営者などへスピーチを指導。パフォーマンス教育協会理事長、日本カウンセリング学会認定カウンセラー・スーパーバイザー。『できる大人の「見た目」と「話し方」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書は190冊超。