コンビニよりも多くの歯医者が乱立する時代。危ない歯医者を避けてよい歯医者を見わけるにはポイントがあるようです。“80歳まで20本以上の歯を残す”ために、知っておくべき知識をお教えします――。

30~50代は「やり直し世代」。

「80歳になっても歯を20本以上残す」ことをめざし、厚生労働省と日本歯科医師会は長年、8020(はちまるにいまる)運動に取り組んできた。達成率はすでに50%を超えている(日本歯科医師会調べ)。「ただし、30~50代の皆さんは虫歯が多く、治療を何度もやり直す悪循環に陥っている人が少なくありません」と新大阪歯科診療所の佐々木猛院長。なぜなのか?

イラスト=itabamoe

「治療の質に問題があることが多い。例えば、虫歯を削って型を取り、かぶせる際の精度が悪いからやり直しになる。こういった治療だと、虫歯は再発し、歯周病も悪化します」

治療の質次第で、歯はもっと健康的で長持ちするという。だが歯科治療は幅広く複雑で、見極めは難しい。

「簡単な見分け方をお教えします。特に歯周病の治療とインプラントは長期間かかるし、治療費も高額。厳しくチェックしてください」

▼歯医者を選ぶときはココをチェック!
受診前
○違法な広告や派手な宣伝をしていないか?
○年中無休、夜間診療をしていないか?
○インプラントの本数などの実績をうたっていないか?
○極端な値引きキャンペーンをやっていないか?
○受付の人や歯科衛生士の対応が明るく、親切か?
○医師が歯周病学会などの学会に入っているか?
○歯の掃除やブラッシング指導をする歯科衛生士がいるか?
治療前
○患者の訴えを聞いたうえで、検査に30分以上かけているか?
○健康な歯と病気の歯を対比しながら、現状をトータルで説明しているか?
○レントゲンやCTなどの検査をしているか?
○検査結果を見ながら、治療方針について説明しているか?
○患者が理解し、納得いく説明を受けられているか?
○治療方法について3~4つの選択肢があるか?
○治療を説得されていないか?
治療に入ったら
○アポイントメント通りに治療が始まるか?
○毎回、治療の経過説明はあるか?
○治療の方針が変更になったときに説明されているか?
○マイクロスコープや拡大鏡といった拡大視野を使っているか?
○個々の歯並びに合った型どりをしているか?
○無責任に「様子をみましょう」と言われていないか?
○治療の結果はレントゲンを見せながら説明があるか?

「年間2000本」は天然歯軽視の証拠?

佐々木医師が一番に挙げるのは、看板に掲げる診療科目のチェックだ。

「インプラント、審美といった診療科目を看板に書くのは法律で認められていません。書いていい診療科目は歯科一般、小児歯科、矯正歯科、歯科口腔(こうくう)外科だけです」

ホームページで「インプラント年間2000本」など、症例数の多さをうたうところも要注意だという。

「技術の高さをアピールしたいのでしょうが、天然歯を残す努力をあまりしていない証拠にもなります」

治療前には、説明が丁寧か、わかりやすいかもチェックしたい。

「レントゲン写真を使っての説明も、健康な場合と対比して説明することが必要。病気の写真だけ見せられてもわかりませんよね。大切なのは患者さんが意味を理解しているかどうか。わかりやすい説明は質の高さの証明です」

治療の質が顕著にあらわれるのは、治療の精度へのこだわりだという。

「かぶせ物を作るときなどに、個別のトレー(型枠)を作製しているかどうかは重要です。歯列は十人十色。既製の型枠を使いまわすようでは、こだわりが高いとはいえません」

イラスト=itabamoe

歯周病はこうすすむ●歯周病はプラーク(歯垢)が引き起こす「歯の周辺の細菌感染症」。初期は歯肉が赤く腫れる「歯肉炎」、進行すると歯を支えている骨が溶けて「歯周炎」となり、放置すればやがて歯は抜け落ちてしまう。

▼歯科治療のウソ? ホント?
よくいわれる治療の常識も、実は常識ではないかも……。素朴な疑問をぶつけてみました。
QUESTION(1)治療が早く安く終わる歯科医は良心的で信頼できる
→ウソ×

治療期間と費用は治療プランによって異なります。最良のプランは時間も費用もかかるけれど、質が高く長持ちするものです。保険の範囲内で済ませる治療は、早くて安いかわりに、見た目も強度もそれなりになります。質を重視する患者さんは、一番安価なプランは選びませんね。3~4ある選択肢の利点・欠点を、できるだけ客観的に説明してくれる歯科を選ぶのも大事です。
QUESTION(2)歯は絶対に抜かないほうがいい
→ウソ×

もちろん歯を残す努力は重要ですが、治療できる限界を超えてしまった歯は抜いて、ブリッジやインプラントでちゃんとかめるようにして、口腔内の健康を取り戻すための治療をするべきです。無理に残せば、顎の骨がなくなって入れ歯も安定しなくなり、インプラントだってできなくなるでしょう。1本の歯だけでなく、口の中全体の健康を守る視点を持ちたいものです。
QUESTION(3)ブリッジかインプラントならブリッジのほうがいい
→ウソ×

ブリッジは、手術なしで短期間で治療でき、かみ合わせの調整が天然歯と同じようにできるのがメリット。ただし、健康な歯を削るうえに、2本の歯で3本分の人工の歯を支えるので両側の歯に負担がかかる。インプラントは、歯は削らないものの手術を要し、かみ合わせの調整も難しい。ともに利点と欠点があり、一人一人の口腔内の状態によるので、ケースバイケース。
QUESTION(4)ホワイトニングは時間をかけたほうがいい
→ホント◎

方法はいくつかありますが、レーザーなどで一気に白くするより、患者さん自身が自宅で、トレー(マウスピース)に薬剤を入れてゆっくりと漂白するほうが刺激は少ないので、歯にとってはいいと思います。後者の方法によるホワイトニングだと、通院回数は4~5回で、1~2カ月かかります。また上顎、下顎の両方の場合は1.5倍の期間と回数になります。
QUESTION(5)ストレスで歯がグラグラ。これって歯周病?
→ホント◎

精神的なストレスが強いと、無意識に歯ぎしりや食いしばりをしてしまいがち。その力はすさまじく、寝ているときの歯ぎしりは、起きているときに思い切りかむ力の5倍もあるそうです。歯周病の主な原因は細菌感染ですが、歯周病の状態で歯ぎしりや食いしばりをすると、歯は一気に破壊され、歯周病の悪化速度が倍増。グラグラになってしまうこともあるので要注意。
QUESTION(6)歯周病になってしまったらもう治らない
→ウソ×

歯茎を切開してなかをキレイに掃除して、薬を塗って治す、外科手術による歯槽骨の再生医療ができるようになりました。よほど悪化した歯周病でない限り、だいたい半年から1年で骨が再生し、歯を残せる可能性があります。新薬が開発されるなど、治療法は進化しています。ただし、骨の再生には条件があるので、歯周病の専門医に尋ねてみてください。
QUESTION(7)インプラントにしても歯周病になる
→ホント◎

インプラントは虫歯にはなりませんが、油断禁物。歯周病には天然歯以上に注意が必要です。というのも天然歯と違って、防御機能がないからです。細菌に感染してしまうと、歯周病は一気に悪化します。しかも悪化した後の治療法が確立されていないため、天然歯の場合よりも重症化しやすい。長持ちさせるためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。
QUESTION(8)インプラントの相場は決まっている
→ウソ×

1本40万~80万円とばらつきがあり、なかには8万円と極端に安価なところもありますね。はっきり言って、安さを売りにするところは要注意です。インプラント単体でも精度の高いしっかりした品質のものは1本5万~6万円はします。それに技術料や手術代、診断料等々を考えれば、最低1本40万円はかかります。どこかで手を抜かない限り、それ以下の値段ではできません。
佐々木 猛(ささき・たけし)
医療法人貴和会 新大阪歯科診療所院長
1969年生まれ。大阪大学歯学部卒業。歯科医師の卒後研修団体JIADS理事。週2日は銀座歯科診療所でも診療している。