「自分が興味を持てる会社に絞る」が重要
投資でお金を増やすのは簡単ではありません。しかし、適切な手段で銘柄を選択すれば、高い確率でリターンを得られる可能性があります。その方法は主に3つあります。(1)投資環境や自分の投資方針に応じて銘柄のランキングを作成し、上位銘柄に投資する。(2)ランキングを作成したうえで自分が関心を持てる銘柄に絞って投資する。(3)まず自分が興味を持てる会社に絞り、投資するタイミングを計る。
この中で初心者でも実践しやすいのは(3)です。(1)と(2)で利用するランキングを作成するのは容易ではないからです。(3)のように自分の関心のある会社ならすぐに選ぶことができますし、投資タイミングは投資指標を上手に活用すれば簡単に実践できます。そこで、投資タイミングの判断に役立つシンプルな投資指標を紹介しましょう。
STEP1:関心のある業界や銘柄を選ぶ
STEP2:投資指標で投資タイミングを見極める
▼4つの投資指標の基本をマスター
【PBR】
バーゲン価格で買える銘柄が見つかる
株主になると、間接的にその会社の資産を保有することになります。1株を買ったときに間接的に保有する会社の資産を「1株当たり純資産」と呼びます。PBR(株価純資産倍率)は株価が1株当たり純資産の何倍かを示します。株価が1000円で1株当たり純資産が1000円なら、1000円で1000円の資産を買ったことになりPBRは1倍。株価が800円で1株当たり純資産が1000円なら0.8倍です。倍率が低いほど株価は割安と判断します。
【PER】
投資元本を回収できる年数が判断できる
PBRでは1株当たり純資産に着目しますが、PER(株価収益率)では、1株当たり純利益を利用します。PERが低いほど株価は割安とされます。株価が1000円で1株当たり純利益が100円であればPERは10倍です。株価が純利益の10倍であることを意味しますから、理論上は株式を10年保有すれば、投資元本を回収できることになります。株価は将来の予想を反映して変動するので、PERでは来期予想値を使います。
【配当利回り】
預金よりも有利かどうかを判断する
会社が事業で得た利益の一部は配当金として株主に還元されます。その金額を利回りに換算したのが配当利回りです。配当金は株式を保有している間は受け取れるので、預金の利息のような側面があります。そこで、定期預金の利息よりも配当利回りが上回っていれば、その銘柄は割安だと考えます。将来受け取る配当金が重要なので予想値を使います。ただし、投資した後で株価が下がったり、配当金が減ったりしないかの見極めが必要です。
【ROE】
株主に還元できる余力を見極める
ROE(自己資本利益率)は、企業の成長性や収益性を判断する指標です。自己資本に対して、どのくらいの利益を稼いでいるかを示します。自己資本は株式を発行して投資家から集めた資金など、返済の必要がない資金のことです。ROEが高いほど、株主から得た資金を効率よく活用して利益を得ていることを意味します。同時に株主に利益を還元する余力があるということにもなります。ROEを計算する際は来期予想値を利用するのが理想です。
▼4つの指標をもとに銘柄を選んでみよう
【PBR】
1倍が割安と割高の判断の分かれ目
PBRが1倍未満なら割安と考えて投資を検討するのが代表的な活用法です。シンプルなので「本当に成果を出せるのか」と心配になる人もいるでしょう。そこで私が検証した結果を紹介します。東証1部の全銘柄に投資した場合とPBRが低い順にランキングして上位2割の銘柄に投資した場合を比較しました。期間は1997年10月末から2016年6月末までの18年7カ月です。詳しい計算方法は省きますが、低PBR銘柄に投資したほうが利益は153%多くなりました。仮に100万円を投資していた場合、東証1部全体よりも平均で153万円儲けの金額が多かったことに。明らかに優位です。たとえば輸送用機器業界で探してみた銘柄が表です。
【PER】
15倍以下を基準にし業界下位3割を選ぶ
PERには、PBRの「1倍未満」のような明確な基準がありません。よって経験的な値から判断します。そこで第1の基準として15倍以下を目安にします。プロは15倍以下なら“割高ではない”と考えています。これはゆるい基準なので、第2の判断材料を組み合わせます。業種ごとの数値よりもPERが低い銘柄を選びます。実際には、自分の関心のある銘柄をピックアップし、前述の2つの条件を満たすものを投資対象と判断するのです。PERには実績、今期予想、来期予想などがあり、理想は来期予想ですが、ネット証券で確認しやすい今期予想を参考にしてもいいでしょう。食料品業界で有望銘柄を選んだ例が表です。
【配当利回り】
将来の配当が減らないかを確認
配当利回りはとてもわかりやすい指標ですが、投資後に株価が下がったり配当が少なくなったりしては意味がありません。そのリスクを減らすために2つの絞り込み方法を紹介します。ネット証券などの企業業績ページには、前期の実績経常利益と今期の予想経常利益が掲載されています。今期の予想経常利益が前期の実績経常利益を上回っていることが第1の条件です。第2の条件は「今期予想営業利益÷今期予想売上高」で計算した予想売上高営業利益率が2.5%以上であること。2つの条件のうちいずれかを満たしていれば、株価が下がりにくく配当が減りにくいと判断します。小売業界で調べてみると表のような銘柄がピックアップされます。
【ROE】
8%以上の銘柄で業界上位3割に絞る
ROEを利用した銘柄選びでは、2つの基準で絞り込みます。第1はROEが8%以上であること。これには、アベノミクスの第3の矢として打ち出された長期成長戦略が関係しています。外国人投資家の評価を得るために、ROEを8%以上にする方針が打ち出されたのです。結果として、上場企業の多くが8%を目標にするようになっています。
ただし、ROEは業種によって異なるので、業種ごとにROEをランキングして上位3割に入る銘柄を選びます。来期予想数値を使うのが理想ですが、ネット証券で確認しやすい今期予想数値を参考にしてもいいでしょう。医薬品業界で選んでみると、表のような銘柄が選べました。
▼業種に着目して銘柄選びの精度をアップ
PERとROEは業種の差が大きい
紹介した4つの投資指標のうち、PERとROEは業種によって値が大きく異なります。このため、有望銘柄を選ぶときには、業種の違いも考慮する必要があります。
【PER】
・為替の影響を受けやすい業種 →予想PERは慎重な数値になる
・成長している業種 →予想PERは高くなる
【ROE】
・設備投資が必要な業種 →予想ROEは高くなる
・設備投資があまり必要ない業種 →予想ROEは低くなる
なぜ、業種による違いが出るのでしょうか。PERは会社の利益を基準に計算しますが、自動車など海外で稼ぐ比率の高い業種は、為替変動の影響を大きく受けます。円高なら利益が減りますし、円安なら増えます。利益の予想が難しいためPERが低くなる傾向があります。もう1つの理由は業界の成長性です。PERの数値が同じでも伸びている業界のほうが期待値は高くなります。
一方でROEは、設備投資の影響を受けます。設備投資が必要な業種はROEが高くなりやすく、そうでない業種の場合には低くなりやすい傾向があります。このような理由からPERとROEは業種別に見る必要があるのです。業種内でPERは下位3割以内、ROEは上位3割以内を基準にします。表は、業種ごとに3割以内に入る銘柄のボーダーラインの数値を示しています。たとえば、水産・農林業のPERは10.49倍になっています。この業種の銘柄をPER基準で選ぶ場合には、10.49倍以下を有望と判断します。
▼上級者編:さらに覚えておきたい5つの指標
銘柄選びの参考になる4つの投資指標を解説してきましたが、他にも数多くの指標があります。ここでは、覚えておくと参考になる5つの指標を紹介します。
【自己資本比率】
会社の安全性をチェックする
資本とは会社が事業を営む際の元手になる資金ですが、株主から集めた資金など返済の必要のない資本を自己資本、銀行からの借り入れなど返済の必要がある資本を他人資本と呼びます。自己資本比率は会社の資本のうち自己資本の割合を示します。数値が高いほうが経営は安定しているといえますが、業種による差があるので、業種平均と比較するのが有効です。
【PCFR】
現金を基準にして経営の安全度を判断
PCFR(株価キャッシュフロー倍率)はキャッシュフロー(CF)、つまり現金の動きを基準にした指標です。「株価÷1株当たりのCF」で計算します。CFには営業CFと投資CFの合計額を使います。この計算式はPERと似ています。分母が「1株当たりの予想純利益」から「1株当たりのCF」に変わっただけです。
どちらを重視すべきかといわれればPERですが、PCFRは景気が厳しい状況になったときにPERと組み合わせて使うことで実力を発揮します。景気が悪くなると取引先が倒産して売り上げを回収できなくなる可能性があります。PCFRが低ければ、しっかり回収できる可能性が高くなります。
【経常増益率】
会社の成長性を測る代表的な指標
経常増益率は、ROEと同様に会社の成長を見る指標です。ただ、ROEは収益力を見るのに対し、経常増益率は、成長が加速しているか減速しているか、その方向性を表しています。「(予想経常利益-実績経常利益)÷実績経常利益」で計算します。経常増益率の数値が高いほど成長が加速していると判断しますが、どの程度の数値がいいのかは難しいところです。景気がよければ経常増益率が高くなる会社が増え、景気が悪くなれば減るからです。あえて目安を出すなら、8%以上の会社なら経常増益率が高いと考えましょう。ただし、経常増益率が高くても、すでに株価が上昇していることもあります。よってPERと組み合わせて判断するといいでしょう。
【増収率】
長期的な企業の成長性を見極める
増収率は経常増益率と同様に会社の成長を見る指標です。「(予想売上高-実績売上高)÷実績売上高」で計算します。数値が高いほど成長の可能性が高いと判断します。経常増益率と違うのは、将来の売上高を基準にしていることです。売上高が伸びるのは企業活動が拡大していることを意味します。よって増収率は長期的な成長を判断する指標といえます。利益を基準にした場合、売上高が伸びなくてもコスト削減で増やすことができますから、会社が成長しているとは限りません。
【ROA】
会社全体の収益力が判断できる
ROA(総資産利益率)はROEと同様に会社の成長性を見極める指標。一般的には「予想営業利益÷総資産」で計算します。ROAは計算に総資産を使用するので、借入金などが含まれます。一方でROEには借入金が考慮されないので、数値が高くても莫大(ばくだい)な借入金があるかもしれません。その場合にはROAを補完的に利用。ROEが高くてもROAが低い場合には、大きな借金を抱えている可能性が高くなります。
ニッセイアセットマネジメント 投資工学開発センター長
大和証券などを経て現職。日経ヴェリタス人気アナリストランキング・クオンツ部門で2002年から17年まで16年連続1位を獲得。著書に『No.1アナリストがいつも使っている 投資指標の本当の見方』(日本経済新聞出版社)など。