初めての「産院選び」では、どこに注意すればいいのか。家から近くて通いやすいところがいいのか。無痛分娩はどこでも受け付けているのか。働く女性3人が、現役産婦人科医の宋美玄先生に聞きました。記事末尾の「都内有名7病院 徹底比較リスト」とあわせてご覧ください。

※本稿は、「プレジデントウーマン」(2018年7月号)の掲載記事を再編集したものです。

木本澄江さん(41歳・仮名)
39歳で第1子を出産。無痛分娩を希望したが、休日出産で麻酔医不在のため、結局、普通分娩に。
花岡みゆきさん(38歳・仮名)
35歳のときに緊急帝王切開で第1子を出産。産院は完全母乳の方針だったが、母乳が出ずに苦しむ。
小山麻里さん(35歳・仮名)
現在妊活中。2018年中になんとか妊娠したいと不妊治療をしながら、産院などの情報も集めている。

高齢出産なら、なるべく大病院で産んだほうがよいでしょうか?

【小山さん(以下、小)】一口に産院といっても、いろいろなところがあります。お二人が選んだ産院は、何が決め手になりましたか?

イラスト=いいあい

【木本さん(以下、木)】私は家から近くて、無痛分娩(ぶんべん)をしているということが決め手になりましたね。

【花岡さん(以下、花)】私が選んだ産院は、妊娠前から通っていた婦人科と提携しているところで、やはり家から通いやすい場所にありました。

【小】お二人とも、家の近くだったんですね。宋先生、家から近いというのは大事ですか?

【宋先生(以下、宋)】もちろん大事です。お産は何があるかわからないので、あまり遠いところはやめたほうがいいですね。

【小】いざ産院を探すとなると、やっぱり周りの評判も気になります。

常勤医は最低でも4人ぐらいはいたほうがいい

【宋】口コミは、かなり割り引いて聞いたほうがいいですよ。「そこがいい」と言われると、みんなそこにダーッと行きますから。口コミやブランド、施設がキレイ、医師のカリスマ性、高そうだからよさそうといったことから選ばないことが大切です。

【小】そうなんですね。ついネット検索とかしちゃいますが……。

【宋】まず首都圏の大病院と地方のクリニックでは様子が全く違います。大病院の場合は、常勤医が何人いるか、どんな専門医がいるか、といったことが重要。これはホームページを見れば、ある程度はわかります。常勤医は最低でも4人ぐらいはいたほうがいい。人数があまりに少ないと、ブラックで回している可能性がありますね。1人すごい医師がいるところよりは、層が厚いところを選んだほうがいいと思います。

【小】実家の静岡に里帰りして出産しようかとも考えていますが、地方の小さいクリニックはどうですか?

【宋】小さいクリニックは、大病院に比べると緊急態勢ではハンディがあると思ったほうがいいでしょうね。小さい病院であればあるほど、院長の腕にかかっていると言えます。

【小】では、高齢出産では小さいクリニックは避けたほうがよいということでしょうか。

【宋】高齢というのは、ひとつの大きなリスクなので、できれば大きい病院を選んだほうがいいでしょうね。

小規模クリニックでの「無痛分娩」には要注意

【小】小さいクリニックだと無痛分娩が難しいということはありますか?

イラスト=いいあい

【宋】小さくても無痛分娩をやっているところもありますが、基本的に安全性が確保されていないところでの無痛分娩はおすすめしません。無痛分娩を売りに医師1人でやっているところもあります。でも何かあったら少なくともお母さんを診る医者、赤ちゃんを診る医者の2人は必要ですから、そういう体制が常時とれていないようなところはやめたほうがいい。同じく普通のクリニックの診療体制で、VBAC(帝王切開で出産した経産婦が2人目以降の出産で経腟分娩をすること)など、リスクの高いことをしているところも要注意です。

【木】大病院でも無痛分娩は麻酔医がいなければ、24時間365日対応しているとは限りませんよね。私も休日出産で麻酔医不在だったため、無痛分娩がかないませんでした。ここはチェックしておいたほうがいいと思います。

▼産院選びで、おさえておきたいチェック項目
(1)無痛分娩の可否
複数の常勤医のいる安全性が確保された産院で行うことが大前提。そのうえで24時間365日対応しているか確認を。
(2)NICUの有無
早産の新生児などを収容する新生児集中治療室のこと。安定状態になったら入る後方病床のGCUもチェック。
(3)周産期センターの有無
妊娠22週から出生後7日未満までの周産期に、高度で専門的な医療を提供できる施設。産科と新生児科の両方がある。
(4)BFH認定の有無
WHO・ユニセフは規定の母乳育児を実践する産院をBFH=ベビーフレンドリーホスピタルとして認定している。
(5)母乳育児の方針
完全母乳か粉ミルクと母乳の併用かは、産院の方針で大きく異なる。個々のケースに応じる場合も多い。
(6)母子同室の方針
産後すぐからか、何日目からかは、産院の方針で異なる。夜間に赤ちゃんを預かってくれるかどうかもポイント。
(7)個室に入れる可能性とその金額
個室を希望しても空きがないことがあるので確認を。料金は大部屋よりも高い。すべて個室の産院もある。
(8)立ち会いできるか
夫のみ、少人数なら可、産婦の希望次第など産院によりけり。夫が立ち会うなら両親学級への出席が必要な場合も。
(9)家族も泊まれるか
個室なら泊まれるケースもあるが、条件や人数制限がある。夫以外が泊まるのは難しいと考えたほうがいい。
(10)分娩の基本価格
分娩料や入院料、正常新生児管理料など。無痛分娩料や帝王切開の手術料は別途加算。金額は産院によってまちまち。

母乳育児か、母子同室か。産後の方針も重要

【花】私が出産した産院は、徹底した「母乳道場」。帝王切開での出産で、母乳が出ないのに、子どもは水すら与えられなくって……、大丈夫なのかと心配になりました。母乳の方針は、産院によってかなり違います。

イラスト=いいあい

【木】母子同室の方針も産院で違いますね。特に夜間も強制かどうかはポイントです。私の出産した産院は同室推奨でしたが、希望すれば預かってくれました。産後はゆっくり休みたかったので助かりました。早く仕事復帰するためにも、母親の体をきちんと休ませるのも大事ですよね。

【宋】そうですね。母乳育児や母子同室の方針は、産院によりますし、産後のお母さんには重要。ホームページに、ある程度書いてあるので、チェックしておくといいですね。バースプラン(出産計画)は自分の意向を伝えるのに役立ちますよ。

【花】私もまさかこんなにハードなお産になるとは思わなかったので、今思うと、しっかりとバースプランを書いておけばよかったです。

【木】そうそう。疲れているときは、夜間は預かってほしい、授乳を手伝ってほしい……ってね。

インターネットで解決しようとしないほうがいい

【宋】だいたい産後の授乳をお母さん1人でやれっていうほうがおかしいですよね。助産師が「お母さんになったんだからできますよね」と言うようなところでは、お母さんはボロボロになります。だからこそ、バースプランが大切。ない病院なら、助産師をつかまえて話す、もちろん担当医に直接伝える、紙に書いて渡すでもいいでしょう。

【小】失敗したと思ったら途中で産院を替えるのもありなのでしょうか?

【宋】早い週数ならありですが、どの程度の失敗で替えるかですよね。いろいろ話を聞くと、替える前にもうちょっと医師と話したらよかったんじゃないかという人もいます。そういう人は次の病院でも満足できるかどうかわかりません。とはいえ、合う合わないもありますから、自分の心配事をいくつか質問して、全く親身さを感じられなかったら相性のいいところに行ったほうがいいでしょうね。転院でなく、曜日で担当医を替えるという手もあります。インターネットで解決しようとしないで、まずは担当医と話してみることです。

【小】相性もあるのですね。

病院が提供するのは、サービスではなく医療

【宋】そうですね。ただ、病院は医療であってサービス業ではないということは知っておいてほしい。その人の体の状態に合ったベストなことをするのが医療ですから。例えば私は、患者さんが帝王切開を希望したからといって、安易に「やりましょう」とは言いません。すべて自分でカスタマイズできるものではないのです。

イラスト=いいあい

【小】つい「こんな出産をしよう」とコントロールしたくなりますが。

【宋】そもそも妊娠自体がコントロールできませんし、出産はなおさら。最終的には自分の体が勝手に産むので、自分ですらコントロールできないのがお産です。ありがちなのは、事前に理想を描きすぎて現実が受け入れられない人。産院を選んだら、ある程度はプロに任せる気持ちが大切です。

【花】そうですよね。思い通りにならないのがお産ですよね。

【宋】妊婦さんの体の力をチーム医療でサポートするのが産院。産後ケアも含めて、層の厚いチーム力の大きい産院を選びましょう。きれいな部屋やおいしいごはんは、シティホテルのほうが安いですよ。お産は母子の安全を第一に考えてください。

▼望むお産を実現するために大切なこと
(1)出産に理想を描きすぎない
出産は何が起こるかわからない。すべて思い通りにはいかないもの。「帝王切開にしてほしい」「どうしても無痛分娩じゃないと」と自分の希望があっても、それができるかどうかを判断するのは医師です。産院はサービス業ではなく医療と心得て、プロに任せる気持ちを持ちましょう。事前に理想を描きすぎると現実が受け入れにくくなります。

(2)クリニックについて自分で調べる
常勤医や専門医の人数をはじめ、無痛分娩の可否、母乳育児や母子同室の方針、NICUの有無、個室の料金や分娩費用などはホームページを見れば、ある程度はわかります。ネットの口コミを検索する前に、候補の産院のホームページを調べて比較検討しましょう。疑問点があれば、産院に直接問い合わせてもよいでしょう。
(3)バースプランを書いて意向を伝える
「陣痛中はアロマオイルを使ってほしい」「夫に立ち会ってもらいリラックスして産みたい」など、お産に対する思いやイメージも、好きなように書いてOK。医師はバースプランを読むと、お産にこだわりがあるのか、とりあえず安全に産ませてほしいという感じなのか、その方の人となりを理解できます。
愛育病院●東京都港区芝浦1-16-10
40歳以上の出産も多数。遺伝相談や母乳相談は愛育クリニックへ。

慶應義塾大学病院●東京都新宿区信濃町35

2018年5月より新病院棟が稼働。緊急の合併症にも柔軟に対応。

国立成育医療研究センター●東京都世田谷区大蔵2-10-1

「総合周産期母子医療センター」に認定。ハイリスク分娩にも対応。
順天堂大学医学部附属順天堂医院●東京都文京区本郷2-1-1
無痛分娩は24時間対応。妊娠後期まで近くの施設で受診できる。

聖路加国際病院●東京都中央区明石町9-1
高齢や不妊治療後、多胎、合併症などハイリスクな妊娠に対応。

東京女子医科大学病院●東京都新宿区河田町8-1
助産外来で診察、保健指導を受けられる。緊急時の対応も可能。

日本赤十字社医療センター●東京都渋谷区広尾4-1-22
内装や機能の異なる8つの分娩室や急変に対応できる分娩手術室も。
宋 美玄(そん・みひょん)
産婦人科医・性科学者
35歳で第1子、38歳で第2子を出産。著書に『女医が教える これでいいのだ!妊娠・出産』(ポプラ社)など。