国が「里親制度」を推進しようとする背景

親と暮らすことができず、児童養護施設や里親のもとなどで暮らす子どもは日本に約4万5000人いる。「親と暮らせない」というと、親と死別した「孤児」を思い浮かべる人が多いが、実際は8割に親がいる。一番多い理由は親からの虐待で、親の精神疾患や経済的な理由も多い。

「親と暮らせない」理由の多くは「虐待」。(写真=アフロ)

約85%の子どもは、乳児院や児童養護施設などで集団生活をしており、里親など家庭的な環境で暮らす子は約15%にとどまる。しかし、特に乳幼児は、特定の大人と1対1の「愛着関係」を築くことが重要とされており、欧米の先進国では里親が主流だ。国連も2009年に「施設での養育は、児童の最善の利益に沿っている場合に限られるべき」「特に3歳未満の子どもは、家庭的な環境で養育されるべき」とする指針を示している。児童福祉政策に詳しい東洋英和女学院大学の山本真実准教授も、「親から虐待を受け、精神的にも傷ついた子どもが増えている。里親など家庭的な環境での養育を進める必要がある」と指摘する。

こうした背景から、日本でも16年に児童福祉法が改正され、親と暮らせない子どもも、より家庭に近い環境で養育されるべきと規定された。その具体策として17年夏、厚生労働省が打ち出したのが「新しい社会的養育ビジョン」だ。里親のリクルートや支援体制を強化し、施設から里親などの家庭的な養育へ、大きく転換する方針を示している。就学前の子どもは原則、乳児院などの施設に新規入所させないことや、3歳未満の子どもの里親委託率を5年以内に75%以上に引き上げるなどの目標も掲げている。

里親になるのに「特別な資格」は必要ない

里親には大きく3種類ある。親と暮らせない子どもを一定期間預かり育てる「養育里親」、特別養子縁組を前提として育てる「養子縁組里親」、両親が死亡したりした場合に、祖父母などの親戚が子どもを育てる「親族里親」だ。いずれも里親と子どもの間に戸籍上の親子関係は生まれず、委託されると、子どもの生活費や医療費、里親手当などが支給される。

▼「里親」の種類
・養育里親
家族と暮らせない子どもを一定期間、自分の家庭に迎え入れて育てる里親。各自治体で積極的に募集を行っている。養育里親には、虐待や障害、非行などのため専門的な援助を必要とする子どもを預かる「専門里親」もある。
・養子縁組里親
特別養子縁組を行うことを前提として子どもを育てる里親。
・親族里親
両親が死亡したり行方不明になったりした場合に、祖父母などの親戚が子どもを育てる里親。

養育里親の場合、預かる期間は、実の親の状況によりさまざまだ。子どもが親のもとに戻れるようになるまで数週間、数カ月のこともあれば、数年、十数年に及ぶこともある。

里親に特別な資格は必要なく、一般的に年齢や収入の制限はないが、自治体によっては「生活保護世帯でないこと」「65歳未満が望ましい」などの条件がある。児童相談所による面談や家庭調査、研修を受け、児童福祉審議会などで認められると、里親名簿に登録される。

現在子どもを委託されている里親を見ると40代以上が多く、60歳以上も3割を占める。16年3月時点では、共働きが36%で、ひとり親も13%いる。

ただ、里親に登録しても、すぐ子どもが委託されるとは限らない。子どもの年齢やバックグラウンドなども考慮するため、マッチングは簡単ではない。また現状では、マッチングや委託後の里親支援を担う児童相談所の体制が不十分な自治体もある。養育里親に登録されている8445世帯のうち、子どもが委託されているのは3043世帯だ。

厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課の加藤泰士さんは、「里親登録数をもっと増やさないと、委託できる子どもは増えない。関心がある人はぜひ、最寄りの児童相談所に連絡してほしい」と訴える。

山本准教授は「日本は血縁意識が強く、他人の子を育てることは、まだ一般的でない。しかし、つらい境遇に置かれた子どもは、社会全体で育てようという意識が必要ではないか」と話している。