プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(以下、P&G)でブランドマネジメントを率いる松浦香織さんは、「業務時間の8、9割はデータに囲まれています」という数字の裏を読む達人。「目を通すのは、売上額や市場シェア、広告等の投資対効果など。もし売り上げが目標値に達していなければ、何がうまくいっていないのか、さまざまな角度からデータを分析して、マーケティング戦略を決めていきます」

P&Gジャパン執行役員 ブランドマネジメント兼ベビーケア 松浦香織さん

売り上げを構成する要素は、「購入者数」「購入頻度」「購入個数」「購入価格」の4つ。売り上げ目標を達成するために、この4つのどこに可能性があるのかを分析していく。

ベビーケア製品も統括している松浦さんが担当した紙おむつ「パンパース」は、2018年1~3月期のナンバーワンシェアを獲得するなど売り上げが好調だ。大きな理由は、17年アップグレードした高価格帯商品「肌へのいちばん」シリーズが2ケタ成長で伸びていること。「売り上げ構成の4要素を見ていくと、赤ちゃんの数は減っているので、購入者数や頻度を変えることは難しい。個数も年間通してあまり変わりません。そうすると、購入価格しかない。ここをひもといていったときに、消費者がおむつにかける金額はここ数年変わっていないのに、おむつ以外で赤ちゃんにかける投資額が20~30%の推移で上がっていることが弊社の調査でわかったのです」

理由としては、少子化の影響、共働き家庭の増加による可処分所得の増加などが考えられた。一方でマーケットには、そのニーズに応えるおむつは皆無。「パンパースはそこに着目し、高価格帯製品に注力することで売り上げ増を実現しました」

▼[パンパースの肌へのいちばん]シリーズの企画案が生まれるまで
データの裏を見る
数字の裏にある人を見ることが大事。「人間の行動は必ず合理的に説明できる。“なぜ”その購買行動につながったのかを考えます」
若手の意見を聞く
「現場に一番近い、つまり消費者に一番近いのは若手社員なので、ミーティング等では若手の話を最初に聞くようにしています」
アンテナを張って経験値を上げる
どんなに忙しくても、消費者に直接話を聞く機会を持つ。メディアや店頭での商品チェックも欠かさない。

仮説が生まれる!
この商品を今まで使ったことがない人は、なぜ使わないのだろう?──たとえばそんな疑問から、さまざまな仮説を立てていく。仮説を持つことで検証作業が発生し、より精緻な分析が可能になる。

「なぜこう思う?」を掘り下げる

データからニーズを読み取るポイントは、「まず目標を具体化し、数値化すること」と松浦さん。「たとえば、売り上げを2%上げるプランと、10%上げるプランでは戦略が変わってきます。目標を達成するためには、売り上げを構成する4要素のどれを何%アップする必要があるのか、具体化していくことでとるべきアクションが見えてきます」

(左)アイデアはすぐにスマホでシェア 外出中に商品棚を見て気づいたこと、いいアイデアなどが思い浮かんだら、チームのメンバーに「今度話そう」などとメールしておく。(右)[パンパースの肌へのいちばん]シリーズ “最高級おむつ”として2012年に登場したパンパースの新ブランド。トラブルが起きやすい赤ちゃんへの「最高級の肌へのやさしさ」をうたった。

次に大事なことが、「仮説を持つ」ということだ。「仮説を持つためには、他の商品カテゴリーを見たり、他業界で何がはやっているのかを考えたり、さまざまなところにアンテナを張って自分の引き出しを増やしておくことです」

数字が苦手という人は、「数字が持つ意味をとらえることが大事」と松浦さん。数字の裏を読む力は、鍛えることも可能だという。「当社では、部下に目的を与え、それについて提案を出させるコーチングを行っています。提案を受けた上司は、『なぜこう思うの?』と、現象ではなく原因にたどり着くまでどんどん掘り下げて聞いていく。そうすることで考え方のプロセスが鍛えられ、自分で正しいポイントを見つけられるようになっていきます」

新商品の裏には必ず戦略的意図がある。「CMなども、『誰に何をどう売りたいのかな?』と考えながら見るとトレーニングになりますね」

▼売れる商品の3カ条
1:データを見るのは目標・目的を具体的に数値化してから
2:「購入者数」「頻度」「個数」「購入価格」のうちどれを伸ばすか考える
3:経験や日常的にとっている情報から仮説を立てる
松浦香織
P&Gジャパン執行役員 ブランドマネジメント兼ベビーケア
2002年の入社以来、一貫してブランド構築に従事。パンテーン、パンパースなど数々の商品を手がける。