財務や会計について自分自身が話す機会はなかった

最初は社員教育などの仕事に携わりたくて入社したんです。人事ともそういう話になっていたのに、どういうわけか外勤営業部に配属。号泣しました(笑)。でも、仲間と切磋琢磨(せっさたくま)しながら続けているうちに営業の楽しさがわかり、それなりの成績も残せるように。そんなときに急に広報に異動になったんです。

パソナグループ 専務執行役員CFO 財務経理本部長 仲瀬裕子さん

外勤から内勤に変わって、ずっとデスクに座っているのがすごく苦痛で。でも、メディアに会社をPRするのは、自社サービスの魅力を伝える営業と変わりないなと。そう思えるようになると、広報という仕事にも前向きに取り組めました。

そして、2001年に会社が上場。当時はIRの部署がなく、経営企画部が投資家対応をしていました。私は広報という立場で、経営企画部と連携しながらいろいろな資料作成に関わることに。でも、パワーポイントのビジュアルや会社の理念、戦略の部分を見ていたにすぎませんでした。

財務のパートは経理部などの専門の人が担当してくれていたんです。メディアの方に対しても、経営企画部のCFOの横にいて取材対応するくらいで、財務や会計について自分自身が話す機会はありませんでした。

対応する相手が記者から投資家に変わって大苦戦

四半期ごとの決算書をまとめたオリジナルノートと、株主総会向けに作成した問答集。項目ごとにタグがつけられ、メモ書きやマーカーの跡があちらこちらに。かなり勉強していた様子が伝わってくる。

それが、05年に新設のIR室長を任されることになって状況が一変。それまで経営企画部が担っていた投資家対応の業務と、一部総務部が担当していた株主総会の運営をIR室で行うことになったんです。

経済誌の取材対応はもちろん、決算資料も和英で作成しなければならない。前任者がいなかったので、財務諸表の見方などは外部の研修講座に通ったり、入門書を読んだりして自分なりに勉強しました。簿記を受けたり、ビジネス会計やFASSといった資格を取りに行ったりもしました。

一番ハードだったのは、相対する相手がメディアの方から、投資家やアナリスト、株主の方に変わったこと。専門的でレベルの高い質問をいただくことが多いため、それにきちんとお答えするための知識を身に付けるのは本当に、本当に大変で……。どんな質問にも対応できるように、株主総会前には問答集を作って備えていました。

すると、4、5年が経つ頃には、数字の単位が即座にわかるようになっていました。営業部もそうですが広報部でも、普通、見積もりは円単位です。でもIRの資料は、1000円とか、100万円単位なんですよ。億円単位ってあまりなくて、財務諸表は大体100万円単位になっている。例えば4000という数字があったときに、これを4000円と読むか、40億円と読むか。4000Mと書いてあると、今ではすぐに40億円だとわかります。数字に目が慣れてきたというのが大きいのでしょうね。

簿記3級レベルの知識があればまったく問題ない

また、いろいろな財務諸表をチェックしていると、「あれ? これおかしい」ということがあります。それまで毎年2%ずつぐらいのペースで成長してきている数字が並んでいたのに、急にボコッと売り上げが上がっているとか、原価がどんどん増えているようなことがある。そういった数式などの間違いにも、すぐに気付けるようになりました。

数字的なセンスはどの職種でも、持っていると強みになると思います。話の説得力が増すんです。そのためには、やはり日頃から今の数字だけでなく、前年比でどうなのか、来期はどうなるかを意識しながらトレンド数字をよく見て、感覚をつかむことが大事です。

数字が苦手な人は「あっ、どうせ私にはわからないから」と思って目を背けてしまうことが多いのですが、数字アレルギーを持たないこと。特に損益計算書は売り上げと営業利益、一番下の当期利益だけを見て、もうかっているかもうかっていないか、赤字かどうか、あとは前年より増えているか減っているかを確認するだけですから、少し訓練すれば読めるようになります。

基本的には一番上からの引き算。だから、足し算引き算だけでOKなんだとか、どういうものが要素としてあるのかが、大枠でわかれば十分。簿記3級レベルの知識があればまったく問題ありません。難しい経済学なんて必要ないんですよ。

1992年:立命館大学産業社会学部を卒業後、パソナ(旧テンポラリーセンター)に入社。営業部に配属
1994年:同社管理本部広報室に異動
2002年:同社広報企画部長就任
2005年:同社執行役員、IR室長就任。IR室を一から立ち上げ、投資家からの質問にも答えられるように猛勉強をする
2007年:パソナグループ執行役員、IR室長就任
2009年:同社常務執行役員就任
2010年:同社取締役常務執行役員就任 財務経理部・IR室担当
2017年:同社専務執行役員CFO、財務経理本部長就任
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上場している企業は、ホームページ上でIR情報を公開しています。株主通信は個人の株主さん向けにポイントを絞ってビジュアル化したもの。財務諸表などもすごくサマライズしているはずなので、わかりやすくて勉強になりますよ。自分の会社のものだけでなく、気になる企業やクライアントの株主通信を見てみると、その会社が力を入れている領域もわかります。