「歴史好きが集う場」と聞くとハードルが高そうですが、詳しくなくても楽しむことができるのか? その答えを検証するべく、2つのディープな世界を体験してきました!

東京の真ん中に歴史好きが集まるバーがある

その1
週1で歴史を語るバーへ

東京の真ん中に、歴史好きの間で有名なバーがある。地下鉄・新御茶ノ水駅から徒歩3分の場所にあるその店は、普段は「渡部商店」の名で普通のバーとして営業しているが、水曜日のみ「レキシズルバー」と名前を変えて、歴史好きが集うバーへと様変わりするのだ。

(上)歴史イベントの情報交換を楽しむ常連客。(右下)時代ごとに考えられた、数多くのカクテルが興味深い。(中下)裏道にひっそりたたずむ。この小さな看板が目印だ。(左下)店から客があふれるほどの人気ぶり!

18時半の開店と同時に扉を押すと、十数席分のカウンターの向こうに立つバーテンダーから声がかかった。「いらっしゃいませ。好きな時代はありますか?」。これが、初めて来た客にかけられる基本の挨拶。「三国志の時代です」ととっさに答えると、同じ時代が好きな常連客が紹介されたので、隣に。最初は緊張していたが、好きな登場人物や今まで読んだ歴史本の話で盛り上がり、すぐに打ち解けることができた。

ドリンクメニューには、リキュールをジンジャーエールで割った「源内エレキテル」をはじめ、「風は新選組」「紫式部の入浴」など歴史に由来した名前のオリジナルカクテルがずらり。ふと店内を見渡すと、仕事終わりの会社員とおぼしき30代の女性たちが、同年配の男性客と仲良く歴史話で盛り上がっている。常連客によると、なんと、ここで出会って結婚したカップルが何組もいるのだとか! そんな耳より情報も聞きながら、楽しく時間が過ぎていく。

"卑弥呼"は天皇補佐するキャリアウーマン

増え続ける客であふれんばかりになった21時ごろ、人気イベントの「数寄語り」が始まった。

(上)メインイベント「数寄語り」で楽しそうに卑弥呼について語る常連客。(下)古代文字でヒ・ミ・コ。歴女のネイルは遊び心たっぷり!

常連客の1人が、自分の好きな時代や人物などについてプレゼンするというもので、この日のお題は「卑弥呼」。歴史上最も有名な女性の1人だが、弥生時代の人物であること以外は一切謎で、『日本書紀』などの日本の史書には登場しない。卑弥呼とは人の名ではなく、男性の天皇を補佐しながらともに国を治める人を指した言葉で、いわばキャリアウーマンの先駆けであった……。そんな話が15分に凝縮して語られ、知的好奇心が満たされた夜だった。

後日、オーナーの渡部麗(わたなべりょう)さんにこのバーを開いた理由を聞いた。「歴史好きの僕が目指しているのは『歴史のポップ化』。もっと気軽に誰もが歴史を語りながら交流できる場をつくりたくて、レキシズルバーを始めたんです」。

だからマニアックな知識がなくても楽しめ、誰とでも構えずに交流できる場になっているのだろう。

歴史について誰かと語り合いたくなったら、足を向けてはいかがだろう。知らない間に知識も身についているはずだ。

▼DATA
「レキシズルバー」は、ショットバー「渡部商店」にて毎週水曜開催。東京都千代田区神田駿河台3-3 イヴビル1F TEL:03-3293-0733 営業時間:18:30~23:00(L.O.)
その2
城歩きのイベントで小田原城へ!

歴女向けのイベントに参加してみた

“歴女”という言葉が定着してきた昨今、各地で歴史好きに向けたさまざまなイベントが開催されている。そのひとつが、全国各地の歴史をウェブで紹介する「ユカリノ」が主催する、女性限定の城歩きイベント。第2弾「小田原城を歩こう!」の会に参加した。小田原城といえば、豊臣秀吉の天下統一に最後まで抵抗した、難攻不落の城として有名だ。どのような魅力にあふれた城なのか、ワクワクしながら東海道線に乗り込んだ。

(上)西股先生の説明を真剣に聞く参加者たち。(下)器用に手づくりした小田原城形のピアス。

初夏のとある土曜日。JR小田原駅に集合した参加者は、20~40代が中心の総勢20人。案内役として、2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」で軍事考証を担当した西股総生(にしまたふさお)先生が同行してくれるというから本格的に学べそうだ。

寄り道をしながら城を目指す。緑が茂る場所で、「その昔、この奥は城の敷地内でした。お、当時の瓦が落ちていますね」。そう西股先生が話すと、とたんにみんなが地面にめり込んだ瓦を囲む。「これが当時から残る瓦なんだ!」。ケーキ屋さんのショーケースで美しいケーキを見たかのような歓声が湧いたり、その瓦を中心にみんなの足先を集めてフォトジェニックな撮影会をしたり。そんな“女子だけのノリ”が妙に楽しい。

城に到着してからの、西股先生の説明も興味深かった。「小田原城の“馬出(うまだし)門”は、攻撃に備えた門が2つ設置され、1つ破られても、もう片方で守れる構造になっています。二方向から迎え撃つことで敵を侵入させない、えげつない造りですね」

城の「石垣」のどこがかわいいのか?

そんな話から始まり、門の上に設置された“石落とし”、簡単に堀を渡れないように底が障害物で仕切られた“障子堀”など、城を守る仕掛けの説明を聞き、難攻不落の理由を実感することができた。

(上)城好き女子の心をとらえたのは当時から残る石垣。(下)小田原城の形をした優しい味わいのもなか。城下町ならではの甘味。

専門家によるタメになる説明もさることながら、思い思いに城歩きを楽しむ参加者の姿も印象的だった。崩れた石垣の奥に見える“裏込め”と呼ばれる石を、慈しむように身じろぎもせず見入る人。石垣に使われた岩の切断面に残る“矢穴”を見て「縦に割りたかったのに横にしか割れなかったんだな。かわいい」と萌(も)えている人。“石垣好き”が多いことに驚くとともに、城の新たな見どころも発見できた。

4時間ほど歩きまわった後は、城近くの風情ある甘味処「清閑亭」へ。最後は甘いモノで締めるのも女性限定のイベントならでは。小田原城をかたどったもなかと抹茶を味わい、城歩きを思う存分楽しめた。

実物を目の前にするのは、写真では味わえない高揚感がある。次回の城歩きイベントは秋の予定。城に興味がある人もない人も、ぜひチェックしてみて。

▼DATA
ユカリノが主催する「城歩きイベント」は不定期開催で、次回は18年の10月ごろを予定。詳細は、公式サイト「ユカリノ」で。https://yukarino.jp/