2017年、猫の飼育数が初めて犬の飼育数を上回ったというニュースが話題になりました。愛猫家が増える一方で、すべての飼い主が適切な健康管理を行えているでしょうか。小さな命が発する病のサインについて、猫専門医がレクチャーします――。

※本稿は、「プレジデントウーマン」(2018年7月号)の掲載記事を再編集したものです。

猫の平均寿命は「16.25歳」に達している

「猫はなかなか症状をあらわにしない動物です。万一、心臓や腎臓に重大な疾患を抱えていたとしても、見た目にはごはんをあまり食べなくなる程度なので、飼い主が的確に体調を見極めるのは難しいでしょう。また、食欲不振や嘔吐(おうと)といった症状から、どのような病気を患っているかを探るのは、きちんと検査をしなければまず不可能です」

そう語るのは、猫専門病院・Tokyo Cat Specialists院長の山本宗伸先生だ。

ペットフード協会の調べによれば、猫の平均寿命は年々緩やかに上昇し、2017年には16.25歳(室内飼育)に達している。しかし、寿命が延びれば高齢化が進み、それだけがんや腫瘍の類いに侵されるリスクは高くなるのだ。

(左)もち(右)コン

「猫の場合、7歳を越えると人間でいう中年の域に達します。中年になって何かと不調や病気が増えるのは、人間も猫も変わりません。まして、12歳以降はシニアですから、一層健康管理が重要になります」

猫は“ちょい食べ”をする性質がある

そこで、日常的に気にかけておくべきポイントをまとめてもらった。

「まずわかりやすいのは、体重や体形でしょう。普段より食が細かったり、元気がなさそうに見えたりしても、体重さえ減っていなければ、さほど心配する必要はありません。可能であれば毎週記録をつけておくことをお勧めします。もし、普段の体重から5%以上減った場合は、病気の可能性が高いので早めに診察を受けるべきです。逆に、太りすぎも糖尿病の原因になります。糖尿病は生命の危機につながる重大な病気ですから、体形の変化には日頃から気を配ってあげてほしいですね」

与えたキャットフードをすぐに食べきらず、何度かにわける“ちょい食べ”をする猫は多い。しかし、これは食欲不振からくるものではないと山本先生は語る。

「猫はもともと“ちょい食べ”をする性質を持った動物です。ただ、最近のキャットフードがおいしすぎて、一気に完食する猫が増えているため、逆に残したときに不安に感じてしまうのでしょう」

トイレ掃除のとき、尿の量もチェック

食事と同様、生活の中で比較的わかりやすい指針の1つに、トイレの頻度がある。

(上)クウ(中)ムーン(下)みんみ

「尿の量が著しく多くなる代表的な病気が3つあります。1つはすでに挙げた糖尿病。そして腎臓病と甲状腺機能亢進(こうしん)症です。目安として、尿が通常の1.5倍ほど増えたら健康状態を疑いましょう」

甲状腺機能亢進症とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患で、やはり命に関わる重大な病気。早期発見が大切だ。その意味では、近年よく使われているシステムトイレは、手入れの手間が省けて便利である半面、尿の量の変化がわかりにくい。一層の注意が必要だろう。

早期の避妊手術で、乳がんを防ぐ

仕事を終えて帰宅し、出迎える猫を抱き上げてなでてやるのは、飼い主にとって至福のひととき。この際にも、気を配ってやりたいことがある。それはしこりの有無だ。

「もし、体のどこかにしこりがあったら、がんである可能性もゼロではありません。とくにメス猫の場合は乳がんが多いので、おなかにしこりを見つけた場合は早めに検査を受けてください。乳がんは早期に避妊手術を行うことで発生率を抑えられる病気ですが、1歳以降は避妊をしてもしなくても変わらないというデータがあります」

これに対し、頭から首筋にかけてのしこりは、「肥満細胞腫」という腫瘍であるケースが多いという。この腫瘍は転移することはまれだが、放置していいわけではなく、念のため診察を受けるに越したことはない。

猫白血病ウイルスは唾液からうつる

「くしゃみや鼻水が出る場合は、風邪をひいている可能性がありますし、肉球の色がいつもより薄く見えるなら、貧血を起こしているのかもしれません。目をひくひくとけいれんさせたりする場合は、花粉症などアレルギーがあることも考えられます」そう、猫も花粉症になるのだ。ただし、人間のような鼻炎、結膜炎症状ではなく、顔面のかゆみ、耳や腹回りの皮膚の炎症といった症状が現れる。こちらも命に関わるものではないものの、あまりに症状が酷い場合は検査を受けるべきだろう。

Tokyo Cat Specialists院長 山本宗伸先生 写真は愛猫のカツオくんと。

多頭飼いの場合は、猫同士で伝染する病気もケアしなければならない。

「たとえば、猫エイズは交尾やけんかなど直接の密な接触がないと感染しませんが、猫白血病ウイルスは唾液からうつるので、罹患(りかん)している猫は完全に隔離する必要があります。また、カビ菌の一種である皮膚糸状菌などは、人間から猫に、あるいは猫から人間にと相互にうつる可能性があります。感染すると人間も猫も皮膚が炎症を起こしますから、同時に治療しなければ、何度も互いにうつし合ってしまうようなことになりかねません」

愛猫との健やかな生活を少しでも長く続けるために、ぜひ肝に銘じておいてほしい。

山本宗伸(やまもと・そうしん)
Tokyo Cat Specialists院長
日本大学獣医学科外科学研究室卒業。国際猫学会ISFM、日本猫医学会JSFM所属。ブログ「NEKOPEDIA」で猫の健康や習性を解説。著書に『ネコがおしえるネコの本音』(朝日新聞出版)など。