自分では全くコントロールできない

摂食障害といっても、いろんなタイプがあるのをご存じですか?

拒食嘔吐(おうと)、過食嘔吐、吐かない過食、チューイング(噛み吐き)など。決してダイエットではありません。私の場合、あるとき突然パチンとスイッチが入り、無性にコンビニに行きたくなり、食べ物のことしか考えられなくなる。気づいたらテーブルの上には大量のお菓子の袋が散らばっていて、それから嘔吐……。自分では全くコントロールできないこんな恐ろしい行動は、実母が私に教えたのです。

18歳で私を産んだ母は、ストレスがたまると、幼い私にひどい虐待を与えました。それでも私は彼女の愛情が欲しくて、褒めてほしくてしようがなかった。児童劇団に入ってからは、オーディションに受かって役をもらえることが、その最善の道だと考えるようになりました。でも、年頃になると体重が増えて丸みが出てくる体がはずかしくて、これでは役がもらえないのではないかと悩みました。

吐けばいいのよと、母が私にささやいた

そんなとき、母が私にこう言ったのです。「食べたあと、自分で吐いちゃえばいいのよ」と。しかも喉に指をつっこむアクションつきで。

「彼や友達にデブと言われた」などのきっかけがあるにしろ、この病はほとんどが親から受けた過干渉、虐待、ネグレクト等が原因とされています。完治は難しいけれど、母との関係を断ち切ることで、私は随分楽になれたし、今はたまに症状が出るくらい。精神科に通い薬漬けになったこともありますが、現在は私のことを理解してくれる内科医の先生に適切な処置をしていただいています。

母から「おまえは醜い」と言われ続けた

バラエティー番組の出演も大きな転機になりました。扱いはひどいですけどね。私が時々キレたり大声でコメントするので「朝ドラ女優からの転落」とか、「暗い」とか「酒臭い」とか散々いじられています(苦笑)。

全身全霊をかけて愛する「息子」たち。左が蓮くん。右が悠くん。蓮くんは天国に召されたが、いつも遠野さんのそばにいる。

でも、自分がその番組に爪あとを残し、また呼んでいただけることが励みになっています。女優になる道筋は、児童劇団に私を入れた母がつけてくれましたが、バラエティー出演は自分でつかみました。母親がいなくても、ここまでやれたと自信に。

ただ、どんなにいじられてもいいけれど、私の体形のことだけは絶対に触れないでほしいとお伝えしています。母から「おまえは醜い」と言われ続けたので、容姿に大変コンプレックスがあるからです。女優なのにおかしいと思われるでしょうが、これがこの病気の根深いところ。

もし周囲のお友達に摂食障害の方がいらしたら、「痩せたね」とは絶対に言わないでください。言われたらもう二度と太れなくなる、痩せていないと金輪際見てもらえなくなるかもしれないと、自分の殻に閉じこもってしまう場合もあるからです。

摂食障害でも、ちゃんと生きている

たまに摂食障害のスイッチが入ってしまうと、運命を呪わずにいられません。でも、その結果人の気持ちに寄り添うことができたし、こんな自分でも存在価値があることを知りました。人様の前でいじられながらも(笑)、「遠野なぎこ」という女優がいることを知ってもらえました。自分の症状がひどいとき、摂食障害でも頑張っている人の姿が見たかったけれど、そういう人がいなかった。今、私がその役目を少し担うことができているのかなと思うと、病になった意味があるはず。

何よりも幸せなのは、愛猫の悠くんと蓮くんに出会えたこと。病で一番苦しんでいるとき、一緒に暮らし始めました。彼らはどこに行くにも必ず私の後についてきますが、私がお手洗いで嘔吐している姿は絶対に見ようとしません。悠くん、蓮くんはもはやペットではなく、いとおしいわが子。彼らのためにもちゃんと生きていきたい!

衣装=RANDA、GOUT COMMUN スタイリング=間野なおみ

遠野なぎこ(とおの・なぎこ)
女優
1979年生まれ。84年にデビュー。NHK連続テレビ小説「すずらん」でヒロインを演じ、「冬の輪舞」(フジテレビ系)で大人気を博す。現在、舞台「しあわせの雨傘Potiche~飾り壺~」に出演中。