ヒットの背景は、缶コーヒー市場と働き方の変化
発売9カ月で2億4000万本を売り上げる大ヒットとなった、サントリー食品インターナショナルのペットボトルコーヒー「クラフトボス」。ヒットの背景には缶コーヒー市場と働き方の変化がある。
ショート缶は外で仕事をする人が、休憩したりほっとしたいときに短い時間で飲み切るものだったが、オフィスの中で働く人の増加により、再栓できるボトル缶が普及した。ブルーカラーの人口は年々減っているのに対し、IT産業に従事するITワーカーが増加していることに気づいた。
(写真左から)ジャパン事業本部 ブランド開発第二事業部 後藤由加さん
大学時代に経営工学を学び、現在はマーケティングやデータ分析を担当。有機化合物の構造式をめでる元リケジョ。
ジャパン事業本部 ブランド開発第二事業部 桜井弓子さん
「クラフトボス」チームのリーダー。過去デジタルマーケティング部門に所属していたため、デジタル系のネタに強い。
食品事業本部 ブランド開発第二事業部 朝岡あゆみさん
大学時代は会計ゼミにいたため数字は好き。流入元データ分析などを担当。仮説とデータのずれを見つけると喜ぶ。
ジャパン事業本部 ブランド開発第二事業部 課長 大塚 匠さん
事業部畑を歩き、現在はBOSSグループのまとめ役。「クラフトボス」開発の中心人物。
「このITワーカーたちがコーヒーを飲むのに、缶コーヒーを飲んでいなかったのです」とブランド開発第二事業部課長の大塚匠さんは話す。職業別の缶コーヒー飲用率を見ると、ブルーカラーが44%なのに対し、ITワーカーは10%にすぎなかったのだ。ここに市場があると踏んだ。
デジタルの世界にいるからこそ、人のぬくもりを
定量的なデータを踏まえたうえで、サントリーが大切にするのが「n=1の声」、つまり一人一人の声だ。ITワーカーにはどうやらハンドドリップを好むなどのこだわりがあるらしい、ということまでは調査でわかったものの、では「なぜ好きなのか?」については、実際に自分たちでインタビューして探った。
「ITワーカーの人が日記を手書きでつけていて、ハッとしました。普段デジタルの世界にいるからこそ、人のぬくもりを感じられるものがいいんだとわかり、『クラフト』を商品名に入れました」(大塚さん)
さらに売る戦略を立てるために、発売後もデータと向き合う日々が続く。「クラフトボスへの流入元を分析していると、コーヒーのカテゴリーではなく、麦茶やジャスミン茶のような、かなりすっきりとしたお茶との相関がありました。だから、お茶を買っているお客さまにアプローチできるのでは、と考えたのです」と同部の後藤由加さんは言う。
「上司は『イタコになれ』と言います」とチームリーダーの桜井弓子さんは笑うが、n=1の声を自分に宿らせることがヒットのカギだ。
(左)SNSで見つけたものはキャプチャでためまくり!
「キャンペーンを考えるときなど、仕事で使えそうな情報はインスタグラムを見つつ、ひたすらスマホにキャプチャでためています」(桜井さん)
(右)気になる数字を見つけたらふせんをオフィスにペタペタ
「うちのチームは、『この数字、何か気になるな』と思ったら、ふせんに書いてみんなが見えるところに貼っておく習慣があります」(朝岡さん)
▼[クラフトボス]の商品名が生まれるまで
データの本音を見る
データは素直に見ることも大事だが、「なぜITワーカーは缶コーヒーを飲まないのか」など、人々の本音を突き詰めて考える。
流行の背景を探る
調査結果でITワーカーが「手触り感」を求めていることがわかったが、それがなぜ流行っているのかをさらに突き詰めて考えていく。
n=1の声を大事に
「日記は手書き」という生の声を拾うことで、ニーズが具体的に。「クラフト」という単語が象徴的だということを発見。
商品名が決定!
「クラフト」を商品名に冠し、BOSSとは別ブランドであることを強調。透明なペットボトルの素材を選び、仕事しながらゆっくりと飲むスタイルを楽しんでもらうようにした。インスタ映えも◎。
1:既製商品の購入者像をデータから徹底的に検証する
2:購入者の「こだわり」の理由を、データを使って仮説を立てる
3:仮説が正しいのか、実際にヒアリングしてニーズを探る