日々の生活のなかで、理不尽だと感じることはありませんか。法律の知識があれば、解決できるケースもあります。雑誌「プレジデント ウーマン」(2017年9月号)の特集「1時間でわかる法律相談」では、9つの身近なトラブルについて4人の専門家に相談しました。今回は「子の事件、帰宅途中の事故」について――。(全9回)
▼小学6年生の息子が加害者に!
息子が自転車で友達をひいてしまいました。先方からは損害賠償を請求すると言われています。最近、学校でも友達を殴ってしまい、先生からは「仕事も大切ですが、もっと子どもと話をしたらどうですか」と言われて……。これから教育費ももっとかかるし、仕事を続けたいと思う一方で、息子と一緒にいる時間も必要だと思っています。どうしたらいいでしょう。

▼答えてくれたのは……一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会の方々
協会代表理事・FP 鬼塚眞子さん/弁護士 丸尾はるなさん/弁護士 山岸潤子さん/税理士 林 良子さん


12~13歳以上は子どもにも責任が

【山岸】罪は民事と刑事の両面から問われます。民事ではやったことに対して、お金で責任を果たす。刑事は、小学校6年生であれば少年法で考えます。家庭裁判所が中心になり、たくさんのオプションを用意して、少年を保護して更生する方向に向かわせます。

刑事の処罰は警察が捕まえたら自動的にやってくれますが、民事は被害者が訴えることで発生します。自転車事故などでは、保険会社が出てくることもあります。

責任能力を問われるのは、12~13歳以上。12~13歳から親と子ども両方が訴えられて、それ未満だと親だけが訴えられます。

【丸尾】このケースもそうですが、多くの場合は示談が成立すると思います。先方に「申し訳ありませんでした」と菓子折りを持って謝りに行って、治療費と慰謝料を払う。交通事故そのものではないのですが、同じ基準を参考にすることがあります。例えば入院1カ月だとしたら、入院慰謝料額は53万円くらいです。

【山岸】被害者が引っ越す場合は、損害賠償の一環として引っ越し代を請求されることもあります。いずれにしても、金額の相場もわからないでしょうし、かすり傷でも後遺症と言われることもあるかもしれません。お母さまが独りで抱え込まずに、弁護士を間に入れることをお勧めします。

「子の事件」専門家4人の本音トーク

【鬼塚】万引きとかカツアゲとか、お金がらみの場合と、ケガをさせてしまうのでは、罪はどちらが重いんですか?

【山岸】子どもの場合は、ケガをさせたほうが重くなります。

【丸尾】抑止力を考えてでしょうけど、オレオレ詐欺は子どもでも扱いが重いですよ。LINEで「仕事あるよ」って誘われて簡単に手を出しちゃったりするので。お金の受け渡しを手伝うだけの受け子役をして少年院に入ったケースもありました。

【山岸】少年院と聞くとショックを受けるかもしれませんが、刑事コースではなくて、家裁コースで、保護処分の1つ。少年刑務所ではないので、育て直しをする場所です。

【丸尾】パンチパーマでだぶだぶのジャージを着ていた子が、少年院から帰ってきたら、パステルカラーのカーディガンを羽織って、サラサラヘアーで。「少年院でいろんな人に会えたのが良かったと思います」って挨拶に来たときには、子どもってこんなに変わるんだって驚きました。

【林】悪いことをやってきても、更生する人はすごいですよね。大人になって立派な経営者になっている方とか、うちのお客さまにもいますよ。成功している方も多いと思います。

【丸尾】感受性が強いんでしょうね。世の中の矛盾にも反発するし。

【山岸】暴力団と関連していなければいいんですよね。親や友人がかかわっていたりすると、出てきてもそこからなかなか抜け出せなくて。

【鬼塚】少し上の年齢の話になりましたけど、このケースだと、お子さんに心理カウンセリングを受けさせるのも必要じゃない? ADHD(注意欠陥・多動性障害)ということもあるかもしれない。

【山岸】カウンセリングはお金がかかりますから、各都道府県にある児童相談所に相談に行かれるのも手ですね。あとは学校にスクールカウンセリングがあれば、そちらを利用されるとか。

【丸尾】特に問題を起こすお子さんの家族関係を見ると、お子さんにかける時間が少なすぎるんじゃないかな? と感じることはありますね。お母さまも葛藤しながら子育てされていると思うので難しいのですけど、もう少し、お子さんがなにを考えているかに目を向けるようにしてやると関係が変わっていくかもしれないですね。

【鬼塚】仕事を持つお母さんは「私だって限られた時間のなかで、精いっぱいやってるのに!」と思って悲しくなるときもあるかもしれないけれど、子どもはそのときはわからないもの。何度も裏切られた思いを持つかもしれないけど、諦めないでほしい。子どもは覚えていますから。

夫婦間DVは子どもに見せてはいけない!
【山岸】DV(ドメスティック・バイオレンス)には、殴る、蹴るといった「身体的暴力」、性的行為の強要といった「性的暴力」、暴言や制限・監視、生活費を渡さないといった「精神的暴力」があります。2004年の「児童虐待の防止等に関する法律」改正で、「夫婦間のDVの目撃が子どもへの精神的虐待になる」と明確化されました。子どもの虐待を調査している福井大学の友田明美教授らの調査によると、実際、DVを目撃している子どもには脳の視覚野への障害も見られるそうです。
▼仕事帰りに保育園に子どもを迎えに行き、スーパーに寄ったら自転車事故を起こした。
ほかの自転車と衝突し、私も相手もケガをしました。「あなたの不注意」と、相手は治療費と自転車の修理費用などを請求してくるし、私の分は帰宅中の事故だから労災がおりると思ったのに、「スーパーに立ち寄ったためにおりない」と言われました。お迎え前の立ち寄りが保育園で禁止されているから保育園の帰りにスーパーに寄ったのに、子どもがぐずりだしてしまって注意散漫に。ぶつかった私が悪いのは認めますが、保育園の前にスーパーに行けたらこんなことにならなかったのにと思うと、いろいろ納得いきません!

▼答えてくれたのは……一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会の方々
協会代表理事・FP 鬼塚眞子さん/弁護士 丸尾はるなさん/弁護士 山岸潤子さん/税理士 林 良子さん


スーパーに立ち寄っているので、労災は厳しい

【山岸】労災は、業務中と、通勤と帰宅中のケガに対しております。通勤の場合は会社から自宅までの区間のことで、合理的な交通経路だったかをしっかり調べられます。仕事帰りにお子さんを迎えに行くための保育園は労災になりますが、スーパーに寄っているので厳しいと思います。

【丸尾】労災はともかく、保育園の前にスーパーに寄れないという決まりは、各保育園が決めていること。同じように不便に感じているお母さんがいるなら、みんなで園に相談しましょう。

「帰宅途中の事故」専門家4人の本音トーク

【山岸】自転車事故で損害賠償を請求されたとき、自己破産しても免責されるとは限りません。

【林】最近自転車保険に入っている人も多いですよね。自転車に乗っていない状況でも、交通弱者の特約もつけることができますし、弁護士と相談できたりすることもあるので、人の事故、自転車事故の対人のために、心配なら保険加入を考えてもいいかもしれませんね。

【鬼塚】自転車保険はひもとけば個人賠償保険と医療保障なんです。でも自転車保険ではなく、自動車保険や火災保険にプラスしたほうが保険料は安くなる場合もあるので、今入っている保険を見直すのが賢いかもしれない。保険はいくつも入ったところで焼け太りをしないのと一緒で、法的に認められている賠償額以上は出ないので、保障と保険料の無駄にならないよう、注意してください。

一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会
弁護士、税理士、社会保険労務士、FP、金融関係者、医師、不動産関係者、介護福祉関係者、不用品回収業者、印刷業者など、それぞれに活躍する実務経験豊富な各分野の専門家で構成。契約企業に出向き、介護・事業承継・相続問題のほか、夫婦・家族の問題などに悩む社員の個別相談にワンストップ・ワンテーブルで対応。セミナー研修などを行っている。
鬼塚眞子
一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表理事・FP。大手雑誌社勤務後、出産のために退職・専業主婦に。その後大手生命保険会社の営業職として社会復帰。業界紙記者を経て、保険ジャーナリスト、FPとして独立。認知症の両親の遠距離介護を機に、同協会を設立した。
丸尾はるな
弁護士。弁護士登録7年目で独立し、「丸尾総合法律事務所」開設。弁護士歴約10年でありながら、個人の一般民事事件、家事事件、企業の法律相談、訴訟案件など、幅広い相談に対応し、時代にあわせたサポートを行う。
山岸潤子
弁護士。仕事と子育てを両立する、弁護士歴約20年のベテラン。非常勤裁判官経験もあり、現在は東京家庭裁判所調停委員も務める。子どもの権利委員会、少年法委員会、男女共同参画推進プロジェクトチームほか、多くの弁護士会の活動にも携わる。
林 良子
税理士。一般企業の経理などをしながら税理士試験に合格。現在は内山・渡邉税理士法人の社員税理士であり、租税教育の講師も行う。得意分野は資産税(相続税・譲渡所得税)を中心とした税務コンサルティング、法人税、所得税の節税対策。