日々の生活のなかで、理不尽だと感じることはありませんか。法律の知識があれば、解決できるケースもあります。雑誌「プレジデント ウーマン」(2017年9月号)の特集「1時間でわかる法律相談」では、9つの身近なトラブルについて4人の専門家に相談しました。今回は「社内不倫」について――。(全9回)
▼私だけの処分に納得いかない!
同じ部署の先輩と不倫関係にあって、会社にバレてしまいました。結果、私が異動に。最初に誘ってきたのは先輩なのに、なぜ私だけ? 私をもとの部署に戻して、先輩を異動にできないでしょうか。

▼答えてくれたのは……一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会の方々
協会代表理事・FP 鬼塚眞子さん/弁護士 丸尾はるなさん/弁護士 山岸潤子さん/税理士 林 良子さん


相手の奥さんから訴えられたり、会社に居づらくならなければ、
声をあげてもいい

【山岸】法律用語の「不貞行為」という言葉を使ってお話しさせていただきます。定義は、配偶者以外の人(異性でも同性でも)との性行為や類似行動を指します。ですから、何年もLINEをしあっているとか、手をつないでいる、キスをした、くらいでは不貞行為とは認められないのが原則だと考えます。

【丸尾】私はこういった案件で、性的関係があったかどうかの立証は不毛だと思いますので、「妻の受忍限度を超えているので違法」という主張で、手つなぎやキスでも慰謝料を請求するようにしています。毎週2人でホテルに行っているのに、「中で仕事の話をしていただけです」と主張されても、奥さんとしてはイラッとするだけですよね。今回のケースは不貞行為の案件ですから、声をあげると相手の奥さんから訴えられる危険性もありますね。

【山岸】会社側は人事権があるから異動させることはできるのですが、転勤のときと同じで、乱用は許されません。女性1人だけを異動させた場合、乱用と認められるケースはあります。それと自分の立場が危うくなることとの天秤(てんびん)なのですが……。

【丸尾】よく似た案件で、女性が派遣社員で更新なしとなり、正社員の男性はおとがめなしだったことがあります。そのときには社内の女性陣から「普段から社内をふらついて、いろんな女性に声をかけているあの男を問題視すべきだ」と大ブーイングが起きて、会社側が処分を見直して、男性も減給処分とし、2度としないと約束させることになったようです。会社側も、処分で男女差をつくるのはよくないですからね。

▼彼氏と思っていたら、妻がいた!
営業職で、取引先の男性と肉体関係を持ちました。私は付き合っていると思っていたのですが、数カ月後、彼に彼と同じ会社に勤める妻がいることが判明。しかも、相手の会社の人に知られてしまい、「契約をとるために寝る女」と見られるように……。自分の会社に伝えるべきでしょうか。

会社には、ほかの理由を告げて担当替えしてもらう

【山岸】取引先との関係がうまくいかなくなるのは会社にとっても良いことではないので、違う理由でいいので、担当替えの相談をしたほうがいいでしょうね。ましてや取引先が知っているなんて、たちの悪い男性ですよ。妻がいることも隠していたわけだし。相手の奥さまから訴えられたときに、婚姻関係が破綻していれば不貞行為にならないので、それを主張することはできます。

【丸尾】相手が既婚と知らなければ故意にはならないのですが、故意過失がなかったことの立証が難しいので、知っていたと言われてしまうことが多いんです。知らなかったと言うためには、何と言われてきたのかを具体的に主張して立証しなければなりません。例えば、あたかも初婚のように「結婚しよう」と言われていて、そのLINEがあるとか。周囲もその男性が結婚していたのを知らなかったという証言をとるとか。

あとは、奥さんから訴えられたときの対策として、男性を呼び出して「僕は結婚していないとうそをつきました。ごめんなさい」って署名捺印させて証拠を残しておくとか。

いずれにしても、不倫では女性が婚期や子どもをつくる時期を逃してしまったり、ずいぶん経ってからも後悔して相談に来られるケースが多いんです。得が少ないですね……。

「社内不倫」専門家4人の本音トーク

【鬼塚】実際、不倫で相手の奥さんから訴えられた場合、慰謝料はどのくらい請求されるんですか?

【山岸】よくあるのは、300万円請求して、最終的に80万~150万円で落ち着くくらいです。分割できるので、毎月少額を20年かけて払う方もいます。両方不倫の場合は、タスキでお互い300万円ずつとかを払い合います。相殺はできないので、払わないといけません。

【林】不倫って社内では結構みんな気づいてますよね。あとは2人で食事した場所の不自然な領収書とかでバレることも……。

【鬼塚】男性は不倫しだすと、携帯を肌身離さず持っていたり、指紋認証にしていたり、パスワードをしょっちゅう変えるようになったり。

【丸尾】夫が急に奥さんに言いがかりをつけてくるようになった、と奥さんから相談を受けたら、まず探偵をつけてもらいますね。そうすると大抵、ほかに女性ができていて、その女性と比べて「だからおまえはダメなんだ」と攻撃的になっているなんてことはよくあります。

【鬼塚】極端な例ですが、結婚詐欺にあう方だっていますよ。「私に限って」と思わずに、お付き合いする前に結婚していないか、それとなく確認したほうがいい。

【丸尾】「どうして今まで結婚しなかったの?」「今までに結婚したいと思う人はいなかったの?」など、サラリと聞くといいかもしれませんね。

一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会
弁護士、税理士、社会保険労務士、FP、金融関係者、医師、不動産関係者、介護福祉関係者、不用品回収業者、印刷業者など、それぞれに活躍する実務経験豊富な各分野の専門家で構成。契約企業に出向き、介護・事業承継・相続問題のほか、夫婦・家族の問題などに悩む社員の個別相談にワンストップ・ワンテーブルで対応。セミナー研修などを行っている。
鬼塚眞子
一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表理事・FP。大手雑誌社勤務後、出産のために退職・専業主婦に。その後大手生命保険会社の営業職として社会復帰。業界紙記者を経て、保険ジャーナリスト、FPとして独立。認知症の両親の遠距離介護を機に、同協会を設立した。
丸尾はるな
弁護士。弁護士登録7年目で独立し、「丸尾総合法律事務所」開設。弁護士歴約10年でありながら、個人の一般民事事件、家事事件、企業の法律相談、訴訟案件など、幅広い相談に対応し、時代にあわせたサポートを行う。
山岸潤子
弁護士。仕事と子育てを両立する、弁護士歴約20年のベテラン。非常勤裁判官経験もあり、現在は東京家庭裁判所調停委員も務める。子どもの権利委員会、少年法委員会、男女共同参画推進プロジェクトチームほか、多くの弁護士会の活動にも携わる。
林 良子
税理士。一般企業の経理などをしながら税理士試験に合格。現在は内山・渡邉税理士法人の社員税理士であり、租税教育の講師も行う。得意分野は資産税(相続税・譲渡所得税)を中心とした税務コンサルティング、法人税、所得税の節税対策。