人生の機微に触れ、受け入れる経験に
私は特別に読書家ではなく、活字に長時間没頭するのも、実は苦手。それでも、毎月3冊ほどの書籍を購入します。本は情報収集やインプットの手段であるとともに、心のリフレッシュにも。リラックスしているときに読むと、内容もすっと入ってくるように思います。だから、お風呂のなかでの読書は最高の癒やし。パラパラと眺めたり、気になる章だけをピックアップして読んだりすることもあります。読書家の方には、「もったいない」、あるいは「なんてぜいたくな!」と驚かれてしまうかもしれませんね。
そんな私が何度も繰り返し読んでいる1冊が、夏目漱石の名作『こころ』です。
初めて手にとったのは、高校生のころ。教科書に1部が載っていたから読んでみた、というのが正直なところです。でも、当時はまだ主人公である「私」や「先生」、「K」の胸の内を想像することができなかった。こんな言葉にできないようなことが起こりえるのだろうか、と不思議に感じたことを覚えています。
それが20代になって読んでみると、複雑な感情や関係性に思いを馳せ、共感しながらページをめくるように変化。ただ、妻に秘密を持ったまま生きていくという選択をした「先生」に対しては、そうした生き方を強いられることへの哀れみ、また真実を明かさない「先生」を糾弾したい気持ちもどこかにあったように思います。
今、もう1度読み返してみるとどんな人でも「先生」が持ち続けたような苦悩に直面する可能性はあるし、誰だって少なからず秘密を抱えて生きているものだと考えさせられます。10代、20代のころは、友人や同僚、関わる人すべてときちんと話をするべきだと思い込んでいたし、大切な人のことは全部知っていたかった。この本を読むと、そうした気持ちが年をとるごとになくなっていることに気づきます。
打ち明けられない過去も、話したくないマイナスな部分も、誰もが当然のように持っているもの。それを受け入れるゆとりができてきたのかもしれません。成長とともに感想が変わるのが『こころ』の面白さのひとつだと感じます。インパクトのあるストーリーですが、何度読んでも新鮮で、陳腐化せず、現代社会に通じる普遍性がある。名作といわれる所以を、読むたびに実感します。
多感な思春期に広い世界を見せてくれた
もう1冊、私の考え方に大きな影響を与えた本が『ハッブル望遠鏡が見た宇宙』。中学生のときに、背伸びして買った本です。表紙の写真もまるで宝石のように美しくて、宇宙の神秘にワクワクしました。
思春期真っただ中の私にとっては、広く果てしない宇宙を知ることが、自分という存在を見つめ直すきっかけになっていたようにも思います。私はどこに立って、どんなふうに生きていったらいいんだろう。人間の一生ってなんて短いんだろう。美しい星雲の写真を眺めながら、自分の生き方や人生に思いを巡らせたりもしました。宇宙は、普段目に見えないけれども確かにあるもの。ロマンチックで壮大な宇宙をわかりやすく解説してくれた1冊が、多感な時期に強烈な印象を残してくれた本として記憶に残っています。
年月を経ても読み継がれている本は、テキストに血が巡っていると感じます。脈々と流れる血液が、自分の経験のヒントにもなっていく。最近は、ビジネス書を読む機会も多くなり、仕事への向き合い方のアドバイスを得ることも。人前で話したり、企画を立ち上げたりすることが多いため、アウトプットの倍くらいインプットしなければ、と考えています。そうしないと、自分のなかから新しいものが生まれなくなってしまうような気がして。心に響いたページの角を折ったり、線を引いたり、読みかけのところにカバーを挟んだりしながら、活字を自身の血肉としていけたらと思っています。
『殿、利息でござる!』
監督:中村義洋 2016年・日本
重税に苦しむ仙台藩・吉岡宿の町民が、殿様に大金を貸し付けて利息を得ようと奮闘! 250年前の実話をもとにした、笑って泣ける痛快コメディ。「チームでの結束、役割分担など、働く女性のツボに刺さる作品。金融の流れも楽しく学べます」
獨協大学卒業後、エイチ・アイ・エスに入社。団体旅行のコーディネーターとして、約8000人にオーダーメードツアーを提供。2015年にFinTechベンチャーに転職したことを契機に、金融・経済リテラシーの必要性を痛感。16年に起業し、中立な女性向け金融コミュニティー「きんゆう女子。」を運営。