「何気なく手に取った一冊で、人生が変わった」。そんな経験のある人は多いのではないでしょうか。雑誌「プレジデント ウーマン」(2018年1月号)の特集「いま読み直したい感動の名著218」では、為末大さんや西野亮廣さんなど11人に「私が一生読み続けたい傑作」を聞きました。今回はその中から、歌手・俳優の稲垣吾郎さんのインタビューを紹介します――。

歌手・俳優 稲垣吾郎●1973年生まれ。2016年末に解散したグループ、SMAPの元メンバー。本と映画、ワインが好きなことで知られている。17年9月に公式ファンサイト「新しい地図」を立ち上げ、10月からはオフィシャルブログも開始した。

小学生の頃、僕が住んでいた東京都板橋区の団地の中にすごく大きな図書館ができたんです。館内にらせん階段があって、10歳の僕にはお城みたいに見えてね。そこで読み始めたのが、ポプラ社の「怪盗ルパン」シリーズや「名探偵ホームズ」シリーズ。特にルパンが大好きで。

『奇巌城』とか『緑の目の少女』とか、小学生向けなんだけど時代背景がしっかり描かれていて、歴史の勉強にもなりました。小説に出てくる1900年代初頭のヨーロッパのファッションや文化にも憧れて、ワインに興味を持ったのもそれがきっかけかもしれない。

そこから赤川次郎さんとか、日本の推理小説も読むようになって。江戸川乱歩も好きだったなぁ。あのおどろおどろしい世界が当時は衝撃的でね。子ども向けの「少年探偵」シリーズだけではなく、『人間椅子』や『芋虫』など、いろんな作品を読みました。学校の図書室で借りた『クレタ島のひみつ』とか、冒険ものも好きでしたね。本の中で、空想の旅をしていました。

10代後半、20代になると、テレビや雑誌で話題の本や、自分が影響を受けた人の愛読書を読むように。20歳ぐらいのときに対談でお声がけいただいた坂本龍一さんをはじめ、年上のいろんな方々に出会うことで、本や映画、音楽に関する僕の世界も広がっていきました。

そういえばちょうど同じ頃、ちょっと恋心を抱いていた年上の女性から、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』をプレゼントされたことがあって。本の扉に“すてきな大人になってね”といったメッセージが書かれていたんですよ。本自体は普通の青春もので、さほど思い入れがあるわけじゃないんですけど(笑)、「こういうのいいな」と思った記憶があります。

過酷な状況に置かれても、人は美しく生きられる

『潜水服は蝶の夢を見る』は映画化されて話題になった作品です。僕も先に出合ったのは映画のほう。これは実話で、ELLE誌の編集長だった男性が、脳出血で倒れて、意識はあるのに左目しか動かなくなってしまった状態で書いた自伝なんです。

体が動かない彼は、言語聴覚士の方とルールを作り、まばたきで言葉を伝える方法を覚えるんです。それが途方もない作業でね。20万回以上のまばたきだけでこの本を書いたという事実にまず驚きました。彼は体は動かないけれど、空想によって夢の中へ旅をして、それをホントに美しい言葉で紡ぐんですよね。

(上)『潜水服は蝶の夢を見る』ジャン=ドミニック・ボービー(講談社)/古書にて入手可能(下)いくつになっても美しいたたずまいの稲垣さん。本に対する熱い思いと、現在の気持ちを率直に語ってくれました。

彼自身も一筋縄ではいかない人間でね。納得がいかないことがあれば医者への皮肉も平気で言うし(笑)、はすにかまえた、ちょっと偏屈な自分も表に出しつつ、ユーモアも忘れない。その生きざまから彼の信念みたいなものが伝わってきたし、過酷な状況に置かれて自由を奪われても、人はここまで豊かに表現し、夢を見ながらプライドを持って、美しく生きていくことができるんだなと思って衝撃を受けました。

同時に、自分は健康で自由なんだから、思い切り空へ羽ばたくように夢を紡いで、彼みたいな生き方ができればいいなって、映画を見たとき、心の底から震えるような感情が湧き上がってきて。その感動を忘れたくなくて、この本を手に取りました。原作は淡々と書かれてますが、映画は、回想シーンや家族とのエピソードが美しい映像とともに描かれていて、ドラマチックなエンターテインメントになっています。

※本稿はインタビュー記事のダイジェスト版です。続きは「プレジデント ウーマン」(2018年1月号)にてご覧ください。