Q. 私たちが今、読むべき本は何ですか?
Answer:ライフネット生命保険会長・出口治明さん

(左上)『知ろうとすること。』(右上)『宇宙からいかにヒトは生まれたか』(中左)『トップエコノミストの経済サキ読み術』(中右)『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす』(下左)『すべての見えない光』(下右)『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』

2016年は英国のEU離脱やアメリカ大統領選など、世界が大きく揺れた年でした。2017年は、OECD予測で世界は3.3%成長すると見込まれています(16年2.9%)。

経済が上向くといっても、日本は財政の悪化、国際競争力の低下など、大きな課題を抱えたままです。今、日本に何が必要かといえば、経済を強くすることです。経済の足腰が強くなり十分なお金があれば、なにか問題が起こっても対応できます。それでなくとも、日本は少子高齢化で、1年で5000億円から2兆円のお金が出ていくといわれています。人口が減る以上、稼ぐためには生産性の向上が不可欠です。

生産性を上げるために、何よりも大事なのは、働き方を変えることです。戦後の日本では、工場を長時間稼働させるために、体力のある男性を長時間働かせました。そして男性をサポートするために、女性は専業主婦として男性の世話をすることが推奨された。そうして経済が成長していき、男性は「メシ、風呂、寝る」の生活が良しとされました。

しかし、現代はサービス産業が経済を引っ張る時代です。消費者は女性が中心となりますから、供給サイドにも女性がいなければ、消費者の心をつかむことができず、経済は伸びません。また、労働時間の長さではなく、アイデアや成果が評価されます。ということは、労働時間を短くして、空いた時間でたくさんの人に会い、たくさん本を読み、さまざまな現場を自分の目で見て見聞を広めなければ、豊かな発想は生まれません。「人、本、旅」の生活への転換が必要なのです。

日本は年間2000時間働いて、夏休みは1週間、経済成長率は直近3年間の平均で0.5%でした。ドイツやフランスは年間1400時間働いて、夏休みは1カ月、経済成長率は平均1.5%でした。どちらがいいかは明白でしょう。

本を読むときは、必ず相互に実証可能なデータ(数字・ファクト)をふまえて自分で考える癖をつけるようにしてください。先にご紹介した4冊は、女性がバリバリ働き続けるときに役立つ実践的な本を選びました。あとの2冊は、ロマンのあるもの。歴史や文学で心の栄養を得られる本です。加えて、働き方について学びたい人には、伊賀泰代『生産性』(ダイヤモンド社)もお薦めです。“人間の成長とは生産性を上げること”というシンプルな理念の下に、明日からの仕事ですぐに役立つ具体的な考え方やノウハウが詰まっています。

仕事をする時間が短くなっても、家事や子育てに追われて自分の時間がとれないという女性の皆さんは、少し立ち止まって考えてみてください。男性も定時で職場から追い出されるのですから、うまく転がして家事をやらせればいいのです。それでもやってくれないような男性なら、どんどんチェンジして、捨ててしまいましょう(笑)。

▼ご紹介いただいた本6冊

『知ろうとすること。』早野龍五、糸井重里(著)新潮社 本体430円+税
東日本大震災の原発事故直後、事実を分析し、ツイッターで発信し続けた物理学者に、コピーライターの糸井重里が取材。「偉い人の話でもむやみに信じることなく、データやファクトをベースにして、自分で考えて納得することが大切。薄い本なので、読みやすいと思います」

『宇宙からいかにヒトは生まれたか』更科 功(著)新潮社 本体1300円+税
宇宙から地球が生まれ、人間が生まれた、その138億年の歴史を紹介。「普段は身近な問題に心を奪われがちですが、地球と動植物の関係を整理してみると、人間が存在する時代など一瞬にすぎないと、謙虚な気持ちになります。難しいところは飛ばして読んでもいい」

『トップエコノミストの経済サキ読み術』上野泰也(著)日本経済新聞出版社 本体1600円+税
経済の仕組みをAKB48や東京五輪など身近な題材を織り交ぜて解説。「経済をこれだけわかりやすく説明した人はあまりいない。辞書のように興味のあるところから読めます。さらに専門的に読みたい方には、池尾和人『連続講義・デフレと経済政策』(日経BP社)もお薦めです」

『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす』日本財団子どもの貧困対策チーム(著)文藝春秋 本体780円+税
日本の子どもの6人に1人が貧困家庭で、これを放置すると社会的損失は年間40兆円。データ分析やインタビューを交え、現状に迫る。「日本の現状に閉塞(へいそく)感を抱いたり、このままでいいのだろうかと思っている人に。社会問題に目を向ける入門書として最適な本です」

『すべての見えない光』アンソニー・ドーア(著)藤井 光(訳)新潮社 本体2700円+税
第2次世界大戦中、フランスの盲目の少女と、孤児院で育った少年ドイツ兵の出会いを描いた長編小説。「分厚い本ですが、短編作家の本なので、ひとつひとつの章が短くて読みやすい本です。透き通るようなきれいな文章ですから、心に栄養を与えるのにぴったりです」

『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』星野博美(著)文藝春秋 本体1950円+税
1549年にザビエルが鹿児島に上陸し、キリスト教の布教が始まる。禁教令が敷かれ、日本のキリシタンが日本人から迫害を受けた歴史をたどる。「ISの暴虐を恐ろしく思いますが、日本にも凄惨な宗教問題があったことがわかる。日本の歴史にここから触れてほしい」

出口治明
ライフネット生命保険会長。1948年、三重県生まれ。72年に京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社に入社、ロンドン現地法人社長や国際業務部長などを経て2006年に退職。戦後初の独立系生保会社として同社を設立、13年より現職。経営者目線と博識から生み出される著作にファンは多い。
 
●出口さんの本
1200都市以上を訪れ、5000冊以上の歴史書を読破。“人の話を聴き本を読み旅をして自分で咀嚼して腹落ちしたこと”をまとめた『仕事に効く教養としての「世界史」』(祥伝社)がベストセラーに。昨年10月に2巻を出版。近著に『世界一子どもを育てやすい国にしよう』(ウェッジ)。