例文すべてに“うんこ”を使い、累計227万部突破の大ヒットとなった『うんこ漢字ドリル』。担当した文響社の谷綾子さんに、その誕生秘話と発想法を聞いてみた。

発想に行き詰まったら場所を変えるべし

谷 綾子●文響社 編集部マネージャー。出版社の営業、編集を経て、2年前に文響社に転職。児童書、料理書などを手がける。担当書籍は『一日がしあわせになる朝ごはん』『たとえる技術』『お仕事のコツ事典』など。

自分がほしいと思った本をつくる、これが企画を立てるときの私の基本的な方針です。根本にあるのは、好きとか面白いといった気持ち。そこから世の中に合うように、少しずつとれる角はとっていき、残す角は残すというやり方です。『うんこ漢字ドリル』は弊社社長の発案ですが、社長はうんこが大好き(笑)。最初は旧知の仲である映像ディレクターの古屋雄作さんの「うんこ川柳」を本にしたいと考えていたのですが、いったい誰が買うんだと。あれこれ考えた末、“うんこ”というキーワードと漢字を覚えることが、どうも相性がよさそうということに行き着きました。弊社は教育や自己啓発をエンターテインメントでくるんで出そうという理念を持っていることもあり、漢字ドリルが良いのではと着想を得たのです。

うんこ漢字ドリルには、すべての例文に“うんこ”が入っていますが、汚いものを想起させたり、いじめにつながったりするものは排除しています。また冒険家や体育の先生、スタントマンなどを登場させて物語性を持たせる工夫もしています。6年生のドリルで「翌」という字を書かせる際の例文が「うんこがなくなった翌年、ぼくは中学生になった」と感傷的になっているのも、物語性が反映されたものです。

古屋さんは、この例文を考えるためだけに沖縄に行きました。青い海や結婚式のカップルを見ながら、うんこに向き合っていたと(笑)。私も発想に行き詰まったら、場所を変えて深く潜ります。バラバラにメモしていた言葉をまとめたり、資料を読み込んだり、一人でじっくり考える時間を持つ。そうしないと、とってこられないものがあるんです。

常識にとらわれず発想できたのは、しがらみのない出版社というのが大きいですね。新しい会社で、社長も元トレーダーと全くの異業種。今のところ企画会議もなく、みんな比較的自由に本をつくっています。

うんこのように、眉をひそめられるくらい強いものでないと、ここまで話題にならないんだなと私自身も勉強になっています。これからも、うんこに匹敵するものを見つけなくちゃと思いますけど、最強すぎて超えられるものがないですね(笑)。

構成=池田純子 撮影=遠藤素子