アメリカで、一度キャリア街道から外れ、育児などで仕事から離れた人の再就職を支援する活動をしてきたコーエンさん。日本と似たような状況だったというアメリカを、どう変えてきたのだろうか?

離職・空白期間後の再出発はインターンシップから

キャロル・フィッシュマン・コーエン●自身も4児の母として、11年間のキャリアの空白を経て再就職。ハーバード・ビジネス・レビュー掲載の論文「40歳のインターン」が高い評価を受け、TED Talksのスピーチ動画は世界で1200万回以上再生された。

出産・育児による離職という、女性特有の“キャリアブランク”。特に日本では、女性就業人口の年齢別・学歴別統計に表れる、いわゆる「M字曲線」の原因であり、高学歴女性ほど離職率が高い。「アメリカでも多くの女性が離職します。富裕層や中産階級では22%の女性が専業主婦。25歳から54歳の大卒女性のうち、ゆうに260万人が労働人口外にいるのです」

プロフェッショナルな女性人材の再就職をサポートし、これまでに多くの人材を一流企業へ専門職として送り込んできた米国iRelaunch社CEO キャロル・フィッシュマン・コーエンさんは指摘する。米国でもまた、女性、男性問わず優秀な人材が、育児や介護、自分のやりたいことの追求など様々な理由でキャリアに“空白期間”を置く。しかし長期の空白期間ののちに再就職で適切なマッチングを果たすのは、やはり容易ではない。

そこでコーエンさんはインターンシップの活用に着目。2007年に起業したiRelaunchでは長期のキャリア空白期間を持つ高度人材を対象に、インターンシップ採用から直接、その企業での正社員雇用へとつながるような人材教育プログラムを提供してきた。これまで4500人の採用をサポートしたが、100%が大卒者で、70%が修士号取得者、そして93%が女性だ。

「米国では、08年頃からキャリア空白期間のある再就職希望者向けのインターンシップが多くの一流企業で導入されました。ゴールドマン・サックスやJPモルガンなどの最大手金融、IBMやGMなどの大手のエンジニアリング企業など、北米各地の経営拠点で広く展開されています」

これらのインターンシップでは、インターンから正社員へと採用される割合が50~90%ととても高く、正社員採用の登竜門として機能している。「そもそもインターンシップへの採用競争率は何十倍とし烈で、ハイスキルでモチベーションも高い人々が集まっています。その中へブランク女性が食い込んでいくための自分の売り込み方や職業スキルの再教育を支援しています」

子育てを経た高度女性人材は、企業にとっても魅力的

「職歴=社歴」と評価しがちな日本では、一度離職するとキャリアは0カウントになり、人材としての評価が下がってしまう。だが米国では再就職希望者側が自らの職業経験を詳細に文書化して開示し、自らを再教育して備えることで、企業は空白期間の長さのいかんにかかわらず公正に職歴とスキルを評価し、採用に至る。自分の職歴を詳細に書き留めておくことが、インターン採用成功の秘訣なのだという。

コーエンさんは、著書『Back On the Career Track』で、女性たちに再就職のために必要なスキルなどを語っている。

また、長いブランクを経てスキルが陳腐化していないか、との疑念にも、コーエンさんは否定的だ。「女性のSTEM(科学・技術・工学・数学領域)人材には高い需要があります。テクニカルなスキルとはあくまでも状況的なもの、時代の流行にすぎないので、個人的なアップデートが可能です」

技術系人材の間では、スキルのアップデートは自分の時間とお金を使った自己責任。「パニックになる必要はありません。基本的なITスキルは就職活動の段階で持っておくべきですが、ほかのスキルはキャリアブレークの最後のほうでキャッチアップすれば十分なんです」。基本的なスキルはウェブや家電量販店で提供されるような短期コースで十分な場合が多く、また専門性が高い職能の場合は、その業界内で研修コースや勉強会が設けられているのを活用したい。

もちろん、それでも採用マネジャーによっては、子育てを経た女性の採用にためらう人がいる。だが「iRelaunchが持つ200の成功事例に雇用者側が刺激を受けて、女性の再就職インターンシップ採用へと動くことも多いのですよ。子育てを経た女性の再就職者は個人的にも熟成した感覚と高い能力を持ち、やる気に満ちている。私たちは、高度女性人材が子育てを経て再就職することが企業にとって非常に魅力的であるとの理解を広めてきたのです」。

インターン期間を経て家族の理解も育っていく

とはいえ、キャリアブレーク後にそれまでの暮らしのサイクルを変えて働き始めるのは、家庭を持つ女性にとって決して簡単なことではない。「女性の再就職者たちは、家族との関係に重点を置き、環境を整えました。例えば、再就職の就職活動の時点から、パートナーや子どもなどの家族や周りの協力者へ積極的に相談し、巻き込んでいくことで、理解を取りつけ、協力してもらえるようになります」

特に子どもに対しては「再就職によって家族と一緒に過ごす時間が短くなるのは家族を“拒否”しているからではない」と心を込めてメッセージを伝え、理解してもらうことが大切。子どもの視点に立ち、食事や通学などに関わる日常の小さなことから、子どもの自立を図りつつ、必要な手助けをする。

コーエンさんが再就職支援をしてきた米国の高度女性人材たちの多くの例でも、離れている間に自分がしていたことをお互い楽しく報告する方法や家族で食事をともにする時間を最大限に楽しむ方法を思案するなど、様々な努力をしてきた。

再就職者が自分自身や生活を大きく変えるとき、家族の環境もまた大きく変わる。自分が第二の収入源となることで、それまで一人で家計収入を担ってきたパートナーのプレッシャーを和らげる一方、それまでなかった家事分担・保育コストなども新たに生じる。

コーエンさん自身も、4人の子育てを経て職場に戻った変化期は苦労が多かったと振り返る。お互い新卒でもなくミドルキャリアでもなかった“ハイブリッド”のユニークな立場として「インターンの同期は“戦友”です」。

コーエンさんは現在、iRelaunchが支援した4500人の再就職をケースワークとして文書化する活動に注力している。彼女たちが描いた努力と葛藤の軌跡は、世界中の母親を勇気づけるだろう。