「画像診断をAIが行うことで、人間が見落としがちな兆候がとらえられ、がんの早期発見の精度が上がる」「投資判断をAIが行うヘッジファンドが誕生した」など、AIにまつわるニュースが次々に報道されています。その技術はわれわれの生活にどう影響するのでしょうか。

コンピュータに人間のような認識をさせる

AIとは、Artificial Intelligenceの略で、人工知能のこと。AIは単なる計算だけでなく、情報を取り込めば取り込むほど学習したり、これまでのデータから推論したりします。

国立研究開発法人 産業技術総合研究所人工知能研究センター上席イノベーションコーディネータの杉村領一さんは、AI研究を「人が外の世界を見たり、感じて、考え、行動したりするように、コンピュータにも外の世界を見せて、考えさせ、行動させる研究」と説明します。

こうしたAIの“学習”のやりかたを「機械学習」といいますが、これまでの機械学習は、読み込ませるデータの中で注意すべき特徴を人間が教えたうえで、学習させていました。最近では、人間の脳の神経細胞のような「ニューラルネットワーク」というしくみを使うことで、データの特徴をより深いレベルで分析し、学習できるようになっているそう。

なかでも、データを解析する層が何重にもなり、学習の精度が飛躍的に向上したのが、ディープラーニング(深層学習)です。データを入力すればするほど、人間が教えなくても、自動的に注目すべき特徴を捉えて、深く学習していきます。囲碁の世界チャンピオンを負かしたアルファ碁や、MasterというAIもディープラーニングで強くなり、人間が考えつかない手を思いつくまでになりました。

データ分析から遭難者の救助まで

現在では、数字や文字のデータ解析だけでなく、画像判別能力も向上しています。たとえば、人型ロボットのPepperは、クラウドAIを搭載し、微妙な人間の表情を読み取って反応する、感情ロボットとして接客などに使われています。

一方で、高度な画像認識で、医療の場で診断に応用したり、交通渋滞の緩和のための予測や、衛星写真から気象条件や地勢の状況を判断して効率的な農地の利用を考えたりするAIもあります。さらに、静止画だけでなく、「自動車など実際に動いているものも認識させる研究が進んでいます」(杉村さん)。自動車の運転支援に応用したり、監視システムを強化し、さらに防犯に役立てたりできます。

二足歩行可能なロボット「アトラス」。(ロイター/アフロ=写真)

行動するAIやロボットも研究が進んでいます。「昔は二足歩行さえ難しかったのですが、今は、雪道を歩くロボットもあります」(杉村さん)。雪山で遭難者を見つけるなどのほか、介護や医療の現場でも人手不足の解消につながります。このようにデータの解析から行動にまで、AIを応用する可能性が広がっています。

AIが人間の仕事を奪うという脅威論もありますが、AIにも得手不得手があります。ルールの決まったゲーム、データ解析や画像認識、パターン認識などは得意ですが、AIは人間が普通に持つ一般常識を持つには至っていません。また予測不可能な事態の対処、ゼロからものをつくることも苦手です。ですから、たとえば完全にAIだけの企業経営や、芸術家として活躍するのは、現時点では難しいと考えられます。

AIの得意分野で人間と協業していく場面が広がっていくでしょう。