女性活躍推進法、ワーク・ライフ・バランス、卵子凍結……。女性を取り巻くさまざまな問題をよい方向へ導くのは、社会? それとも私たち一人一人の意識? 國學院大學経済学部教授 水無田気流さんが、知識として知っておきたい本をご紹介。考えさせられます!

日本は豊かになり、いろいろな生き方が選べるようになったはずなのに、女性は生きにくいと感じることがあると思います。全部社会のせいというわけではないにせよ、まず世の中の現状を把握して、どんな論点があるのかを知っておくことが大切です。大まかにでも構造が頭に入っていれば、自分の置かれた状況を客観的に捉えられ、壁にぶつかっても、必要以上に自分だけを責めず、いまできることを冷静に考え、感情論に走らずに、取りうる選択肢を選びやすくなります。

たとえば、『働く女子の運命』は、女性が働きづらい社会構造について、歴史的な経緯や見取り図を的確に示してくれます。

また、女性の社会進出が早かったアメリカで、女性が働きやすい環境を切り開いてきた格闘の歴史とリアルな事例を知るには『LEAN IN』などが参考になります。『管理される心』では、女性が実務以外で、職場で求められがちな「癒やし」や「職場の華」としての役割についても触れています。

結婚、出産、子育てなど女性のライフイベントと社会問題を絡めて論じた本は、手に取りやすいと思います。『私、いつまで産めますか?』は、妊娠についての科学的な知識がひととおり書いてあって、産むにせよ産まないにせよ、読んでおいて損はないでしょう。

男性の心理を知り、主張に耳を傾けることも大事です。『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』は、男性の行動原理の指摘が痛快です。番外編ですが、男性の生きづらさが書かれた『男がつらいよ』(田中俊之著・KADOKAWA)など男性側からの主張を読むと、社会的な男女の位置づけについて深く考えさせられます。最近は、私が教壇に立っている大学の男子学生のリポートに、男女の役割や生き方について柔軟でおもしろい考え方をするものが増えています。個人的には、日本社会の未来に希望を持っています。

▼アメリカの働く女性のリアル

(左から)『LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲』シェリル・サンドバーグ/日本経済新聞出版社、『管理される心 感情が商品になるとき』A・R・ホックシールド/世界思想社

『LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲』シェリル・サンドバーグ/日本経済新聞出版社
フェイスブックのCOOによる、女性のキャリア達成のための方法論や歴史、障壁をまとめた本。女性が職場でリーダーシップを取るときにつきあたる偏見、差別、家庭内の仕事は低く見積もられるといった社会的な障壁、また、性役割を女性自身がつくってしまう問題なども検証。

『管理される心 感情が商品になるとき』A・R・ホックシールド/世界思想社
サービス業や営業など人と接する労働者は、客に「心」を売らなければならず、現代は感情が商品化される時代といえる。そして女性はとくに、実務以外にも「職場の華」としての役割や「癒やし」であることを求められるなど、「感情労働」の担い手とされがちであると看破した本。

▼男性の行動原理をウラ読み

『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』ジェーン・スー/ポプラ文庫

『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』ジェーン・スー/ポプラ文庫
一見、男性の行動原理や女性の陥りやすい行動パターンを結婚や恋愛に関連した項目で、痛快に解説しているかのようで、いかに男心を捉えるかという「実践知」の本に見えるが、ウラから読めば、社会的な男女の役割、女性はどのように行動することを期待されているかも見えてくる本。

▼心の背筋がピン! と伸びる

(左から)『ガール』奥田英朗/講談社文庫、『自分の感受性くらい』茨木のり子/花神社

『ガール』奥田英朗/講談社文庫
働く30代女子を描いた小説はたくさんあるが、これほどバリエーション豊かに、ステレオタイプに陥らないものも珍しい。確かな観察眼にもとづいて、女性を生き生きと描いた出色の短編集。これが女性の書き手でなく、ベテランの男性作家の手になるという事実にも勇気づけられる。

『自分の感受性くらい』茨木のり子/花神社
こうすればうまく生き抜ける、といったハウツー本のように、すぐにやる気が起きるといった即効性はなく、じわじわと心に染み込み、すっと心の背筋が伸びていくような言葉が並ぶ。いわば魂が強くなる詩集。一篇一篇はとても短いので、通勤電車の中などで読むのもおすすめ。

▼女性の働き方と諸問題を知る

(左から)『働く女子の運命』濱口桂一郎/文春新書、『「育休世代」のジレンマ』中野円佳/光文社新書、『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』筒井淳也/中公新書、『女性はなぜ活躍できないのか』大沢真知子/東洋経済新報社

『働く女子の運命』濱口桂一郎/文春新書
日本では、社員として異動や転勤を受け入れ定年まで企業に尽くすという「メンバーシップ型」の働き方ができるかが査定基準になりがち。仕事がいくらできても、育児や出産といった「リスク」を抱える女性が活躍しにくいという日本型雇用の歴史をたどる。社会構造を知るのに必読。

『「育休世代」のジレンマ』中野円佳/光文社新書
15人の総合職女性へのインタビューから、働きやすさよりもやりがいを重視して職場を選び、自分と同じハードワーカーな夫と結婚すると、育児と仕事の両立ができなくなり、結果的に意欲のある女性ほど出産で仕事をやめてしまう傾向にあるという、逆説的な事実を浮かび上がらせる。

『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』筒井淳也/中公新書
豊富なデータやスウェーデンとアメリカという働く女性を支援する国の施策を比較し、その方法を単純に日本に適用するのではなく、女性が出産後も働き続けられる社会にするにはどうすればよいか、長時間労働が前提になっている従来の日本的な働き方を見直す必要に言及した本。

『女性はなぜ活躍できないのか』大沢真知子/東洋経済新報社
やや専門的な本。とくに高学歴女性の働きにくさにも焦点を当てている。調査やインタビューをもとにした分析で、職場の意識や働き方を変えることの重要性や、「女性は昇進意欲に乏しい」等の先入観、企業の思い込みが女性人材の浪費をもたらしていると指摘。

▼妊娠、出産について知る

『私、いつまで産めますか? 卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存』香川則子/WAVE出版

『私、いつまで産めますか? 卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存』香川則子/WAVE出版
卵子凍結研究のプロフェッショナルによる、不妊治療と卵子凍結保存についての概説書。かかる費用や期間、採取方法、高齢出産の成功率の低さなどについて詳しく知るための本。産む、産まないにかかわらず、選択肢やそれについての最先端の正確な知識はあるに越したことはない。

水無田気流
國學院大學経済学部教授。専門は文化社会学、ジェンダー論。1970年生まれ。『シングルマザーの貧困』(光文社)、『「居場所」のない男、「時間」がない女』(日本経済新聞出版社)など著書多数。詩人として中原中也賞など受賞。