日々の暮らしで、だしをとっていますか? 仕事と家事に加え、育児や介護など、一人で何役もこなすキャリアにとって、時短は最大の命題。そうなると、だしは“だしの素”頼みが多いのが実情です。最近ではさまざまなタイプの商品が市販されているので、手軽で便利なだけでなく、選ぶ楽しさもあったりします。でも、ちょっと待って。ユネスコ世界文化遺産に登録されて以来、世界中からの注目が高まっている和食。その原点であるだしを、見つめ直してみませんか!

日本人が発見した“旨味”

福井県敦賀市で明治4年に創業した昆布問屋「奥井海生堂」四代目の奥井 隆氏と、東京・築地にある日本料理の名店「つきぢ田村」三代目の田村 隆氏による豪華なトークショーと、昆布だしのおいしさを堪能できる特別誂えのお弁当をいただく、というランチセミナーが先日開催された。

奥井海生堂 四代目
奥井 隆
1948年、福井県敦賀市生まれ。71年、立教大学経済学部卒業と同時に、奥井海生堂に入社。四代目となるべく、家業に専念する。95年、代表取締役社長に就任。昆布商として多方面で活躍する一方で、昆布の生産地、北海道にも足繁く通うほか、ソムリエならぬ「コブリエ」として、昆布の普及や日本の食文化の啓蒙活動にも奔走している。著書に『昆布と日本人』(日本経済新聞出版社)がある。

「フランスのパリなどで和食文化の普及活動をしていますが、最近では敦賀の昆布蔵にまでわざわざ来てくださる海外の方が増えてきました。先日などフランスのフィガロ誌から取材の申し込みがあって、編集者がいらしたのですが、“日本の昆布はマジックだ”というテーマで1ページに及ぶ記事にまとめてくださり、パリで大いに話題になったそうです」と奥井さん。もともとフランスでは昆布は畑の肥料として使われていた。そんな中、和食のおいしさに開眼したフレンチのシェフたちは日本のだしに注目。今ではパリの三ツ星レストランのバックヤードに昆布が常備されていたりする。

「健康にもいいことから昆布の人気が高まり、フランスのブルターニュ地方は昆布の一大産地として知られています。でも実は、大西洋に育つ昆布と日本の昆布では種類が違うんです。当然、旨味も違います」と奥井さんは自信をのぞかせた。

 

日本のだしは“世界一コンビニエンス”

日本に限らず、世界各国の料理にもだしはある。フランス料理のフォンやコンソメ、中国料理の湯(タン=スープ)など、味づくりのベースに欠かせない。でも、大きな違いが二つある。

つきぢ田村 三代目
田村 隆
1957年、東京生まれ。80年玉川大学文学部英米文学科を卒業後、大阪の名門料亭「高麗橋吉兆」に入門。3年間の修業の後、つきぢ田村へ。調理場の最前線で腕をふるう一方、NHKなどのテレビ番組や料理学校の講師など、一般に向けた食の伝承にも力を注ぐ。2010年「現代の名工」厚生労働大臣賞受賞。著書は、エッセイ『隠し包丁』(白水社)、『日本料理の基本』(新星出版社)ほか多数。 「料理は五つの味(甘い・酸っぱい・苦い・塩辛い・うま味)の五つの味がうまく調和していなければいけない。それでこそ、食べるお客様はうまいと感じるものだ」という、創業者・田村平治氏の「五味調和」という料理の心と味を受け継いでいる。

「一つめは、だしづくりは時間がかからないということ。フォンやスープは動物系の肉や骨から旨味を取りますから、時間がかかります。早くても3日、長いと1週間くらいかけて取ります。でも、日本のだしはお湯を沸かす感覚で取れてしまいます。何故か。それは奥井さんのような昆布商、鰹節屋さん、椎茸生産者など、だしの材料を加工される方々が、素材を吟味し、ベストな状態に仕上げて提供してくれるから。だから、私たち調理をする者はそれらを手に入れて、しゃしゃっと使うだけでおいしいだしが手に入るのです(笑)」と田村さん。

そしてもう一つは、「日本のだしはバランスが大事だということ。大阪の料亭、高麗橋吉兆に入門して半年くらいたった頃、厨房で鍋を洗っていると創業者の湯木貞一翁から『お椀をつくって』と声をかけられたのです。昆布を浸して、鰹節を削ってだしを引き、下ごしらえしてあった松茸と豆腐を入れて……万全に整えて持って行きました。すると湯木翁は、お椀の蓋を開けた瞬間に『まぁ、なんとまずそうな!』と言われたのです。そして、『なぁ、昆布も鰹も入れたらいいってもんやない。バランスだよ』と。蓋を開けた瞬間に鼻腔に届いた香りで見切られたのです」と田村さん。フォンやスープは肉からの旨味が圧倒的に強い。が、繊細な味わいの昆布や鰹節の旨味は、合わせることで旨味がぐんと増す。だしの“旨味の相乗効果”もまた、世界の料理人が注目する所以である。

日本人のDNAは昆布と鰹でできている!?

「昆布は2年かけて成長します。そして、昆布蔵の中で2~3年寝かせて商品となります。蔵で囲っている間に磯臭さが消え、旨味が増すのです」と奥井さん。奥井海生堂が昔ながらの蔵囲昆布にこだわるのは、旨味を育むためである。脈々と受け継がれてきた伝統でだしの旨味は進化してきたのである。

「日本人ってすごいなぁって思うことがあります」と切り出したのは田村さんである。「日本は世界的にみると軟水の文化圏ですが、関東と関西では水の硬度が微妙に違うんです。関西のほうが若干軟らかい。だから、昆布の旨味が出やすいんです。関東は昆布の旨味が出切らないので、鰹の風味を強めにする。もう本能でわかっていたんですね」。

本当に水の違いだけ!? 驚愕の利き昆布だし

今回のランチセミナーの目玉企画が、利き昆布だし。昆布を浸ける水による風味の違いを五感で体験しようというものだ。水は3種で、水道水、浄水、クリンスイ「出汁をおいしくするための水」のポット型浄水器を通した水道水。それぞれ1リットルを用意し、奥井海生堂の蔵囲利尻昆布30gを浸け、冷蔵庫で一晩水出しした。

3種の水で奥井海生堂の蔵囲利尻昆布を一晩かけて水出しした昆布だし。このアングルではわかりにくいが、近寄ると左の「出汁をおいしくするための水」は褐色がかっている。

まずはセミナー参加者の反応を紹介しよう。

※以下、クリンスイ「出汁をおいしくするための水」は、「クリンスイ」と略

「水が違うだけで、おいしさにここまで差が出るとは驚きです!」

「クリンスイの昆布だしは、とても香りがいい。昆布を水に浸けただけなんですか? もう、一品料理になってます」

「浄水の昆布だしも雑味がなくておいしいのですが、クリンスイと比べると水っぽい(笑)。コクが薄く感じます」

「クリンスイは、おだしに特化しているだけあって予想以上のおいしさ。次点は浄水よりも、むしろ水道水のほうが好みかな」

「違いが明確すぎます。水の名前を書いたシートからはずしてシャッフルされても、私、当てられます!(笑)」

和食のためのクリンスイ
昆布の老舗 奥井海生堂監修 出汁をおいしくするためのポット型浄水器《クリンスイ JP407-D》。クリンスイの優れた除去能力に加え、出汁のうま味を引き出す軟水をつくります。軟水化された水が出汁の旨味を引き出し、味わい深い出汁に仕上がります。

この「出汁をおいしくするための水」は、クリンスイが浄水能力+αをテーマに新たに展開している「和食のためのクリンスイ」シリーズの一つで、奥井さんの監修の下に誕生したポット型浄水器である。

「私どもが丹精込めた昆布の旨味を最大限に引き出したい。その想いから開発に参加しました。カートリッジにはクリンスイの高い浄水能力はそのまま、水道水を軟水化する工夫をしてあります」と奥井さん。昆布のなかでももっとも旨味が出にくい利尻昆布に照準を当てているので、昆布の種類は問わない。もちろん、鰹や煮干し、しいたけなどの旨味も十二分に引き出せる。

ところで、セミナーに先駆けて利き昆布だしをした田村さんも、旨味の違いに驚いた一人だ。「水だけを飲み比べてみたのですが、浄水との違いがあまりわからなかったんです。単なるおいしい水だなって(笑)。ところが、昆布を浸けたところ、水の違いは歴然に! うちのスタッフなど目を丸くしていました」。ちなみに、田村さんご自身の目も真ん丸でしたよ。

奥井さんのあふれんばかりの昆布愛から生まれたポット型浄水器。これがあれば、いつでも、どこでも、最高のだしが取れる、というわけだ。

だしのあるシンプルでおいしい暮らし

だしの旨味がしっかりしていると、料理の満足感は高い。味つけを薄くでき、食材の滋味を引き立てることができる。そう、おいしいだしがあると腕前アップ、ぐぐっと和食上手になれるのだ。

田村さんに、だしの取り方を教えていただこう。すると「ちょっと反省していることがあるんです」と田村さん。「一番だし、二番だしなどと言いすぎたなと。これはプロフェッショナルがやることで、家庭では一番も二番も要りません。また、鰹節をドバーと山盛りに入れるシーンを見たことがあると思うのですが、ウッとなりますよね。あんなに入れなきゃいけないんだって。全部忘れてください」とのこと。

ただ、守って欲しいことがあるという。「鍋に昆布と水を入れてすぐに火にかけるのは絶対にダメです。昆布や煮干しは水に浸けて、旨味が出やすくなるまでしっかり時間をかけることが大事です。なので、きれいなペットボトルなどに細く切った昆布を入れて冷蔵庫に常備しておくことをお薦めします。いつでもすぐ使えるし、だしが少量必要なときも便利でしょう」というアイデアには、参加者一同は感心するばかり。

奥井さんと田村さんのアドバイスをもとに、だしの取り方をまとめてみた。

おいしいだし
【材料】
水…1リットル 昆布…30g 鰹節…40~50g
【つくり方】
(1)昆布は、乾いた布などで表面の汚れなどをさっと拭き取る。
(2)清潔なボトルなどに水と昆布を入れ、冷蔵庫に一晩以上おく。
(3)鍋に昆布と水をあけ、火にかける。昆布の周りが泡立ってきたら昆布を取り出し、煮立ったら弱火にし、鰹節を入れて1~2分煮出す。ペーパータオルなどで漉す。

垂涎ものの精進椀とだし巻き玉子

ランチはつきぢ田村のお昼限定のお料理「大原弁当」からだしを利かせた料理を厳選し、昆布だしだけでつくる精進椀を特別にアレンジしていただいた。

だしのおいしさを堪能できるよう特別誂えのランチ。煮物や厚焼き玉子はつきぢ田村のだしを使用しているが、お椀は昆布だしだけの精進椀だ。

精進椀は、利き昆布だしのクリンスイ「出汁をおいしくするための水」に奥井海生堂の蔵囲利尻昆布を一晩浸けてから加熱。塩とほんの少々の淡口醤油で味つけし、椀だねは蟹しんじょだ。これが超がつく絶品で、お椀を顔に近づけた辺りから、だしの風味に包まれ、しみじみとしたおいしさが全身にしみわたる。お椀を味わった参加者たちは、誰もがまず言葉を失い、次の瞬間、笑顔になるのだった。だしがもたらす静かなインパクトだろう。

大原弁当でも味わえる煮物は、絶妙なバランスのだしで炊いてあり、食材の滋味が引き立っている。そして、だしを利かせた甘い玉子焼き。

(左)だしのおいしさを堪能できるよう特別誂えのランチ。煮物や厚焼き玉子はつきぢ田村のだしを使用しているが、お椀は昆布だしだけの精進椀だ。(中)食材の滋味が生きている煮物の盛り合わせ。(右)ほっとするような優しい甘さの厚焼き玉子。

実は、セミナーに応募する際に、だしについて知りたいことを書いてもらっていた。もっとも多かったのがだし巻き玉子のつくり方だった。

田村さんに話を向けると、「玉子焼きは訓練あるのみ」(一同爆笑)と一言。「失敗したってリカバリーできるのが玉子焼きなんです。料理番組の公開放送で、玉子焼きを実演したことがあります。玉子焼き器でくるくると巻いて……、そうしたらスタンディングオベーション。たかが玉子焼きで大袈裟だなぁって思ったら『先生、落ちてます』とスタッフ。玉子焼き器から飛び出しちゃってたの。刹那、巻き簾を手に取り、『慌てないでください。熱いうちに巻き簾で巻いて形を整えます』とその場を納めました。うまく巻けなかったらスクランブルエッグみたいにして、巻き簾で整えればいいんです。怖がらずに、つくってみてください」とのこと。

関西のだし巻き玉子は塩で味つけするから、焦げない。つきぢ田村のように関東のだし巻き玉子は醤油や砂糖で味つけするから、ちょっと焦げた感じも味わいになる。なるほど、いろいろ試してみたくなる。

おいしいだしが身近にあると和食メニューをつくりたくなる。メニューがどんどん広がる。しかも、ヘルシー。いいことばかりのおいしい連鎖が始まる。和食の原点であるだし。だしのある暮らしで、食生活を豊かに彩ろう。

【奥井海生堂】
●神楽本店
福井県敦賀市神楽町1-4-10
0770-22-0385
[営]9:00~18:00(日祝~17:00)
[休]無休
●コレド室町店
東京都中央区日本橋室町2-2-1 コレド室町1F
03-3548-0493
[営]10:00~21:00(日祝~17:00)
[休]無休
※このほかデパートなどに出店あり。
http://www.konbu.jp/

【つきぢ田村】
東京都中央区築地2-12-11
03-3541-2591
[営]11:30~15:00、17:30~22:00(土日祝は通し営業)
[休]平日に臨時休業あり
http://www.tsukiji-tamura.com/

クリンスイとは?
1984年、世界で初めて除菌ができる中空糸膜フィルターを採用した家庭用浄水器を発売した「クリンスイ」。“水”を通して世界中の人にワクワクを届けていきたいという思いから、現在では浄水器にとどまらない製品開発やサービスを世界に展開しています。東京・原宿では、「和食のためのクリンスイ」をはじめ、クリンスイの考え方“いい水にこだわった暮らし”を体験できるMIZUcafeを営業中。