今、発売中の『プレジデントウーマン』では、就業後のアフター7や休日に、副業や趣味、ボランティアをする“第3の活動”をする人々を特集。取材したライターの池田純子氏が、活動の醍醐味と想定外の相乗効果を特別レポートする。
くすんだ生活がみるみる輝く“第3の活動”とは何か?
今、“第3の活動”が注目されている。
第1の活動(仕事)や第2の活動(家族・プライベート)はもちろん大事だが、人生それだけではつまらない。そんな考えの人が始めているのが、この第3の活動だ。たとえば、ボランティアや副業。会社と家以外の場所での活動が、人生をより充実させ、「第1・第2の活動」にもいい影響を与える効果もあるというのだ。
文筆家で『上機嫌で生きる なぜかうまくいく人の幸せになるクセ』などの著書がある有川真由美さんも、「第3」活動家。執筆活動などに加え、1から写真撮影の技術を見に付けるという新しい試みを始め、現在では写真家の肩書きもある。
「第3の活動は、自分の命や人生を喜ばせる活動」と話す有川さんに、第3の活動を見つけるコツや続ける秘訣について聞いてみると……。
最初に教えてくれたのは、第3の活動を選ぶときに間違いがちな点だ。多くの人がついやってしまうのが、「流行っているから」「将来、仕事に役立ちそうだから」といった理由で活動を始めるというのだ。いわば、打算で動くパターン。
「結果的にそれが好きになればいいのですが、そうでなければ、けっこう中途半端なことになってしまいます。ですから、やっぱり純粋に好きなことをしたほうがいい。それはこれから見つけるというより、今までやってきたことの中にある気がします。本を読むことや物を作ること、人とコミュニケーションすること……、何かを好きだという気持ちは、自分の歴史の中にあるのではないでしょうか。ひょっとすると、子どもの頃にすごく夢中になっていたことにヒントがあるかもしれませんね」(有川さん)
有川さん自身も小学生の頃に自作していた学級新聞がワクワクの原点だと言う。
「先生たちの似顔絵を描いてパロディを作って、誰からも頼まれていないのに楽しくやっていたんですよ。最初はノートの切れ端に書いて回していたのを、友だちが面白いって言ってくれて。それで、ちゃんときれいな用紙に書いたら学級じゅうを回っていて、あまり話したこともない男の子から『面白かったよ』なんて言われて。それが私にとって初めて不特定多数の人が喜んでくれて嬉しいと感じた経験でした。それで、いまも同じようなことをやっていますけれど、そういうふうに楽しくてワクワクすることって、そんなに変わらないですよね」
そうした自分の中に眠るワクワクを認識すること。そして、それに取り組んでみること。それが、いずれ立派な第3の活動にまで成長する可能性があるのだ。
なぜ「第3の活動」で本業の仕事が充実するのか?
ただ、そのワクワクを発見するのは案外難しいのではないか。有川さんは、とにかく動いていれば何か見つかる、と話す。
「動いていれば必ず感動することや、ちょっと面白そうといったことが出てきますので、とにかくやってみる。セミナーでも料理教室でも何でもいいので、チャレンジしてみるといいと思います。あとは成果を発表できる場や人に喜んでもらえる場があると、とてもやりがいになりますよね。“ヤッター”みたいな。このヤッター感が大事なんですよ」(有川さん)
そのヤッター感を実現した人がいる。
本業で不動産ポータルサイトの営業をしながら、NPO法人「二枚目の名刺」(http://nimaime.com/)でボランティア活動をしている藤崎梢さん(30歳)だ。
「『二枚目の名刺』には、毎年1回行っている夏フェスという一大イベントのプロジェクトメンバーとして参加したのが最初です。夏フェスでは、ゲストスピーカーの講演会やNPO法人のプレゼンテーション、座談セッションなどを企画し、のべ600人の方にご来場いただきました。いろいろな職種や年齢、バックグラウンドの人が集まり、ひとつのイベントを作り上げたときの喜びは、たとえようもないものがありました」(藤崎さん)
学生時代からボランティア活動をしてきたという藤崎さん。現在も、『二枚目の名刺』のほかに別のNPO法人や同窓会組織などに関わり、ゆくゆくは5枚ぐらい名刺を持ちたいと目を輝かせる。そうした本業以外の取り組みによってリア充度が増していく。「第3の活動」で“フル充電”し、それを「第1の活動」(仕事)にも循環できるようなサイクルが生まれる可能性もあるかもしれない。
会社をあげて働き方変革をしているリクルートマーケティングパートナーズの総務担当として働きながら、NPO法人 子育て学協会(http://kosodategaku.jp/)の理事を務める前田陽子さん(48歳)も、副業の中から達成感を感じている。
「もともと短大の保育科を卒業しているので、子どもにはずっと興味がありました。けれども自分が現場の先生をやるというイメージがわかなかったんです。そんなときに家族をサポートするチャイルドファミリーコンサルタントという資格があると知って、まさにこれだって。資格を取って1年後に、協会からお仕事の依頼をもらうようになりました。今は提携保育園の保護者会で講演することが多いのですが、人前で自分の考えを伝えるのは私にとってハードルの高い仕事。本業では裏方的な仕事ですから。でも本業では出てこない自分の一面が出てきて、うまくいったときは役に立てた充実感でいっぱいです」
本業や現在の部署とは異なるジャンルの活動をやってみる。それが思いもかけず、自分の中の潜在能力を引き出していくのだ。もちろん、「第3」とはいえ、いい加減に接することはしないのがポイントになるだろう。
60代男性が「第3の活動」に目覚めたきっかけ
そして、藤崎さんも前田さんも、まずは「興味あり」から入り、楽しみながら継続している。この“継続”がとにかく大事、と前出の有川さんも語る。
「私の経験上、たいてい3年やったら食べていけて、5年やったら、ある程度ベテランと言われて、10年やったら教えるレベルになれます。だからこそ長く続けることが大事だし、そのためにはやっぱり好きなことをやったほうがいい。会社を辞めても、私にはこれがあるというものがあれば強いですよね」
有川さんの知り合いの編集者は、ヨガのインストラクターの免許をとったものの、年齢が年齢なだけに続けていけるかどうか心配だった。それを聞いた有川さんはこう伝えたという。
「私がもしヨガを習うなら、20代や30代の若い先生ではなく、60代の先生に習いたい。40代や50代の体のこともよく知っているし、年をとってどこが動かなくなるか、ご本人もわかっているわけですから、年配のヨガの先生は絶対に需要があるって話しました」
自分で諦めてしまったら、そこでおしまい。ニーズは意外なところに転がっているものだし、何より自分が好きなことを続けると精神衛生上もいいはずだ。
世の中の価値観にとらわれず、自分の好きなことを深めていく、そうすると人生の可能性が広がっていくのだ。第3の活動は、まだ見ぬ自分の大きな可能性を探るプロセスともなるかもしれない。
ところで有川さんが今、夢中になっている第3の活動とは何だろうか。
「“自然に触れ合う”ことですかね。最近、鹿児島県の限界集落と呼ばれるようなところに田舎暮らしの家を持ったのですが、庭の野草で料理したり、薬草で虫刺されを手当てしたり、こういう自然と触れ合う生活が、今まで都会生活を送ってきた私にとってはすごく新鮮で。近所のおばあちゃんたちにもらった手作りの煮物や漬け物が本当においしくて……、そうやって感動すると食や健康や環境にも興味が出てきて、また第3の活動につながっていくんですよね」