日本において、HeForSheは始まったばかり。これまでのダイバーシティ施策と何が違うのか、コミットしている3人に聞きました。
What is HeForShe?
・ジェンダー平等を推進するための運動
・女性が直面する不平等や差別をなくすために、男性を含めたすべての人々が関わらなくてはならないという認識に基づくもの
・個人の意識、行動を変える
──まず「HeForShe」とは何かを教えていただけますか。
【福嶌】2014年9月に発表されたUN Womenの運動“ジェンダー”平等のためのキャンペーンです。基本的な考え方は、「ジェンダー平等のためには、女性だけでなく男性の理解とサポートが必要」「ジェンダー平等は女性のためだけでなく、すべての人々のためになる」というもので、これにご賛同いただける方に署名をいただいています。
──署名はUN Women本部のウェブサイトでできるんですね。
【福嶌】はい。署名をすると、「あなたの国でジェンダー平等を進めるためには何が重要だと思うか」という問いかけが出てきます。その答えを教育、健康、アイデンティティ、仕事、暴力、政治という6つの選択肢から選んで投票できるようになっていて、自分の国の現在の投票結果が見られるんです。世界地図の国のリストをクリックして国別の結果を見ると、「暴力」が最も高い国もありますし、「教育」が高い国もあります。日本の場合は、「仕事」が最も高く、「教育」などの項目は比較的低い。教育についてはかなり平等が進んでいるけれど、仕事となるとまだ平等ではないという意識が伺えます。
──PwCさんは、HeForSheにどのような立場で関わっていらっしゃるのですか。
【福嶌】HeForSheのキャンペーンを進めるにあたり、世界で10名の首脳、10名の企業の最高経営責任者、それから10名の大学の指導者を「インパクトチャンピオン」として進めていくということになりました。
【梅木】PwCは以前からダイバーシティに取り組んでいたことが評価され、10企業の1つに選ばれたという経緯があります。
ダイバーシティマネジメントとは何が違うのか
──HeForSheの現場のプログラムを推進されているのが梅木さんですが、真っ先に取り組まれたのは、どんなことですか。
【梅木】まず、マネジメントとトップクラスの男性リーダーたちの会合に出て行って、「PwCがHeForShe を推進するのは、ビジネスのため、生き残るためです。これは経営戦略上、どうしてもやらざるを得ないものです」と説明しました。
グローバルのPwCでは、2019年までに全世界で23万人のPwCのメンバーのうち、男性職員の80%がHeForSheにプレッジ(賛同)するという目標を打ち出しているのですが、日本はほかの国と比べて達成率が低いのです。そこで先日も社内でHeForShe のカフェを開きました。お昼休みに人が集まりそうなところに行って、「HeForSheの説明を聞いてくださった方にはコーヒーとクッキーをプレゼントします」と勧誘して、賛同者を募っています。
【木村】われわれもダイバーシティを進めるなかで、自分と違う人たちと一緒に仕事をして、「なるほど、こういう力が出るんだな」と納得するという経験は、徐々に積んできています。そういう中でHeForShe のプログラムに参加すると、「なるほど女性というのは、男性とは違った考え方、感性、能力を持っている。ここにもいろんなオポチュニティがあるんだな」という気づきがある。それを日々真剣に感じていると思います。
──よく言われるダイバーシティマネジメントとHeForShe の違いはどこにあるのでしょう。
【梅木】HeForShe もジェンダーダイバーシティの活動のうちの1つですが、ダイバーシティ推進というと、いままでは「企業が人事施策としてやることだ」と受け止められていたと思います。でもHeForSheは企業が取り組むものではなく、個人として取り組むものです。職場であれ家庭であれ第3のコミュニティであれ、いたるところで個人としてイクオリティ(平等)の考えを常に持ち、言葉のかけ方や振る舞いについて気をつけていくというところが、いちばんの違いではないかと思います。
ダイバーシティは、トップダウンが重要だと言われますね。でもその一方で、一緒に仕事をするチームメンバー一人ひとりが意識を変えて行動しないと、いつまでたってもジェンダー平等は達成できないのではないでしょうか。
これは私なりの解釈ですが、これまでのダイバーシティがトップダウンなら、HeForShe はボトムアップ。両方を組み合わせることによって、初めて平等が成し遂げられるのではないかと思います。
【木村】そうですね。粘り強く、いろんな機会をとらえて思い出してもらうようにする。ダイバーシティの課題はジェンダー以外にもあるけれど、ダイバーシティが進めば自分たちが成長していけるという実感をひとつでも多く持つことで、より加速度が高まっていくと思いますね。
私にとってのHeとは……
──梅木さん、福嶌さんにとってのHeがいたら、教えてください。
【梅木】以前、アメリカ人の男性上司が、私をシニアマネージャーに推薦してくれたことがありました。そのとき私はマネージャーでしたが、上の子がまだ3歳で、2人目がお腹の中。責任を果たす自信がないといって、昇進を断ったんです。するとその上司が言いました。
「自信があるかどうかを聞いているんじゃなくて、やってみたいかどうかを聞いているんですよ。梅木さんがやってみたいと思うなら、やってごらんなさい。僕がサポートするから」。その言葉に背中を押されて前に踏み出せた。
もう1人のHeは私の夫です。夫の母親もずっと働いていたので、女性が働くのは当然だと思っている人です。子煩悩で、よく子供の面倒を見てくれました。いまは息子をHeForSheのHeにするのが、私の野望です(笑)。
【福嶌】私のHeも上司と夫です。私も夫も外務省に勤務していたので、赴任地が別々になることもありました。夫は私が仕事を続けることをサポートしてくれており、子供の学校の関係で、夫が子供二人を連れて任地に暮らしていたこともあります。
過去の上司もHeですが、1人に限らず、複数の人がそうだったと思います。
──お話をうかがってみて、HeForSheとは一人一人の個性を大事にするとか、目の前の人にきちんと向き合うということなのかな、という気がしました。
【梅木】そうですね。特に新しいコンセプトがあるわけではなく、相手のために自分が何ができるか慮る、というようなことだと思います。実は日本人が得意なことかもしれません。心から納得していただいて、HeForSheにプレッジしていただけたら嬉しいですね。
出典:首相官邸ホームページ