満員電車に乗らざるをえない女性は、どうしたらよいのでしょうか。

誰もが通勤・通学で利用する電車内で起きている痴漢犯罪。被害者が多い犯罪にもかかわらず、解決策が見つからずにいる。もちろん、いくつもの理由があるだろう。私は「社会が痴漢問題に関して共通の認識を持っていない」というのがとりわけ大きな原因だと考えている。

まずは男女差の問題。男性と女性とでは、痴漢に対する意識や考え方がかなり違う。次に住んでいる地域によっても差が出る。電車内の痴漢とは、電車交通網が発達している大都市圏に多発する“地域限定犯罪”でもあるからだ。

年代によっても認識が違う。電車内の痴漢といっても、昔とは違い、最近の10代、20代女子が遭っているのは、痴漢なのか電車が揺れてぶつかっているのかをわからないようにして、だんだん大胆に触ってくる手口で、NOを示すタイミングを逃してしまうことが多いという。

人々の痴漢に対する意識は大きく異なっており、共通認識ができていないのが現状だ。そのため、痴漢対策についても自分の目線で語ってしまいがちである。

たとえば、女性専用車両の設置に対してもさまざまな意見がある。「痴漢に遭いたくなければ、女性専用車両に乗ればいい」という人は、首都圏では、夕方のラッシュ時に女性専用車両があるのが、わずか3路線だと知らないのだろう。

私がヒアリングした女子大生には「女性専用車両に乗るのは怖い」と言う子が少なからずいた。女性専用車両に乗車しづらい空気があるのだ。

私は、痴漢問題を解決に導くためには、この“空気”を変えていくしかないと考えている。

これまでの痴漢対策は、「被害に遭ったら勇気を出して、声を出して!」といった類いで、“痴漢に遭う”のが前提になっていた。けれど、私たち女性は、痴漢に遭って犯人を捕まえたいわけではない。単に、自分が許可していない相手から性的に扱われるのが嫌なだけだ。

しかし「痴漢に遭いたくない」と表明するのが、難しい。それを言うと「痴漢にも相手を選ぶ権利がある(=おまえなんか狙わない=自分に魅力があるとでも思っているのか?)」といった冷やかしが飛んでくるからだ。前述の女子大生が「怖い」とおびえていたのは、この有言無言の揶揄(やゆ)に対してだった。

そんな空気の中、都内在住の女子高校生が「痴漢抑止バッジ」を考案した。高校入学以来、痴漢に遭い続けていた彼女は「二度と痴漢に遭いたくない」という決意を固め、「痴漢は犯罪です」「私は泣き寝入りしません」と書いたカードを作った。カードをバッグのストラップにつけて通学をしたところ、ピタリと痴漢に遭わなくなったのだ。

イラスト=Yooco Tanimoto

「泣き寝入りしません」と意思を示しただけで、加害者“たち”が彼女を狙うのをやめたのは、とても興味深い事象だ。

警察によると、加害者は「大人しそうなタイプ」を狙う傾向にあるという。なかには「嫌がっていたらやめますよ」と言う常習者もいるそうだ。被害者が怖くて声も出せないのを「OKサイン」と都合よく解釈されてはたまらない。だから、事前に痴漢に対して「NO!」を宣言する彼女のアイデアは効果があった。

加害者は、中高生を中心とした年齢層を集中的に狙っている。社会的に弱く、自分に逆らわないように見える子どもをターゲットとしているのだ。

痴漢は、オトナが子どもに対して行っている性的虐待だ。社会全体がその認識を共有することが、問題解決の糸口になると私は考えている。その解決策の一つとして、「痴漢抑止バッジ」は、加害者への抑止効果があるだけでなく、被害者の存在と意思を可視化するツールとなりうる。周囲の目が「この子を守ろう。何かあれば助けよう」となれば、今の状況も変わるに違いない。