「自分『らしい』働き方に伴走したい」と語るリクルートスタッフィング新社長が考える、多様な働き方が生まれる今だからこそ、派遣会社ができることとは。
柏村 美生
株式会社リクルートスタッフィング 代表取締役社長
1998年、明治学院大学社会学部社会福祉学科卒。同年4月、リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。社内新規事業提案制度を活用し、2004年、29歳にして「ゼクシィ」の中国での販路拡大をめざし、上海に赴任。2012年4月、CAPカンパニー美容情報統括部部長、同年10月リクルートライフスタイル執行役員 兼 美容情報統括部長。2015年4月、リクルートホールディングス執行役員(現任)を経て、16年4月から現職。
 

進化する「派遣」サービス

2016年4月、リクルートの人材派遣会社であるリクルートスタッフィングの社長に就任したのが、リクルートホールディングスの執行役員も務める柏村美生さん。1998年にリクルートに入社以来、「中国版ゼクシィ」の立ち上げや、美容院などの検索予約サイト「ホットペッパービューティ」の事業責任者などを経て、リクルートライフスタイル執行役員、リクルートホールディングス執行役員と、販売促進事業を中心にキャリアを重ねてきた。

そのため、人材派遣事業を行うリクルートスタッフィングの社長就任を打診された時は正直驚いたというが、同時に「私自身、リクルートに入社した時から『すべての人に役割のある社会を実現する』という志を持って働いてきました。それは、どの部署、どの会社にいても一貫して大切にしてきた思いなのですが、リクルートスタッフィングという人材ビジネスを展開する会社にアサインされたということで、いよいよ自分自身のテーマのど真ん中にやってきた、という感覚がありました」と話す。

リクルートスタッフィングはいわゆる人材派遣事業の会社だが、業務内容はこれまでの『派遣』のイメージとは大きく変わってきている。柏村さん自身、社長として就任した当初、派遣会社に対して抱いていたイメージが大きく変わったという。

「派遣スタッフの方のニーズに合わせて当社の営業担当がクライアントである企業に新しい働き方を提案するなど、派遣会社の仕事は単なる派遣スタッフの方の紹介には留まりません。事実、子育て中で働く時間に制約がある方が働きやすい、“育児と仕事”の両立を目指せる『短時間ジョブ』、『週4日以下の仕事』や、事務職経験がない若い世代の方が事務職として就業できるようサポートする『キャリアウインク』、インバウンドマーケットに向けた『外国人留学生の販売職派遣サービス』など、多様なサービスを展開しています」

働き方の選択肢の一つに

以前は派遣社員として働くのは、比較的若い女性が多いイメージもあったが、最近では幅広い年代や層へと広がっている。「今、多様な働き方が求められ、実際に生まれていく中で、派遣という仕組みは、働き方の選択肢の一つ。一億総活躍と言われる中で、派遣という仕組みを使って働くことを、ぜひキャリアチェンジの機会として使っていただきたいです。たとえば、『一度、子育てのために会社を退職し、子育てが落ち着いたので再就職したい、でも数年間のブランクがあるので、もう一度働くのが不安』という方には、キャリアのリエントリーという形で派遣会社を使っていただけるのではないかと思っています。実際、派遣社員として働く中で、さらなるキャリアを積んでいるという方も多くいらっしゃいます。女性は特に、20代、30代、40代とライフスタイルも価値観も変わってきます。そうした変化に応じて、その時々のニーズに合わせた働き方を考える際に、弊社をご活用いただければと思います」

Workstyle Makerとして

柏村さんは、リクルートスタッフィングという会社を通じて新しい働き方を創り出していきたい、と話す。「リクルートスタッフィングは“Workstyle Maker” として、働き方の進化に挑戦し続けていきます。それには、さまざまなサービスを展開することももちろんですが、それ以上に、多様化する一人ひとりのニーズにしっかりと寄り添い、多様な働き方を実現することを大切にしていきたいと考えています。

たとえば、『子どもが小学校に上がるまでの1年間は、短時間勤務で働きたい』などといった個人的な要望を自分からお願いして調整する、ということはなかなか難しいものです。そうしたことも我々派遣会社が介在することで、企業のニーズとマッチングできるようにしていますので、『さまざまな制約があり、派遣としては働けないのではないか』と思っている方も、ぜひ一度相談にいらしていただきたいです。また、派遣という仕組みを使って、企業側にも働き方の変化を生み出したいとも考えています。大企業であればあるほど、人事制度などに切り込んで働き方をドラスティックに変えるということは難しい部分もあると思います。一方、派遣社員の受け入れであれば制度の変更は必要なく、ワークシェアリングや短時間勤務といった新しい働き方を、テストケース的に取り入れていただき、そこから全社へ浸透させていく、ということもできると思います」

「すべての人に役割がある社会」を創りたい

柏村さんが、人それぞれの価値観、多様性を重視する原点。それは、自身がテーマとしている「すべての人に役割がある社会」を志すきっかけは学生時代にある。高校生の時に、スペシャルオリンピックスという、パラリンピックの子ども版のようなイベントにボランティアとして参加したことがきっかけで障がい者支援について興味を持った。大学では社会福祉学科に進み、障がい者の方々へのボランティア活動に打ち込んでいた柏村さんは、そのまま社会福祉の道に進むことを考えていたという。しかし、さまざまな活動に参加する中で、支援団体ができる活動の限界も感じ、就職活動の際、悩んだ末にリクルートに入社した。「結局、経済合理性を追求しながらその価値を高めていくことをやらないと、福祉は良くならないのではないか、と考えたのです」

柏村さんは、マイノリティであればあるほど支援が得られにくいという現実があるのではないか、と話す。「『ワーキングマザーのために短時間勤務制度を』といったやり方をすると、一部のマイノリティの人のためのように見え、ワーキングマザーとそうでない人の間に無用なコンフリクトが生まれてしまったりします。そもそも多様な人が多様な働き方を選択できる世の中が実現すれば、ワーキングマザーも介護中の人も自分に合った働き方を選びやすくなります。たとえば、在宅勤務が一般的になれば、通勤困難を抱える障がい者の方も働けるようになります。『らしさ』の数だけ、働き方がある社会、をミッションとして掲げるリクルートスタッフィングが、そうした社会の実現を推進する役割を果たせたらと考えています」

「私も若い頃は、ものすごく働いていたんですよ」と語る、柏村社長。中国赴任時のあまりの慌ただしさから働き方を変え、仕事のやり方を全て見直し、効率化に努めたという。

「らしさ」の数だけ、働き方がある

「『らしさ』の数だけ、働き方がある社会」の実現を目指すリクルートスタッフィング。社長である柏村さん自身は、柏村さん「らしい」働き方はどのようなものなのか。その答えは、「朝型です」とのこと。「朝は5時に起きて、1時間ほどお風呂に入って読書。ビジネス書から小説まで、好きな本を読むこの時間が至福の時です。その後、夫と朝食を済ませて夫婦で通勤。始業の9時までは自分の考えを整理する時間です。朝は一番仕事がはかどります。始業という締め切りがあるので、そこまでに終わらせなくては、と集中して仕事ができるんです。夜遅くまで残業をすることはありません。夜は打ち合わせなどは入れず、会食などで人と会い、情報交換するなどインプットの時間としています。」朝の時間を有効に使うことが、効率的に仕事をする鍵となっているようだ。

では、キャリアの早い段階から管理職として抜擢され、現在は2000人以上の社員を抱える企業のトップとして活躍している柏村さん「らしい」マネジメントとはどのようなものだろうか。柏村さんが大事にしているのは、「『任せる』のではなく『頼る』こと」。そして、「特に女性はもっと頼っていい」と話す。「全ての女性がそうだというわけではありませんが、自分ができないことに目を向けている女性が多いように感じます。男性でも女性でも、完璧になんでもできる人はいません。自分のできること、できないことを自覚して、できないことは人に頼ったらいいと思うのです。最終的にはチームとして最高の成果を出せればいいのですから、メンバーに助けてもらえばいいし、自分の得意なことで精一杯サポートしたらいいと。」

柏村さんは、特に若い女性たちの中に「見えない不安に悩んでいる人が多い」ことが気にかかっているという。「『子どもが生まれたらこの仕事を続けられるか不安』、『管理職は務まらないかもしれないから不安』など……。気持ちはわからないでもないですが、むしろ目の前の仕事を一生懸命やってスキルをつけて、選べる自分を作っておくことの方が大事だと思います。私は、女性という生き物は最後の最後には本当に大事なものを選びとれると思っています。だから、見えない不安からいろいろとあきらめてしまわずに、とことん欲張っていただきたい。そして、欲張るみなさんが、自分『らしい』働き方を生み出せるよう、我々も全力でお手伝いさせていただきたいと考えています」