女性はもともと語学が得意、話好きで社交的といわれるが、英語でのコミュニケーション力に磨きをかけるのは容易ではない。ビジネス英語とどう向き合い、どう学べばいいのか。会議通訳や大学での教育などを通して、ビジネス英語に精通している光藤京子さんに、異文化との付き合い方なども含めて話を聞いた。

力む必要はないが正しい発音、文法で

──光藤さんと英語との出合いについて聞かせてください。

光藤京子 Kyoko Mitsufuji
国際会議通訳者、翻訳会社経営、東京外国語大学で携わった、スピーチ・プレゼンテーション、通訳・翻訳の指導経験を生かして、現在はコンサルタント(TAS &コンサルティング)、著述業。著書に『働く女性の英語術』『働く女性の英語術2nd season』『何でも英語で言ってみる!シンプル英語フレーズ2000』など。

子どものころ教会の日曜学校に出かけたり、海外の児童文学を読んだりして欧米に憧れ、英語に興味を持ちました。小学校6年生でラジオの「基礎英語」を聞き始め、きれいな英語の音に魅せられたのを覚えています。そして高校生のとき、交換留学生として米国中西部の田舎町で約1年過ごしました。日本人は一人もいません。最初は英語のスピードについていけず必死でしたけど、振り返ってみると日本語を一言も話さない環境が語学の習得に大いに役立ちました。

──「品格のある英語」を大切にするようになったきっかけは?

英語にも、上品な表現や、きちんとした場で使う敬語表現はたくさんあります。ビジネスの現場では、やはりそうした英語を使いこなすことが大切です。私自身、就職した通訳派遣会社の社長から「英語は流暢だが、話し方はアメリカの高校生レベル。発音も不正確で中途半端」と指摘され、ショックを受けた経験があります。単に英語が話せることと、仕事で英語を使うことは違うんだと実感し、大人の英語、品格のある英語を意識するようになりました。

──そうした英語を使いこなす具体的なポイントは?

まず大切なのは、上手でなくてもいいから、きれいに発音すること。特に私は、母音の発音をしっかりするように指導してきました。英語には、日本語にはない母音がたくさんあります。例えば、work[wrk]とwalk[wk]の発音が区別できなかったり、farm[frm]とfirm[frm]の母音の違いが曖昧だったりする人は多いもの。曖昧だと何を言っているのか伝わりません。

子音については、後に母音をつけて補わないことが大事。例えば「street」が「ストリート」とジャパニーズイングリッシュになってしまう人は少なくありません。また日本人は、ネイティブのように話そうとして力みすぎるきらいがあります。例えば「r」の発音。アメリカ英語ではこれを強調する傾向がありますが、きつく発音すると聞きづらくなります。

そして、もう一つのポイントは文法です。例えば冠詞や時制がおかしいと残念な英語に見える。文法は難しいと感じる人が多いけれど、英文法を世界で一番勉強しているのは日本人といってもいいでしょう。大学で教えていたとき、アメリカ人の先生から「because」「since」「as」(それぞれ「~だから」を意味する)の違いを逆に質問されて驚きました。「日本人のほうが文法を知っているから」って。中学と高校で文法をちゃんと学んだ人は自信をもって、磨きをかけてください。

違いよりも共通点を意識して

──語学学習における異文化への理解。ビジネスの場で日本人が気を付けたいことは?

日本は「察する文化」、欧米は「表現する文化」ともいわれますが、日本人は外国人に対して必要以上に気を使う傾向がありますね。留学して感じたのは、どの国の人も、うれしいこと、悲しいことは共通しているということでした。英語力が付くほどにその思いは強くなりました。すると、相手と対等でいられるし、自分も堂々としていられます。

確かに欧米の人ははっきりものを言いますが、多くの人は物事をわきまえていて、引くときは引くし、遠慮もします。欧米だけでなく、世界各国のお国柄や文化の違いを知ることは重要ですが、根本的には人間としてみんな一緒なのです。

ただしビジネスの場では、要件や話の流れを整理しておくことが大切です。日本人は得てして婉曲(えんきょく)的な表現や周辺的な話題から話を始めますが、欧米の人には伝わりづらい。まず話す目的をはっきりさせ、言いたいことを明確に伝えること。メールも同じで、最初に関係のない話を長々書くと相手は読む気をなくします。だから私は最初に目的を書きます。そうすると、返事は100%届きますよ。

語学の学習はあることと似ている

──いろいろな英語学習法がありますがポイントは?

モチベーションを保つなら、学校や講座に通うのも一つの方法です。選ぶときは、実力より少し上を狙うといいでしょう。日本人は往々にして自己肯定感が低く、やさしめの講座を選びがちです。あとは少人数で、ディスカッションやプレゼンについても学べるところ。日本人はどうしてもプレゼンする力が弱いといわれますから。

一人で学習するなら、初級者には例えばNHKの「入門ビジネス英語」などもおすすめ。シンプルかつ必要十分なビジネス英語に触れられます。中級者ならフェイスブックなどに主要な英字新聞を登録するのもいいでしょう。無料でいくつかの記事を読めますし、見出しに目を通すだけでも、表現の工夫などを勉強できます。

英語を音読し、それを仲間同士で聞き合うのも効果的な方法です。日本人は他人にも自分にも甘いところがあります。頑張ったから、それでいいと。でもそれでは進歩しません。悪かったところははっきり指摘し、よかったところはちゃんとほめる。自分の英語を見つめることが、英語習得の進歩の鍵を握ります。

語学の学習は、ある面では「athletic」です。ときにストイックに自分を追い込むことが求められるし、失敗してもめげずに立ち上がる精神力が必要です。また、スポーツもコミュニケーションも相手があってこそ成り立つもの。独りよがりではいけません。アスリートは、一日でも練習をさぼると取り戻すのに何日もかかるといいます。英語も同じで、一日でも話さない日があると感覚がにぶってしまう。ですから一人で家にいても英語をブツブツ言うといいですよ。私なんてお風呂の中でもブツブツ言っています(笑)。

ビジネス英語と

きちんと向き合うための

4つのpoint

 

point1 品格のある英語は発音と発声から

上手でなくてもいいから、ていねいに発音することが大事。上手でなくても、ていねいに書かれた字が読みやすいのと一緒だ。同時に発声にも気を付ける。日本人は口先で話しがち。特に女性は声が細く高いため、腹筋を使い、おなかから声を出すよう心がける。

point2 文法は身を助ける

コミュニケーションにおける正しい理解のベースになるのはやはり文法力。正しい英語を話し、書く人は教養があると見なされる。学生時代に習った文法はとても重要だ。加えて、例えばBSの海外ニュースや政治家の演説などに触れていると、実践力が養われる。

point3 異文化を正しく理解する

異文化理解のためには、できるだけ海外に出てみる。大切なのは、一人で出向き、現地の人と交わること。欧米、アジア、中東、アフリカとそれぞれ文化や考え方は違う。その特徴、違いを知ること。ただし、人間としてはみな同じ。違いより、共通点のほうが多い。

point4 客観的に自分を見つめる

日本人は他人にも自分にも甘く、人に批判されることをいやがる傾向がある。だが、悪いところ、いいところをチェックし、客観的に正しく評価することは大切。自分の英語力をしっかり見つめることが、ビジネス英語をブラッシュアップするためには欠かせない。