やりたいことを実現するには、周囲の人々を味方につけることが大事です。この連載では、研修・講演依頼があとをたたないスピーチコンサルタントの矢野香さんに、他者に自分を印象づけるスキルについて聞いていきます。

女性らしいしぐさがビジネスシーンではマイナスに!?

今回は、ジェスチャー(身振り手振り)やポスチャー(姿勢)などの身体表現のなかでも、とくに「女性ならではの身体表現」についてお話しします。注意したいのは、ビジネスにおいては、よかれと思って行っている女性らしいしぐさやマナーが、マイナスに受け止められることがあるということです。

代表例が「手を組む」というポスチャーです。体の正面で手を組んだ(重ねた)立ち姿は、女性らしいしぐさ、マナーとしては美しい姿勢です。ところが、この姿勢は、隠し事をしている、または、自信がないように見えてしまう可能性もあるのです。

 

心理学では、現在のポスチャーが次にどんな行動につながるかで、その人の心を読み取ります。手を前で組んだ人の次の行動とは何でしょうか。例えば「尻込み」が考えられます。尻込みする人は、自信がないように見えてしまいますよね。そのため「手を組む」という美しいポスチャーであっても、自信がないように見える危険性があるのです。

どうしても手を組む必要がある場合は、手の位置を上げるだけで変わります。いわゆる皇室の方々の立ち姿です。ポイントは、体の幹と上腕から肘の内側辺りにすき間をつくること。それによって、堂々としている、落ち着いている、気品がある、という印象を与えます。「手を組む」とは、女性が無意識にとってしまうポージングの一つですので、気をつけましょう。

次に、会議で椅子に座っているときの身体の表現はどうでしょう。女性から「会議で私が提案すると通らないのに、男性が同じような提案をすると通るんです」というご相談をよくいただきます。女性だから差別されていると感じる方が多いのですが、あなたの身体の表現に問題がある可能性はないですか? 言葉で話したことは同じでも、あなたがよかれと思ってやっていた女性らしいしぐさやマナーのポスチャーで、自信なく見せていたのかもしれないのです。

その一つが、膝に手を置く姿勢です。会議中、お行儀よく膝の上で手を重ねていませんか。これも注意したいポーズの一つです。

例えば椅子だけで机がない場面では、相手から全身が見えているため、このポスチャーは「行儀がいい」と評価されるでしょう。しかし、机がある場合は手が見えないため、相手からは“こけし”のように見えています。これでは、どうしても受け身の姿勢に映ってしまいます。

手を隠した姿勢で「絶対にできます」といくら強調しても、上司には受け身に見えるので「こいつに任せれば大丈夫」とはなりません。膝の上に手を置く男性はあまりいません。ですから同じ意見を言ったときに、「こいつならやれるかも」と思われるのは男性が多いのです。

手を出しておくと堂々として見える

では、会議中は手をどこに置けばよいのでしょうか。膝の上ではなく、机の上に出すことをおすすめします。テレビ番組のコメンテーターは必ずセットの上に手を出していますよね。堂々と「自信があります」ということを示したかったら、机の上に手を出しましょう。

会議で頑張って何かを発言しようとする必要はありません。それよりも、会議中に他の人の意見を聞くとき、手を出しておくことのほうが、よっぽど体でやる気を表現しています。しかも、口を開いたときの言葉の重みが変わります。いざ言語表現をするときの効果を上げるためにも、事前に体で準備をしておきましょう。

手を出すための自然なポーズは、メモを取ることです。右利きの人なら、右手で書くとき左手も自然に添えるのでとても堂々と見えます。その際、机に置く小物も意識して。すでに「ビジネスウーマンは“オシャレ”で服を選んではいけない」でお話ししたとおり、小物で「私」を伝えることも大事です。

そして、1対1で人の話を聞くようなときも、とにかく手をたくさん動かしてジェスチャーをしてください。

(米山夏子=イラスト)

手のジェスチャーには種類が3つあります。1つ目は、意味を示すもの。

「ポイントは3つ」と言ったときに、指で3をつくるようなものです。2つ目は、聴衆への働きかけです。例えば、口で「拍手」と言わなくても、実際にその人が手をたたいて拍手すると、周りもつられて拍手しますよね。相手にしてほしい動きを先に自分でするときに使います。

3つ目が、熱意をあらわすときです。イメージとしては、一生懸命、説得しているときに手を振っている人。「こういう必要性があるから、この企画は絶対にするべきで、予算もこれくらい要るんです」と手を振りながら熱弁する人っていませんか?

女性のほとんどはジェスチャーの1と2しかしません。ぜひ3つ目にも取り組んでみてください。強調したいところでは、手を動かす。書類をつくるとき、強調したい箇所を太字にしたり、傍点を打ったり、色文字にしたりしますよね。「私プレゼン」でも、強調するところでは、すべて手を振るようにしてください。

例えば、「私が大事にしているのは、人との出会いです」と言う場合。「人との出会い」太字です。

最初は手を机の上に置いておく。

「人との出会い」というところで手を動かします。ただし、膝の上にあった手がいきなり動くととってつけたようになってしまいます。机の上に置いていた手が動くことがポイントです。あるいは、「私が大事にしている」の「私が」と言うときに自分の胸の前に手をあて、「人との出会いです」で手を振る。これなら自然ですよね。ジェスチャーは難しいと感じる方も、「私」という言葉を話すときに胸に手をあてるだけでも、ジェスチャーを使いこなせるようになりますよ。

もともと女性にはブレスレットやリング、時計など、手の周りを装飾するアイテムが多くあるだけに、手は男性よりも目立ちます。ネイルという武器もあります。

こうした女性ならではの利点を活かしながら、手のジェスチャーやしぐさをうまく使うことで、「私」を伝えていくことができるでしょう。

 
矢野 香
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。NHKキャスター歴17年。大学院で心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号取得。現在、国立大学の教員として研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。全国から研修・講演依頼があとをたたない。著書に『「きちんとしている」と言われる「話し方」の教科書』(プレジデント社)など。http://www.authenty.co.jp/