ロンドンオリンピックで銀メダルを獲得し、日本中を沸かせた三宅宏実さん。リオ五輪は4度目の挑戦――目指すは世界の頂点だ。
シドニー五輪を見て感動「女子でもできる!」
3度目の出場となるロンドンオリンピックで、銀メダルを獲得。トータル197kgを挙げ、試技後の会心のガッツポーズで日本中を沸かせた三宅宏実さん。父はメキシコ五輪銅メダルの三宅義行さん。伯父の三宅義信さんも東京・メキシコ五輪で金メダルを獲得している。重量挙げ界の美しきサラブレッドが競技のスタートラインに立ったのは、シドニー五輪の後、15歳のときだった。
「初めて女子が採用されたシドニーをテレビで見て感動したんです。『女子でもできる!』って」
父と二人三脚で世界を目指したが、アテネは9位、北京は6位に終わり、12年ロンドン、3度目に向けての挑戦は苦難で幕を開けた。
「『三度目の正直だ』と自分を奮い立たせながらも『二度あることは三度ある』という不安もあった。でも『あの悔しさをもう二度と味わいたくない』という気持ちが強かったから『変わりたい。今変わらなければ』と思ったんです」
覚悟を決め、何がダメだったのかを徹底的に分析し、向き合った。
「それまでは父が考えてくれたメニューをこなしていただけ。自分で突き詰めていかなくては強くはなれないと思ったんです」
すべてを自分で決めて動くようになると、同じ練習も、まったく別物のように感じられるようになった。強い自立心が芽生え、自分の限界が押し上げられていく。
「10年かけて『ウエイトリフティングってこういうものだ』っていう感覚にたどり着きました」
結果は自ずとついてきた。10年、11年と続けて日本記録を更新。その先に掴んだのが、ロンドンオリンピックでの銀メダルだった。
一日を一生のように生きる
オリンピックでのウエイトリフティングは、床に置いたバーベルを頭上へ一気に引き上げる〈スナッチ〉3本と、床に置いたバーベルを肩まで引き上げて立ち上がってから、一挙動で頭上へ差し上げる〈クリーン&ジャーク〉3本を行い、各種目の最高挙上重量の合計で順位が決まる。5年かかっても記録は1kg伸ばせるかどうか……。忍耐が必要な競技だが「それがウエイトリフティングの面白さ」と三宅さんは笑う。
「ウエイトリフティングは100%自分次第。終わりはないし、気づきと成長、挑戦の連続です。9割は苦しい。でも結果が出たときの喜びはひとしお」
好きな言葉は「一日一生」。天台宗の僧侶大阿闍梨(酒井雄哉)の言葉だが「父からも昔から『今できることを一生懸命やりなさい』と言われてきた。だから、一日を一生のように生きたい。後悔だけは絶対にしたくないから」。
体の声に耳を傾ける
2016年夏、30歳の節目と共に、4回目の大勝負を迎える。年を重ねるごとに、心や体が心地よいと感じることを何でもやるようになった。春から取り入れたのがヨガだ。
「ヨガのおかげで『ここ意外と硬いんだな』とか『疲労が溜まっているな』とか、気づかなかった体の声に気づけるようになりました」
体が悲鳴をあげていれば、大好きな銭湯で疲労回復をする。
「痛みのある場所に触れながら『今日もありがとう。もう少し頑張ってね』と声をかけるんです」
心身をリラックスさせるために愛用しているのが、アロマやお香。「香りは一瞬で気分を変えてくれますし、疲労した筋肉を緩めてくれます」
練習は1日7時間。黙々と励み、練習内容を粛々とノートに書き留めていく。心と体は、静かに、確実に研ぎ澄まされていく。
「心技体のバランスが取れたときに最高のパフォーマンスができる。無事にリオの試合に立つために準備することが、私の仕事です」
目指すは世界の頂点。彼女のリオ五輪はもう始まっている。
いちごグループホールディングス所属。146cmの小柄な体だが、48kg級のトータル197kg、53kg級のトータル207kg、2階級の日本記録を持ち、全日本選手権を10度制覇。ロンドンオリンピックでは、48kg級で銀メダルを獲得。アテネ、北京、ロンドンに次ぎ、リオが4度目のオリンピック出場。