プレゼンがうまくいく服、自分を印象づける服――。“オシャレ”で選んではいけない、ビジネスウーマンとしての服の選び方とは? 研修・講演依頼があとをたたないスピーチコンサルタントの矢野香さんに教わります。
話す内容に合わせて服装を変える
いつも読んでいただきありがとうございます。今回は、「服装」についてです。自己表現には言語表現(バーバル)と、非言語表現(ノンバーバル)があります。非言語表現には相手の耳に入る音すべてを指す「音声非言語」と、相手の目に入る視覚要素すべてを指す「身体非言語」があります。後者は髪形や洋服、表情やジェスチャーなどいわゆる「見た目」です。その見た目で大きな要素として挙げられるのが、「素の顔は要注意! 話を聴くときの表情のつくり方」でお話しした「表情」、そして今回お話しする「服装」です。
心理学の分野では、服装の効果に関する数多くの実験が行われています。例えば、アメリカの心理学者ビッグマンは服装によって相手の反応がどう違うかを実験しました。電話ボックスにわざと10セントコインを残し、次の人が入ったところで戻る。「ここにコインが置いてなかったか?」と尋ねます。これに対し、きちんと受け答えをしてコインを返してくれたかどうかを、聞き手の服装を変えて比較しました。きちんとした服装の場合は8割からコインが返ってきましたが、汚らしい服装の場合は3割しかコインが返ってきませんでした。つまり、同じことを言っても着ている服装で相手の反応が変わるわけです。
私プレゼンという立場で服を選ぶ際に注意してほしいことは、“オシャレでは選ばない”ということです。では、どういう視点で選べばよいのか? それは、話す内容がより伝わりやすくなる効果を引き出す服を選ぶことです。自分をかわいく見せようといった、プライベートでのオシャレの楽しみとは異なります。ビジネスウーマンとして「この企画を通したい」からこの服、という感覚を身につけていただきたいのです。
会議でプレゼンする日の朝は、話す内容を思い浮かべてください。そして、「その内容を話しそうな服」を着てください。そこにギャップがあってはいけません。ネガティブな問題提起をするプレゼンなのに、花柄やフレアなどフェミニンな服装では合いません。新企画やイノベーションを起こしたい時に就活スタイルと同じようなトラディショナルスーツでは、自分がイノベーションにふさわしく見えません。内容と見た目のギャップを少なくする一貫性が必要です。
自身を示す「アイコン」として服を選ぶ
2つ目のポイントは、自身を示すアイコンとして服を選ぶこと。私はいつも人前に出るときは、この連載のプロフィール写真にもある紺に白いストライプのスーツと決めています。
なぜそんなことをしているのか。理由は「私」を覚えてもらうためです。アナウンスの仕事をしていたころからのこだわりです。NHKでは主に4月から新番組が始まり、2月ごろにそのための写真撮影があります。そのときに着た服とイメージは、1年間はなるべく変えません。長い髪で番組を紹介する写真を撮ったら、1年は髪を切らないほうがいい。ニュースを伝えるにはいつも同じであるほうが安心するし、主役であるニュースを聴いてくれます。
小物を取り入れるだけでも構いません。女性はスカーフやチーフ、ブローチなどのアクセサリーでも応用できます。いつもどこかにピンクを使っている、いつもどこかに蝶や花の柄を使っているというように、色か柄を統一することで「この色はこの人」というイメージをつくり出すことができます。
「Aさんはいつもピンクが好きと言っているから、ピンクのハンカチを贈ろう」というように、あの人に贈りたいと思わせる人になる。これがブランディング、自分をアイコン化していくということです。
さらに、アイコンには意味が必要です。「いつもグリーンを着ていますね」「蝶の柄、好きですよね」と言われたときに、「そうなんです、好きなんです」だけではなく、なぜグリーンなのか、なぜ蝶柄をいつも取り入れているのかを説明しましょう。アイコンを通じて自分のPRや話を膨らませることができます。
例えば、蝶をアイコンに取り入れたあるクライアントの女性。蝶には新しく羽ばたくとか、さなぎから蝶になるといった飛躍や誕生といった意味があります。そこで彼女は、蝶の真珠のブローチをつけるようにしました。それだけでなく、ハンカチやノートなどにも蝶柄を取り入れました。彼女は蝶が大好きだったわけではありません。ちょうど役職に就いたタイミングだったので、「私もこれからさなぎから蝶に変わりたいし、大きくチャレンジしていきたいから」と話すための仕掛けです。「こういうメッセージを人に話したい」と考えたら、「そのモチーフとしてちょうどいいのは何だろう」と逆算する必要があります。色も同じで、その色から印象に残る自分のスピーチができるかどうかが大切です。
いかに自分を印象づけられるかが大切
シャネルをアイコンにした女性経営者のクライアントもいます。ココ・シャネルの言葉に、「20歳の顔は自然から授かったもの。30歳の顔は自分の生きざま。だけど50歳の顔には、あなたの価値がにじみ出る」という名言があります。ある女性経営者はそんなシャネルの考え方が好きだそうです。「シャネルは働く女性たちを、動きにくかったコルセットから解放した人。私も働く女性の応援をしたいから」とおっしゃいました。これらの例のようにオシャレではなく、いかに自分を印象づけられる話ができるか。そんな装いが大切なのです。
コンセプトアイコンを決めるポイントは、シャネルをアイコンにした女性経営者のように、ココ・シャネルがこう言っていたから、と人と重ねると見つけやすいようです。「皇后美智子さまが使っていらっしゃるので」など、好きな方の愛用品という見つけ方です。女性では少ないかもしれませんが、「社長が」「創業者が」でも構いません。
自分で戦略を立てたアイコンの服装で私をプレゼンしていきましょう!
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。NHKキャスター歴17年。大学院で心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号取得。現在、国立大学の教員として研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。全国から研修・講演依頼があとをたたない。著書に、ベストセラー『その話し方では軽すぎます! エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)など。http://www.authenty.co.jp/