シンガポールに拠点があり、東京のメンバーとは非対面でのコミュニケーションがメインという、ディー・エヌ・エー執行役員のムラマリさん。資料もメールも使わない超高効率な仕事術とは?

1. 投資家向けの資料も作らず資金調達に成功

「資料の作り方」特集でこんなことを言うのは申し訳ないのですが、私はめったに資料を作りません。別に確固たるポリシーがあるわけではなく、今まで作る必要を感じなかっただけなのですが。私は今まで2回会社を起こしているのですが、そのときも普通なら作るような「事業計画書」や「会社概要」など投資家向けのプレゼン資料は作りませんでした。

それでどうやって投資を引き出したかというと、基本的には口頭での説明です。たとえば今、私はウェブやアプリで「iemo」という住まいの情報を提供するサービスをしているのですが、こういうものは紙の資料で説明するより、実物を見てもらったほうが早いんですよね。

生活の情報が集まるプラットフォーム「iemo(イエモ)」

最近もある方に「iemo」を説明する機会がありました。そんなときはスススッとその人の横に行き、スマホの画面を見ていただく。百聞は一見にしかずで、このほうが絶対に臨場感が伝わります。これで今までやってこられたので、ちゃんとした資料を作るクセがつかなかったのかもしれません。

ただ、まったく資料を作らないわけではなくて、メンバーやほかの部門の人がサポートしてくれることもあります。でもそれはあくまで参考資料というか、会話のはじめのアイスブレークに使う程度。話しているうちに、資料の存在はほとんど関係なくなる。

大事なのは最初の5分、10分で相手が今、何を知りたがっているかをつかむこと。そして質問のキャッチボールをして、そこを深掘りしていく。しっかり資料を作って、それに沿って説明しようとすると、資料に振り回されてしまう気がするんです。

2. 脱・予定調和! 文字を少なく、ふわっと2行で

資料にとらわれると面白くなくなるのはプレゼンだけでなく、講演も同じ。

私は「iemo」をDeNAに売却後、同社の役員になりましたが、現在シンガポールに住んでいます。日本のメンバーと連絡をとりながら遠隔地で仕事をする働き方が面白いということで、講演をさせていただくことがあります。そういうときはパワポで資料を作りますが、これは自分のための備忘録のような位置づけです。1ページに1行か2行、抽象的でふわっとしたことを書いておく。そうすれば、その場の雰囲気によって途中を飛ばしたり、言い方を変えたりしても聞いている人が変に思わない形で進められるんですよね。

ムラマリさんの超シンプル資料(左上から時計回りに)
 

「きちんとした資料を作らないのは、不安じゃないですか?」と聞かれることもありますが、あまり不安はないですね。

たとえば会議でも目指すべきゴールは結構シンプル。ゴールにさえたどり着けるならどの道を通っていってもいいんですよ。それに人間って、あまり長い言葉は覚えていられない。だから文字は少ないほうが印象に残るし、写真やイラストなどビジュアルのほうがイメージがよく伝わる。私はプライベートでも日常的に写真を撮るのですが、それを仕事の資料に流用することがよくありますね。

3. 報告も企画も議事録もチャットで終了!

そもそも私があまり資料を作らないのは、IT企業で働いているからかもしれません。たとえばメンバーとのやりとりはメールではなく、「スラック」というチャットを使っています。それにDeNAは資料を紙では保存しない文化なのです。なぜなら、いくらでもドキュメントを共有できるクラウドシステムを利用しているから。

iemo 代表取締役CEO/ディー・エヌ・エー執行役員 村田マリさん

だから必ず作る資料といえば議事録くらい。議事録さえあれば、あとはいらないんじゃないかな。「言った言わない」のトラブルを防ぐためにも議事録は必要ですけど、それもわざわざきれいに清書して書面に起こすのではなく、会議中にみんながいろんなことをワーッと書いたホワイトボードそのものを写真に撮る。それをチャットにペタッと張ればすぐに共有できるんです。

モバイルのサービスをやっているとたまにシステムのトラブルがありますが、それも画面をキャプチャーして「こういう不具合がありました」と一言添えて、チャットの問題解決専用スレッドに上げておく。これで報告完了。それを見た担当者がすぐに対応するようになっています。

企画提案も同じです。大上段に構えてカッコいい企画書を作るのではなく、アイデアを思い思いにチャットに投稿するだけ。こうなると資料の作り方のうまい下手はあまり関係なくて、本質的なアイデアの良しあしだけで判断するようになります。きれいな企画書とか、カッコいい企画書を作ることを目指すと、そこに意識が向いてしまうので、本質的じゃないと思うんですよ。本当は企画の内容をよくすることに時間を有効に使いたいですよね。

ただ私も凝り性なところがあるので、たまにパワポで資料を作っているときなど、つい色やけい線の太さ、フォントにこだわってしまうことも。でも将来的にはほとんどの企業で、紙の資料は作らなくなるような気がします。

村田マリ
iemo 代表取締役CEO ディー・エヌ・エー執行役員。2000年サイバーエージェントに新卒入社。05年コントロールプラスを設立し12年に事業売却。13年にiemoを設立。14年に同社をDeNAへ売却。執行役員に就任。